小樽水上オルゴール堂シリーズ
「第18話『それぞれのお花見模様 〜宗一郎の場合〜』」
(Episode:HM−13b4・芹凪、HM−13f375・美菜子(ToHeartオリジナルキャラ)
/連載SSシリーズ1作目・第18話)
2〜3日ほどこの時期にしては珍しく暑い日が続いた、そんなある日の朝。
「ミナちゃん、悪いけど新聞取って来てもらえるかな?」
「うん、良いよ。ちょっと待っててね」
「ゴメンね」
居間に降りていくと、丁度そんな会話が聞こえて来た。
「おはよう、芹凪」
「あ、おはようございます、マスター。新聞、今ミナちゃんに取って来てもらっていますから」
「ああ、聞こえたよ」
そう言って、いすに座って、さてコーヒーを、と思い、カップに手を伸ばした所。
「芹凪姉ちゃん、姉ちゃん! あ、宗さんも良い所に!」
何やら慌ただしく美菜子が戻って来た。
「おはよう、美菜子。何が『良い所に』なんだい?」
「どうしたの、ミナちゃん? そんなに慌てて?」
「いいからいいから! 早く一緒に来てよ〜」
美菜子は、こっちの質問には答えず、私と芹凪の手を引っ張って、どこかへ連れて行こうとした。
「おいおい、一体どうしたんだ?」
そして、訳のわからぬまま手を引っ張られて。
「何だと思う?」
「さあ・・・」
芹凪と、首をかしげつつも、引っ張られるままに美菜子について、そのまま玄関から裏の庭へ・・・。
「ほら、これ・・・」
そう言って、美菜子が指差したもの。
「お、ライラックの花が咲いたんだ」
「あら、もうそんな季節なのね」
そこでは、八重桜の隣に植えてある、ライラックが花を咲かせていた。
既に花が散り始めた八重桜とは対照的である。良く見ると、庭の端の方に植えてあるツツジも、花を咲かせている。
「そうか・・・小樽にも、ライラックが咲く季節が来たか・・・」
「じゃあ、今日はお花見かしら?」
と、芹凪がそんな事を言った。
「マスター、確か春は『ライラックの花が咲いたその日にお花見』でしたよね?」
芹凪がこちらを向いて聞いて来た。
「ああ、そうだったね。じゃあ、今日はお花見にしようか」
「はい」
そう言って、芹凪はにっこりと笑った。
「あ・・・でも、今日は私、山向こうの、島田さんの奥さんにお届け物だよ?」
と、横で頷きながら聞いていた美菜子が、思い出したようにそう言った。
「ああ、そうだったっけ。・・・そうだなぁ、美菜子、今日は他の仕事は何かあるかい?」
「ううん、今日はそれだけだよ」
「じゃあ、午前中に急いで行っておいで。お花見は、美菜子が帰って来て、お昼くらいからにしよう」
「うん!」
「はい、わかりました」
芹凪と美菜子が同時に頷いた。
「それじゃあ、行ってきま〜す!」
「ミナちゃん、気をつけてね」
美菜子が自転車で配達に出た後、私も町に降りる支度をして、外に出た。
「あら? マスターもどちらかに行かれるんですか?」
「ああ。今日のうちに仕入れて置かないといけないオルゴールの部品がいくつか有ってね。悪いけど留守番頼むよ」
「あ、それでしたら、ついでにお買い物お願いしてもいいですか?」
「ああ、任せなさい。で、何を買えばいいんだい?」
「えっと、お砂糖一袋と・・・」
「・・・と、あと、お魚を焼く網がもうぼろぼろになっちゃったんで、新しいのを買って来てもらえます?」
「解った。他には?」
「えっと・・・ええ、それで終わりです。では、私はお花見の準備をして置きますね」
「ああ、頼むよ。じゃあ、行って来るね」
「はい、お気をつけて」
車に乗り込み、芹凪の方に軽く手をあげて、私は小樽の街並みに降りていった。
さて、じゃあ私も急いで用事を終わらせて、花見の準備をするとしようか。
...It continues to the next season.