・第4章〜「敵討ち」〜・
1週間後、彼らの姿はレアル村より更に北東に向かった山の中にあった。
「・・・しかし、グロエステも考えたもんだね。これだけ用意周到に事を運ぶんであれば、次にぶつかる時ははっきり言ってエスフェラント王国、ヤバイんじゃないの?」
草をかき分けつつ、フーイが一番後ろのクティルに尋ねる。
「ん〜、しかしそれでもなお、軍事力的にはグロエステの3倍程度の力は保有しているはずですし、エスフェラント王国がそう簡単に落ちるとも思えませんよ?」
「しかしまあ、楽観は禁物だな」
そう言って、フーイは一旦後ろを見た。
「メイムちゃん、大丈夫か?」
「うん、大丈夫。これでも私、体力にはそこそこ自身があるんだ」
そう言って、にっこりと笑うメイム。
「ん〜、体力自慢の半妖精族と言うのも、珍しい話だよな」
苦笑いしつつ、フーイがそう言う。
「フーイ、時代は常に動いています。か弱い地の属性の妖精族が居たって、力自慢の森の属性の妖精族が居たって、おかしくはないですよ」
「ま、摩訶不思議はこの世の中ぞ、ってやつか。歌のネタには困らんくて良いねぇ」
そうやって、おしゃべりをしながらしばらく歩いた後。
「・・・あれだな」
『赤い剣』を名乗る盗賊団の本拠地とおぼしき場所の側までやってきた。
「しかしまあ、あの情報、まんざらうそでもなかった、と言う訳か。出所がかなり怪しい情報だったがな」
「盗賊ギルドに高いお金を払った情報です。確かでしょう」
「おかげでこっちはすっからかんだ。次の町で歌って稼がないと・・・ってところで、今は目の前の敵に集中するか」
そう言うと、フーイはしゃがみこんだ。
「一応おさらい。俺とクティルで先頭を切っていく。まあもっとも、俺の方が剣術は得意だから俺が先頭を行くことになるとは思うけどな」
「そうですね」
フーイの言葉にクティルが頷く。
「んで、メイムちゃんは俺達の間に入っていて、俺達をサポートすると」
「うん・・・でも、サポートって言われても・・・」
少しだけ不安げな表情をするメイム。
「こらこら、絶対付いて行くって、言い出したのは誰だ?」
そう言って、フーイはメイムのおでこをちょんとつついた。
「うぅ・・・」
「大丈夫だ。メイムちゃんは何があっても守ってやる。今は敵討ちのことだけ考えておきな」
「・・・うん」
「よし、じゃあ行くぞ。クティル先生、盛大にやってやってくださいな♪」
「ふっ、任せなさい。ちょうどいい具合に、かがり火もあちこちにたいてあるしね。
『我が声の聞こえし火の精霊達よ、今宵は祭り日ぞ。その日にふさわしき踊りを舞い踊れ!』」
次の瞬間、砦のあちこちから火の手が上がった。
何やら騒ぎが起きているのも聞こえてくる。
「続いて第2段!『我が声の聞こえし土の精霊達よ、汝らと火の精霊達は楽しき友人なり。心行くまで舞い踊れ!』」
すると、今度は土煙が立ち込めはじめた。
「更に第3段!『我が声の聞こえし風の精霊達よ、汝らは土、火の精霊達と親しき友人なり。この宴に花を添えるべく、楽しく舞い踊れ!』」
すると更に、竜巻が発生しだした。
「・・・すごい・・・私、あんなにまで精霊さんを操ったこと無いよ?」
メイムがその光景を見て、すっかり驚いている。
「まあな。この辺りだと、クティルほどの使い手はそうそういないんじゃないかな?」
そう言うと、フーイは愛用の剣の柄を取り出した。
「さて、じゃあそろそろ行きますか!」
砦の中は、舞い散る土と燃え盛る炎、そして吹き荒れる突風により完全に混乱状態に陥っていた。
「お〜らおらおらおら〜!死にたくないやつはさっさと逃げな〜っ!」
この騒ぎの中、フーイが切り込んできたのを見て、盗賊達はすっかり恐れをなしてほとんどが逃げ出していた。
「・・・ま、雑魚はこんなもんだろう。親玉は・・・っと、早速登場かい」
見ると、4人ほど側近を従えた人相の悪い男がこちらに向かってくるのが見えた。
「やい、そこの若造!」
「を、28才でも若いって言ってくれるんだ。うれしいねぇ」
嬉しそうに言い返すフーイ。
「・・・何をアホな事抜かしやがる!てめぇ、よくも俺達の住処をむちゃくちゃにしてくれたな!生きては返さんぞ!」
しかしフーイはまったく臆する風もなく、
「アホはそっちだろ」
と言い返した。
「な、何だと・・・!」
「勝手に砦は作るわ、勝手に人の国は荒らすは、あまつさえ人殺し、盗み、その他諸々。今更その罪、許されると思ってんのか?」
「ほざけ!ここでは俺が法律だ!おい、やっちまえ!」
そう言われるが早いか、4人の側近が剣を抜いて近寄ってくる。
「クティル!今回は本気を出させてもらうぞ!」
剣の柄を構えたフーイがクティルにそう叫ぶ。
「どうぞご自由に」
涼しい顔をしてクティルは答えた。それを聞いたメイムが不思議そうな顔をする。
「ねぇ、フーイお兄ちゃんって、今まで本気じゃなかったの?」
「え?ああ、彼は本業は吟遊詩人ですから、無益な殺生とかはしない主義なんです。ただし、彼を怒らせたら、その辺りは荒れ地になりますよ」
ぶんっ!
