小樽水上オルゴール堂シリーズ
「第19話『それぞれのお花見模様 〜美菜子の場合〜』」
(Episode:HM−13b4・芹凪、HM−13f375・美菜子(ToHeartオリジナルキャラ)
/連載SSシリーズ1作目・第19話)
「よいしょ、よいしょ・・・」
山向こうの島田さんのお宅は、本当に山を越えた向こうに有る。
私の自転車は、一応そんな場合でも楽に走れるように切り替えの段数は多いけど。
「・・・でも、やっぱりちょっと疲れるよ」
春にしてはやけに暑い小樽の空を見上げながら、思わずそんなことを言いながら。
「・・・でも、楽しみにしてたもんね、島田さんの奥さん」
島田さんの奥さんとは、あの「兎屋」の前で会った。
その時、島田さんの奥さんは、お腹が大きくて。
で、私が店を出ると、丁度お腹を押さえてしゃがみこんじゃって。
慌ててそばを走っていた車を止めて、病院まで連れていって貰って。
・・・そして、島田さんの奥さんは元気な女の子の赤ちゃんを産んだんだよ。
それから、暫く私はその事を忘れていたんだけど、ある日私御指名でオルゴールの注文が入って来たんだよね。
お客様は島田さんの奥さん。
あの時のお礼を兼ねて、ぜひとも私のオルゴールを買いたいって。
「こりゃあ、美菜子、張り切って作らないとな」
「うん!」
宗さんもそう言ってくれたけど、私も、俄然張り切って。
何でも、赤ちゃんに聞かせる為のオルゴールにするんだって。
そう言われたら、頑張らないとね。
山を降りて、少し走ると、畑の中に見えて来る一軒家。
そこが、島田さんのお宅。
私が家の方に近づいていくと、丁度畑仕事をしている最中だった。
「島田さん、こんにちわ〜」
「あ〜! 美菜子ちゃん、いらっしゃい〜!!」
「お久しぶりです〜。体はもう大丈夫なの?」
「うん、もう全然大丈夫。ほら」
久しぶりに会った島田さんの奥さんは、そう言ってスコップ片手にガッツポーズをしていた。
「ん? こちらのお嬢さん、お前の知り合いか?」
「あ、こちらは、ほら、私が朋子を産んだ時の、病院に連れていってくれた美菜子ちゃん。美菜子ちゃん、こっちはうちの亭主ね」
「あ、どうも初めまして」
「おお、あんたが美菜子ちゃんか。イヤ、その節はうちの家内がすっかりお世話になっちゃって。本当にどうもありがとう」
「いえいえ、どう致しまして」
「じゃあ、コレがそのオルゴールね」
そう言って、私はオルゴールを奥さんに手渡した。
「ありがとう。じゃあ早速開けて見ようかしら」
そう言いながら、奥さんは包みを開けて。
「・・・わあ・・・すごく立派で綺麗」
「あはは・・・ちょっと、頑張って作りました」
私はそう言って照れ笑い。
今回作ったオルゴールは、花の模様をあしらった木の箱に収まったオルゴール。
そして、オルゴールの曲は子守り歌。
「これなら、きっと朋子も気に入ってくれると思うわ。ありがとう」
「いえいえ、どう致しまして」
「あ、そうだ。せっかくだから美菜子ちゃん、朋子に会っていってよ」
「え? 良いの?」
「うん、是非見ていって」
「じゃあ、喜んで♪」
本当言うと、赤ちゃん見ていきたかったんだよね〜。
「こっちの揺りかごの中に・・・あら? 朋子起きてるわ。美菜子ちゃんが来た事、解ったのかしら?」
そう言って、島田さんは朋子ちゃんを抱き上げて、私に見せてくれた。
「・・・か・・・かわいい〜!」
朋子ちゃんは、まん丸い目で、私をじっと見ていて。
「朋子、このお姉ちゃんが、あなたを生んだ時に付き添ってくれた美菜子ちゃんだよ」
「朋子ちゃん、よろしくね」
そう言って、私は朋子ちゃんの小さい手に指を添えて見た。
すると、朋子ちゃん、私の指をきゅっと握ってくれて、そして、にこっと笑ってくれた。
「わぁ・・・本当にかわいい〜・・・」
「ふふ、朋子、美菜子ちゃんの事気に入ったみたいね」
「え? どうしてですか?」
「この子ね、見知らぬ人が来ると、結構泣き出すのよ。何か人見知りが激しいみたいなのよね。だけど、美菜子ちゃん見て笑ってるから、多分解ったんだと思うわよ」
「そうなの?」
「うん。赤ちゃんってね、不思議な力が有るって、私のお母さんも言ってたしね」
「そうなんだ・・・私は、赤ちゃんだった事って無いから、よく解らないよ」
「そっか、美菜子ちゃんって、ロボットの人だったっけ」
「うん。・・・でも、無い物ねだっても仕方ないしね」
そう言って、私はにっこりと笑った。
「じゃあ、今日は本当にありがとうね」
「いえいえ。コレからも御贔屓下さい」
帰り支度をした私は、そう言って、自転車にまたがった。
「それじゃあ、またね♪」
「うん。また、そのうち朋子に会いに来てあげてね」
「うん、絶対来るよ!」
最後に右手をひらひらさせて、私は走り始めた。
「はぁ・・・でも、朋子ちゃん、本当に可愛かったなぁ〜」
帰りの自転車、山道を登りながら。
「・・・本当に、来て良かったよ」
心からそう思えた、少し暑い、春の日。
...It continues to the next season.