小樽水上オルゴール堂シリーズ・番外編
「3月の小春日和」
(Episode:HM−13b4・芹凪、HM−13f375・美菜子(ToHeartオリジナルキャラ)
/連載SSシリーズ1作目・番外編第9話)
それは、朝から天気が良かった日。
ちょっとの用事で、外に出て見ますと。
「・・・あら?」
外に出ると、ものすごく暖かい日。
道路を見ると、雪が溶けて、小さな流れになって流れて行っています。
どうやら今日は、いわゆる「小春日和」と言う物らしいですね。
天気予報では曇りと出ていたので、ちょっとだけ得した気分です。
「マスター、外、すごく暖かいですよ」
家の中に戻ると、私は居間で新聞を読んでいたマスターにそう教えます。
「ほう、そんなに暖かいのかい? どれどれ」
マスターは新聞を置くと、そのまま縁側に出て行きました。
私も後を追いかけます。
「へぇ、本当に暖かいねぇ」
「そうですね」
しばらく、そうやって縁側で二人してひなたぼっこ。
「・・・よし、それだったら」
と、マスター、そう一言言い残して、家の中に戻ってしまいました。
「?」
しばらく見ていますと、マスターは玄関から物置へ。
何やら探しているようでしたが。
「・・・お、あったあった」
嬉しそうな顔をして、つるはしを持ち出して来ます。
「マスター、つるはしを何に使うのですか?」
「ん? ああ、ちょっと家の前の氷割りをね」
そう言って、マスターは早速家の前の氷割りを始めました。
「・・・・・・」
私は、縁側からその様子を眺めています。
「・・・春を、呼ぶ儀式ですね」
ふと、口から出たそんな言葉。
「ああ、そうだよ」
そう言ってにっこりと笑ったマスターの顔は、とても嬉しそうでした。
「ふみゅ・・・あ・・・」
寝返りを打って、そこで目が覚めて。
時計を見たら、もう9時を過ぎていた。
「うう〜・・・お休みとは言え、ちょっと寝すぎかなぁ・・・」
起き上がって、簡単に髪を整えてから、部屋を出て。
「おはようございます〜・・・って、あれ?」
いつもの様にダイニングに入って行くと、そこには誰も居なかった。
「あれれ? いつもなら宗さん、新聞読んでいる筈なのに」
そう思って、ふと縁側を見ると、芹凪姉ちゃんがひなたぼっこ中。
「おはよう、芹凪姉ちゃん。ひなたぼっこ?」
「あ、おはよう、ミナちゃん。うん、今日はとても暖かいわよ」
言われて、私も縁側に。
「あ、本当だ」
外に出ると、すごく暖かい。
「・・・うん、小春日和だね」
「そうね」
そんな事を話しながら、二人でのんびりひなたぼっこ。
かつん、かつん。
家の前の方では、宗さんがつるはしを振るって。
「・・・そっか、もうすぐそんな季節なんだね」
「うん。でも、まだちょっと早いかしら?」
「そうだね〜。あと・・・4月になって、5月が近くなったら、雪、無くなるかな?」
「そうね・・・」
朝ご飯を食べるのも忘れて、そんなゆるやかな時間を楽しむ。
「早く・・・」
「え?」
私のつぶやきに、芹凪姉ちゃんがこちらを向いて。
「早く、春が来るといいなぁ」
「・・・うん。そうね」
雪の季節も好きだけど。
私は一番、春が好き。
かつん、かつん。
リズムに乗って、家の前の道路の氷を割って行く。
かつん、かつん。
かつん、かつん。
「・・・ふう、こんな感じかな?」
しばらくつるはしを振るって。
家の前の道はだいたい終った。
「あ、マスター、お茶入れますね」
と、それまでずっとひなたぼっこをしながら見ていたらしい芹凪が、そう言って家の中へ。
「あ、芹凪姉ちゃん、私も手伝うよ」
と、いつの間にか一緒に見ていたらしい美菜子も、一緒に家の中へ。
「やれやれ・・・」
いくら暖かいとはいえ、ずっと見ている事も無かっただろうに。
苦笑いしながら、つるはしを物置にしまい、私は家の中へ戻った。
「はい、今日はレモンティーです」
芹凪が、そう言ってカップを置いて行く。
「お、ありがとう。・・・って、美菜子、今朝ご飯か?」
ふと美菜子の方を見ると、ティーカップと共にトーストと目玉焼きが置いてあった。
「うん、何かひなたぼっこしながら宗さんの氷割りを眺めていたら、朝ご飯遅くなっちゃって・・・」
そう言ってちょっと赤くなる美菜子。
「・・・そうだなぁ、じゃあ、昼はみんなでひなたぼっこしながら縁側で食べようか」
「あ、良いですね」
「うん、私も賛成」
そう言ってにっこりと笑う二人。
そんな、3月の小春日和の日。