小樽水上オルゴール堂シリーズ
「第21話『それぞれのお花見模様 〜そして皆集いて〜』」
(Episode:HM−13b4・芹凪、HM−13f375・美菜子(ToHeartオリジナルキャラ)
/連載SSシリーズ1作目・第21話)
・宗一郎・
町での用事が終わり、家への道を行く途中での事。
「お、またこれは実にタイミングの良い事」
私はそうつぶやきながら、車のクラクションを鳴らす。
ぷっぷー。
「?」
「やあ、由希子ちゃん」
「あ、店長さん!」
車を道路わきに止めると、由希子ちゃんは車の方まで走ってきた。
「どしたの、今日は?」
「え、ええと・・・何となく暇になっちゃって・・・その、美菜子さんとどこかに遊びに行こうかなぁ〜って・・・あはは」
そう言って、照れたように話す由希子ちゃん。
何かすっかり美菜子が気に入ってしまったらしく、最近は何かにつけて一緒に行動して回ってる。
「なるほど、だったら丁度いいや。由希子ちゃん、うち、今日花見を裏庭でするんだよ。良かったら一緒にお花見しない?」
「え? いいんですか?」
「もちろん、断る理由なんてどこにも無いよ。さ、乗って」
そう言って、私は助手席のロックを外した。
「ありがとうございます〜」
由希子ちゃんは嬉しそうに乗り込んで来た。
「悪いけど、戻る前に1件寄る所が有るんだ。いいかな?」
「はい、構いませんよ」
次に寄ったのは、加藤さんのお宅。
先日頼んでおいた、大量の部品が出来上がったそうなので、先月の支払いとまとめて取りに行く事にしたのだ。
「やあ、加藤さん」
「お〜、宗君が直接来るなんて、珍しいなぁ」
「まあ、ちょっと町に買い出しがありましたんで。はいこれ、お代です」
「お〜、すまねえな。これ、この前頼まれてた部品な」
「はい、こちらこそありがとうございます」
代金と引き換えのような形で、大量の部品がきれいに分類された箱を受け取る。
いつものように、きれいにまとまっている部品の数々。
いつもながら、見事な出来だ。
「相変わらず良い仕事していますね」
「お〜、そりゃあおめえ、俺の飯はこれで稼いでるからな。手ぇ抜いちゃお客様に失礼ってもんよ」
そう言って加藤さんはわははと笑う。
私が加藤さんの品物に、全面的な信頼を置いてる訳が、ここに有る。
お互い、職人なのだ。
そうそう、せっかくだから、加藤さんもお誘いしないと。
「そうそう、今日、うち、お花見やるんですよ。加藤さんもどうですか?」
「お〜、いいねぇ。じゃあよ、まだ残ってる一仕事終わらせたら行くからよ」
加藤さんはそう嬉しそうに言った。
「はい、お待ちしております。じゃあ、また後で」
「お〜、ありがとよ〜」
・美菜子・
「ただいま〜!」
私が自転車から降りて裏庭に回ると、丁度芹凪姉ちゃんが裏庭にバスケットを運ぶ所だった。
「あ、お帰り、ミナちゃん。もうすぐで準備終わるから、その辺に座って待っていて」
「あ、じゃあ私も手伝うよ」
リュックを玄関わきに置いて、私は勝手口に回った。
「でも、疲れてない?」
「ううん、平気平気。それよりさ、早く準備しちゃおうよ」
「・・・そうね。じゃあ、そこのバスケット、運んでくれる?」
「うん、解ったよ」
よいしょ、と、バスケットを持ちあげる。
あ、ちょっと重いかな?
「・・・芹凪姉ちゃん、こんなに一杯、何を準備したの?」
「うんと、そのバスケットは、飲み物よ。多分マスターも何人かお客様連れてくると思うから、その人たちの分もね」
「あ、そっか」
そんな感じで、バスケットをいくつか裏庭に運ぶ。
「わん!」
シロが、何か手伝うことはない? と聞いてきた。
「え〜っと、シロはさ、そこで待っててくれない?」
「くぅーん」
あ、ちょっと残念そう。
「あはは、ごめんごめん、もうちょっとで終わるからさ」
「シロさん、たまさんを呼んできてもらえませんか? さっきまでその辺に居たのに、ちょっと見えなくなっちゃって・・・」
「わん!」
芹凪姉ちゃんがそう言うと、シロは嬉しそうに一声鳴いて、どこかへと走り去って行った。
「たま、今どこに居るのかな?」
「さあ? でも、シロさんなら解るんじゃないかしら?」
そう言って、芹凪姉ちゃんはにっこりと笑った。
「・・・うん、そうだね、きっと」
だって・・・家族だもんね。
・芹凪・
「はい、これで準備はおしまい」
最後のバスケットを持ちだして、私は裏庭の敷物に座りました。
「そう言えば、宗さんはまだ帰ってきてないの?」
ミナちゃんが最後のバスケットを受け取りながら聞いてきます。
「ええ、オルゴールの部品を仕入れに行くって言ってたから、多分加藤さんのお宅に寄ってるんじゃないかしら」
そう言った時、丁度家の前の方に聞き慣れた車の音。
「あ、帰ってきたみたいだね」
「そうね、いいタイミング」
「こんにちわ〜」
「ありゃ、由希子ちゃんいらっしゃい」
「あはは、途中店長さんに拾ってもらって、来ちゃいました〜」
そう言いながら由希子ちゃん、ぴょんと言う風に車から降りて、まっすぐにミナちゃんの所へ。
「帰りの途中でこっちに来る所を見かけたから、ついでだし、連れてきたんだ」
「そうでしたか。タイミング良かったんですね」
「そうだね」
そう言いながら車から降ろす荷物を受け取り、私は家の中に運びます。
「やあ、宗一郎君、芹凪さんにお招き頂いたんで、これを土産にやってきたよ」
「ああ、大歓迎ですよ」
マスターが裏のおじいさんとお話をしている横で、私は全員に配る飲み物を準備して行きます。
「にゃ〜」
「わん!」
「あ、シロさんたまさん、そろそろ始めますよ」
丁度いいタイミングで、たまさんを探してくれたシロさんも戻ってきます。
「ああ、芹凪。加藤さんも後から来るって。遅れそうだから、先に始めてようか」
「そうですね。はい、飲み物を」
「お、ありがとう」
「はい、皆さんも、飲み物です」
全員に飲み物を配った所で。
「では、今年もきれいに咲いた花に、かんぱーい」
「お〜、すっかり遅れっちまったなぁ」
「あ、加藤さん、全然遅くないですよ。さあ、こっちにどうぞ〜」
こうして、にぎやかな、でも楽しいお花見が始まります。
...It continues to the next season.