フーイが剣を実体化させる。
「精神剣術者か。哀れな。すぐに疲れてしまうだろうに。命乞いをするなら今のうちだぞ」
それを見た敵の一人がそう声をかけてくる。
「ふっふっふ、甘いな。試してみないと解らんだろう?」
「・・・かかれっ!」
そして、4人が切りかかってきた。
カキーン!
一人の男がすばやく剣を振り下ろす。しかし、フーイはあっさりとかわす。
「遅いっ!」
かわしたままの体勢から横になぎ払う。その一撃で、一人が倒された。
「なにっ?!」
それを見た残りの3人のうち、二人が同じに振りかぶってくる。
ガキーン!
それを、剣を横に向けて受け止める。と、そこに3人目が切りかかってきた。
「はあっ!」
ひゅん!
それを、受け止めた剣を流しつつ横にかわすフーイ。そのまま、また一人を倒した。
「チェスト〜っ!」
返す刃でまた一人を倒す。
「でやっ!」
そのままの勢いで、残り一人も倒してしまった。
「・・・そんなばかな・・・」
首領格の男はそれを呆然として見ていた。
「だから言っただろう?試してみないと解らんって」
そう言って、にやりとフーイが笑う。
「・・・うぬぬ・・・しかしまあ、それはこっちだって同じ話だ!」
そう言うと、男は剣の柄を取り出し、構えた。
「おや、そちらも精神剣術士か」
ぶん!
フーイのものよりも2倍はあろうかという剣が実体化する。
「お前だけが精神剣術士と言う訳ではないのだ。行くぞ!」
ぱちっ!
精神剣同士がぶつかり合い、火花を飛ばす。
「へっ、なかなかやるじゃん」
フーイが少し間合いを取って、そう言う。
「貴様もな」
男もそう言う。
「だけど、俺とあんたじゃレベルが違いすぎる。既にあんたの腕は見きった」
「な、何だとっ!」
顔を真っ赤にして怒りながら男が切りかかってきた。
ぶんっ!
ガキーン!
それを紙一重でかわすと、フーイは男の剣の柄を叩き折ってしまった。
「あっ!!」
「メイムちゃん、今だ!」
「うんっ!お父さん、お母さんのかたき〜っ!やあっ!」
ぐさっ。
「ぐああ〜〜〜〜〜〜っ!!!」
・・・ばたっ。
数日後、3人の姿はエスフェラントの町の中にあった。
「・・・さて、これからどこに流れますか、流浪の吟遊詩人どの?」
町の広場で、噴水に腰掛けたまま、クティルが聞いてきた。
「・・・そうさな。今、グロエステの方向に向かうと戦いに巻き込まれるだろうし。かといって、南に引き返すと砂漠だしなぁ・・・」
「あの、私、東のアクランテに行きたいな」
と、メイムが話に入ってきた。
「アクランテ?あの、『森の国』って言われている、あの国か?」
「うん。木がとても大きい国だって」
顔を見合わせるフーイとクティル。
「そこに、何かあるのかい?」
フーイが尋ねた。
「うん、お母さんの故郷があるんだ」
そう言うと、メイムは少しうつむく。
手にはしっかりと、両親の遺髪が握られていた。
「あ、なるほど」
フーイは納得した。
「そうだな。じゃあ、お父さんとお母さんをそこに連れて行くか」
そう言って、フーイはメイムの頭をなでた。
「うん。お父さん達、私がもう少し大きくなったら、アクランテに引っ越す予定だったし・・・」
そう言うと、メイムは顔を上げた。
「でも、いいの?私なんかの意見で勝手に決めちゃって?」
「旅に理由なんか必要無いさ。行きたい所があるから行く。そうやって、俺達は今まで旅してきたんだ。これからも、ずっとな・・・」
そう言って、フーイは東の空を眺めた。
空は、どこまでも澄んでいて、ただ青かった。
・エピローグ・
「・・・こうして、彼らは『森の国』と呼ばれるアクランテに向かうことになったんだ」
「んで、その先は?」
「その先はだが、・・・おっと、もうこんな時間か。今日は少し疲れた。続きは明日ということでよろしいかな?」
「何だよ、気を持たせておいて〜」
酒場の中に笑い声が広がる。
「すまんね。俺もそんなに若くはないということかな?まあ、そういう訳で、半妖精のメイムを加えた3人の珍道中だが、明日をお楽しみということにしてくれ」
「よし、じゃあ、村を守って死んでいったその半妖精の両親に敬意を表して、乾杯だ!」
「おおっ、乾杯〜!!」
「ルミワレス」の街、「砂の船」亭にて。
夜は静かにふけてゆく・・・。