小樽水上オルゴール堂シリーズ・番外編
「3月の雨、3月の雪」
(Episode:HM−13b4・芹凪、HM−13f375・美菜子(ToHeartオリジナルキャラ)
/連載SSシリーズ1作目・番外編第10話)


− 雨 〜美菜子〜 −

 とある、お休みの日。
 朝起きて、ふと外を見て見ると、雨が降って居た。
 今年に入って、初めての雨。

「いってきま〜す!」
 お気に入りのリュックを背負って、お気に入りの傘を持って。
 朝ご飯を食べ終わると、すぐに家を出た。

 行く場所は、街の運河沿いの通りの中ほどにある自転車屋さん。
 毎年、初めての雨が降った時に、営業を始める、おなじみの自転車屋さん。

 路面電車に乗って、街で降りて。
 運河の通りを、駆け足で通り過ぎて。

「・・・あ、開いてる」

 今年もやっぱり、雨と一緒に店をあけて居た。
 いつもお世話になって居る、おなじみの自転車屋さん。

「こんにちわ〜!」
「いらっしゃい〜・・・やあ、美菜子ちゃんか。今年も一番乗りだよ」
「えへへ・・・」
 だって。
 冬の間、ずっと待っていたんだから。

「今日は、何を持っていくんだい?」
「えっとね、それじゃあ、ブレーキワイヤーとスタンドと・・・あと、何かオシャレっぽいカゴ、無いかな?」
「カゴかい? それならほら、あそこの藤で編んだカゴなんかどうだい? うちのお得意さんが作ってくれたんだけど、物は確かだよ」

 見せてもらった藤のカゴ。
 私なんかが言うのも何だけど、何か味がある感じがして、すごく気に入った。
 コレを付けたら、いい自転車が出来るなぁ・・・。

「・・・ふーん・・・何か、すごく良いね」
「だろう? 特別に安くしておくよ」
「うん」

 そして、私のリュックに、今日買ったものが入って。
 何か、ちょっとだけ嬉しい。

「毎度ありがとうね」
「ううん、こっちこそ。それじゃあ、またね〜」
「うん、またゆっくり遊びにおいでよ」
「うん、じゃね〜」

 私は、今度はゆっくりと、運河の通りを歩いて。
 帰ったら、早速今日買ったカゴを、今作って居る自転車に付けて見ようっと。

− 雪 〜芹凪〜 −

 とある、お休みの次の日。
 朝起きて、ふと外を見て見ますと、雪が降って居ました。
 雪、と言うよりは、吹雪と言った方が近いです。

 こんな日は、お店にもお客様はなかなか来ません。
 お店のカウンターから、ただ、外を眺めるだけ。

 いくら眺めて居ても、雪はやみそうにありません。
 諦めて、お店の掃除をする事にしましょう。

 さっさっさっ。
 さっさっさっ。

 ころころころ。
 ちりんちりん。
 と、オルゴールの置いてある、陳列ケースの下。
 丁度、私の見えない位置から、軽い音を立てて、何かが転がり出して来ました。
「あら、何かしら?」

 拾い上げると、それは少し小さめの鈴。
 前に美菜子ちゃんとお揃いで買ったキーホルダーに付いて居たものでしたけど、前にお店のお掃除をして居る時に無くしてしまって。
 すっかり諦めて居たんですけど、こんな所に有ったんですね。

 掃除を終わらせて、またカウンターに座って。
 でも、さっきまでの憂鬱な気分は、もうありません。

「えっと・・・これを・・・こうして、と」
 ちょっと、苦労しましたけど。
「・・・なおった」
 キーホルダーに、元どおり、小さな鈴。

 ちりんちりん。
 軽く、澄んだ音色がまた聞こえるようになりました。

〜 おしまい♪ 〜