小樽水上オルゴール堂シリーズ
「第20話『それぞれのお花見模様 〜芹凪の場合〜』」
(Episode:HM−13b4・芹凪、HM−13f375・美菜子(ToHeartオリジナルキャラ)
/連載SSシリーズ1作目・第20話)
「・・・と、あと、お魚を焼く網がもうぼろぼろになっちゃったんで、新しいのを買って来てもらえます?」
「解った。他には?」
「えっと・・・ええ、それで終わりです。では、私はお花見の準備をして置きますね」
「ああ、頼むよ。じゃあ、行って来るね」
「はい、お気をつけて」
マスターが車で坂を降りて行くのを確認して、私は家の中へ。
「さ、腕によりをかけて、お花見のお料理を作りましょう」
多分、ご近所さんも集まってくる筈です。
私は、多分来るであろう人達を数えながら、いつもより少し多めにお花見用のお料理を準備して行きます。
そして、最後におだんごを作ろうと思って準備を始めた時。
「ぴんぽーん」
チャイムの音。
今日は朝からお店は開けて居ませんから、母屋の玄関からです。
「はーい、今行きます〜」
おだんご作りはちょっと休憩。私は手を洗ってエプロンで拭きながら、玄関の方に小走りに向かいます。
がちゃり。
玄関を開けて、そこに居たのは・・・。
「や、芹凪さん、久しぶり」
「あ・・・神楽さん!」
そこに居たのは、以前オルゴールの修理で伺った事が有る、常田さんのお宅に居た、神楽さんでした。
「おかげで、体の方、修理出来てさ。また動けるようになったんで、一言お礼を言いたくてね、来ちゃった」
「そうだったんですか。でも、良かったですね」
「うん。これも、芹凪さんのおかげだよ。ありがとうね」
そう言って、神楽さんは頭を下げました。
「い、いえ、私は何も・・・」
「でも、芹凪さんが来てくれたから、私の体の不調の場所も解ったし、修理してくれる人も来てくれたし。旦那様と奥様も言って居たけど、本当、芹凪さんには感謝しても感謝し足りないくらいだって」
「な、何だかそう言われると、照れちゃいますね」
少し、顔が赤くなるのが解ります。
「・・・ところで、今日は店はやって居ないみたいだけど、何か有るの?」
ふと思い出したように、神楽さんが聞いてきました。
「あ、今日は裏の庭でお花見をやるんですよ。・・・そうだ、もし宜しければ、神楽さんもご一緒にどうですか?」
「あ・・・ゴメン、実は街の方に旦那様と奥様、それに智弘の3人を待たせてあるんだ」
私がお誘いすると、神楽さんはちょっと残念そうな顔をして、そんな答え。
「あら・・・そうだったのですか」
「うん、今日は他の用事で小樽に来たついでで寄っただけなんで。悪いね、今度また誘ってよ」
「ええ、お待ちしております」
私は、そう言ってにっこりと笑った。
「じゃあ、また遊びに来るよ。その時は、あなたの妹さん、紹介してね」
「はい、また遊びに来て下さいね」
坂を、手を振りながら下って行く神楽さんを、私は姿が見えなくなるまで手を振って見送って居ました。
「・・・良かったですね」
私は、見えなくなって行く後ろ姿に、そっとつぶやきました。
「はい、出来上がりです」
出来上がったおだんごを御重につめて、お花見のお料理の準備は出来ました。
「な〜」
と、今までどこに隠れていたのか、たまさんが足元にやって来ました。
「たまさん、今日はお外でお花見ですよ」
「にゃあ〜」
「はい、たまさんとシロさんの分も準備してありますよ」
「にゃ」
「そうですね。ではそろそろ裏庭に敷物を敷きましょうか」
裏庭に、敷物を敷きに出ます。その後ろをたまさんがとことことついて来ます。
「・・・そうですね〜・・・うーん」
敷物を敷く所で、私はちょっと悩みました。さて、どんな風に敷きましょう?
「うーん・・・」
「お、芹凪ちゃん、きょうはお花見かい?」
と、垣根の向こうから裏のおじいさんの声。
「あ、はい。もし宜しければおじいさんもご一緒にどうですか?」
「おお、じゃあ喜んで招かれるとしようかな」
うれしそうに笑うおじいさんの顔。私もうれしくなります。
「はい。昼から始めますので、昼頃に来て下さいね」
「わかった。じゃあ、何か適当に土産を見繕って置こうかな。確か蔵の中に・・・」
そう言いながらおじいさんは家の方に戻ろうとしたのですが、ふと思い出したようにこちらを振り返って。
「そうだ。芹凪さん、花見の敷物は、桜の下を囲う様に敷くと気分が出て良いよ」
「あ、そうですか? じゃあそうしましょう」
アドバイスを頂き、私は八重桜の木の下に、木を囲う様に敷物を敷きました。
「さ、後はみんなが帰って来るのを待つだけです」
食べ物と飲み物を木の下に運び、私は木のすぐ側に座りました。
後は、みんなが帰って来るのを待つだけです。
...It continues to the next season.