小樽水上オルゴール堂シリーズ
「第13話『神楽の歌 〜中編〜』」
(Episode:HM−13b4・芹凪、HM−13f375・美菜子(ToHeartオリジナルキャラ)
/連載SSシリーズ1作目・第13話)


 ごとん、ごとん。
 ごとん、ごとん。

「・・・は〜・・・」
 白く霜の付いた窓に息を吹き掛けて、外が見えるようにこすります。
「・・・あ」
 霜を擦り取って見えたそこは、もう札幌の町でした。


『さっぽろ〜、さっぽろ〜。
 ご乗車ありがとうございました、終点・札幌です〜。
 車内に忘れ物などなさらぬようお降りください〜。
 なお、この電車は折り返し、小樽行きとなります〜』

「よい、しょっと」
 降車口から、雪の道路の上に降り立ちます。
「・・・」
 札幌は、ちょっとだけ小樽より雪が多いみたいです。
 多分、小樽が雪が少ないのは、海からの風があるからでしょうね。


 札幌の町に来るのは初めてじゃないですけど、一人で来たのは初めてです。
 私は、ミナちゃんに借りたリュックを背負いなおすと、マスターに書いてもらった地図を頼りに歩き始めます。
 常田さんのお宅へは、そこから10分ほど歩いた所にあります。


「ここですね」
 地図と照らし合わせて、着いた先。
 お庭に大きな木が何本も生えて居る、古い感じのするお宅。
『縁側とかで休ませて頂いた事があるけど、いい雰囲気のお宅だよ』と言っていた、マスターの言葉にも頷けます。
「・・・さて、と」
 あまり見とれていても仕方ありませんし、私は扉の所に有る呼び鈴を鳴らします。

 りーん、りーん。

 しばらくして、扉の向こうに人の気配。
『はーい、どなた?』
「あ、水上オルゴール堂です。お手紙を頂いて、オルゴールを見に参りました」
『あら、オルゴール屋さん? ちょっと待っててね』
 がちゃがちゃ、がちゃん。
 扉が開いて、中から、初老のご婦人が出てこられました。
「・・・あら? 神楽さん?」
「え?」
「・・・あ、いや、ごめんなさい。私の思い違いね」
「・・・?」
 何の事か疑問に思いましたが、ご婦人に招かれましたので取り敢えずその事は忘れて、招きに応じて中に入りました。

「こちらよ」
「お邪魔致します」
 通されたお部屋、そこにはずらりと、いろいろなアンティークの物が置いてあります。
 そんな中に、いくつかのオルゴール。
 その様子に、ついつい見とれてしまいます。
「見て欲しいのはね、このオルゴールなの」
 そう言って、ご婦人・・・常田さんの奥様が出されたオルゴールは、化粧箱の中に収められた、ふたの裏に鏡が付いている、ちょっとした小物入れをあしらったオルゴールでした。
「えっと、私、マスターほどオルゴールに詳しくないので、もしかしたらどこが悪いのかとか、解らないかもしれませんが・・・」
「良いのよ。わざわざ遠い所を来てくださっただけでも嬉しいわ」
 奥様は、そう言ってにこやかに笑って下さいました。
 その笑顔に励まされて、早速オルゴールを見る事にします。

 しばらく調べて見て。
 良かった、私でもこのオルゴールの調子の悪い原因が解りました。
「この、軸の部分に木の破片の様な物が挟まって居ますよね」
「ええ、私でも解るわ」
「これが多分原因ですね。これを取り除いて・・・と。ちょっと、鳴らして見ましょう」
 そうして、ねじを巻いて、ふたを開けます。
 箱の中から、澄んだオルゴールの音色。
「ああ、良かった。ちゃんと直ったわね。ありがとう」
 嬉しそうな奥様。私も嬉しくなります。


 その後、誘われて一緒にお茶をする事になりました。
「・・・そう言えば、お孫さんがこのオルゴールを気に入って居た、とお伺いしたのですが、そのお孫さんは?」
「あ、智弘かい? 智弘は今日はうちの旦那と一緒にちょっと出かけて居るのよ。もう少ししたら帰って来ると思うわ」
 丁度その時、呼び鈴の音と一緒に、
『おばあちゃん、ただいま〜!』
と、元気の良い声。
「あら、うわさをすればなんとやら、ね。ちょっと待って居てね」
 奥様はそう言い残して、玄関の方へ。
『ただいま』
『はいはい、お疲れ様でした』
『おばあちゃん、今日一緒に来たら良かったのに。すっごく楽しかったよ?』
『ごめんなさいね、今日はちょっとお家のお掃除をしてたから。それより智弘、あのオルゴール直ったわよ』
 ばたん。
 扉が開いて、見た感じ7〜8才位の男の子が入って来ました。
「え? 本当に・・・?」
 と、私の方を向いて、一瞬驚いたような顔。
 そして。
「か、神楽姉ちゃん?」
「・・・え?」
「おばあちゃん、神楽姉ちゃんだよ! 何で早く教えてくれなかったの!?」
 そう言って、智弘君は私の方に駆け寄って来て。
「・・・あ・・・でも、良く見たら、違う・・・」
 そう言って、すごく残念そうな顔。
「その人はね、隣の、小樽のオルゴール屋さんなのよ」
「初めまして、芹凪と申します。よろしくお願いしますね」
 私はそう言って、軽く挨拶をしました。
「芹凪さんかぁ。でも、本当神楽姉ちゃんそっくりだから、見間違えちゃったよ」
「そうねぇ。神楽さんもセリオタイプのロボットだから、間違っても仕方ないかもね」

 場が落ち着いて、今度は常田さんのご主人と智弘君を混ぜてのお茶会になりました。
「あの・・・つかぬ事を伺いますが・・・」
「あら、何かしら?」
 本当は、こんな事を聞いても良いのかどうか、迷って居ましたけど。
 でも、やっぱり私も気になるから。
「あの・・・先程言って居た、『神楽』って、どなたですか? 察するに、私と同じ、セリオタイプのロボットだと思うのですが・・・」
 そう行った瞬間、他の3人の表示が硬くなるのが解りました。
 ・・・やっはり、聞いてはいけない事だったのでしょうか。

「・・・そうね。あなたの姉妹の事だから、芹凪さんには話しても良いかしら、ね、あなた?」
「・・・そうだな」
 無口だけど優しそうなご主人が、静かに頷きました。
「芹凪さん、あなたは、型番はいくつ?」
「え? えっと、b4ですけど?」
「そう、じゃあ神楽さんはあなたの妹にあたるのね」
 そう言って奥様は立ち上がり。
「ちょっと、こっちに来てもらえます?」
 と、奥の部屋へ。

 通された先、そこにあったものは。
「眠って居るみたいでしょう? ずっと、このままなのよ」
「・・・・・・」
 そこには、かつて私も使って居た、メンテナンスコンピューターに接続されて、メンテナンスシートに横たわって居る、セリオ型ロボット・・・。
「HM−13c135、神楽。私達の所に来た、もう一人の孫よ」
 c型の妹・・・。
「確か、c型の妹たちは、私達の姉妹の中でも一番多く生産された型だと聞いて居ます」
「そうね」
「・・・いつ頃から、このように?」
「そうねぇ・・・そろそろ、3年くらいになるかしら・・・」
「3年ですか・・・」
 私は、メンテナンスコンピューターを見て見ます。
 どうやらシステム自体はまだ正常の様です。
「その機械を使って話をする事は出来るけど、やっぱり面と向かって話をしたいじゃない」
「・・・そうですね」
 そこから、簡単にチェックをして見ましたが。
 結果、解ったのは原因不明のエラーによる本体起動不能。
 至急、サポートに連絡を入れて下さいと言うメッセージが表示されて居ます。
「この時代で、サポートって言ってもねぇ。あの大異変が起きなければ、この子も直してあげられたでしょうに・・・」
 言いながらも、奥様は悲しそうな顔をして。


 その時、私は一つのアイデアが浮かびました。
 うまくいくかは解りませんが、でもここでそれをやって置かないと、私が後で後悔しそうです。


「・・・あの、奥様。実は・・・」


 ...It continues to the next season.