小樽水上オルゴール堂シリーズ
「第7話『それぞれの初雪模様の朝』」
(Episode:HM-13b4・芹凪、HM-13f375・美菜子(ToHeartオリジナルキャラ)
/連載SSシリーズ1作目・第7話)
朝、いつものように窓から差し込む朝日を浴びながら、ふと地面を見下ろしますと。
「あ・・・」
そこは、一面の銀世界になっていました。
どうやら、小樽にも雪の季節が来たようです。
地面の上に、うっすらと雪化粧。
多分、昼には溶けてしまいますけど、それでも今年初めての雪です。
「お久しぶり、そして、初めまして」
雪にそんな挨拶をすると、私は早速ほうきを持って外に出ました。
外に出た私は、お店の前と玄関先を軽くはき掃除します。
さっさっさっ。
今日は、雪でしたけど、ラジオの天気予報は晴れるって言っていましたね。
さっさっさっ。
すぐに溶けちゃうのかしら。ちょっと、もったいないかな。
さっさっさっ。
そう言えば、今日は加藤さんがうちに来られる日でしたね。
坂、上がってこれるかしら?
さっさっさっ。
ちりんちりん。
新聞配達のアルバイトのお兄さんがやって来ました。
自転車で来たけど、大丈夫かしら?
「おはよ~ございます~」
「おはようございます。雪なのに大変ですね」
「いえいえ、うちらはこれが仕事ですからね~。これくらいの雪、まだまだ全然平気ですよ。ハイこれ、朝刊です~」
「ありがとうございます」
「それじゃ、また~」
「はい、頑張って下さいね」
お兄さんは、来た時と同じように、慎重に自転車をこいで、走っていきました。
さっさっさっ。
・・・こんな所かしら。
家の前、お店の入り口の前。
歩いても大丈夫なくらい、雪をよけました。
さて、そろそろ朝ご飯の支度しないとね。
私は、もう一度雪野原になった家の前を眺めてから、家に入って行きました。
後で、雪かきの道具を物置から出さないとね。
朝、起きて。
眠気を覚ますのに、窓を開けて見る。
「あ・・・」
外は、真っ白だった。
「あ~あ、雪降っちゃったよ~・・・」
ダイニング、朝ご飯の場所で。
ため息混じりに私がそう言うと、芹凪姉ちゃんがキッチンからコーヒーを持って来て、私のコップに注ぎながら聞いて来た。
「どうしたの、ため息なんか付いちゃって?」
「だって、雪降っちゃったんだもん・・・」
私はそう言って、ぷ~っとほっぺたを膨らませてテーブルにほおづえを突く。
「ミナちゃん、お行儀悪いわよ。・・・でも、ミナちゃん冬って嫌いだったっけ?」
コーヒーを自分のカップにも注いでから、芹凪姉ちゃんはいつもの席について、聞いて来た。
「嫌いじゃないけど・・・」
そう言って、私はもう一度外を見る。
外は、だんだん明るくなって来ていて。
もしかしたら今日中には溶けるかな?
「・・・宗さんとの約束で、雪が降ったらそのシーズンは、自転車終わりだから・・・」
ぽつり、つぶやくように、私。
「あ・・・そっか・・・」
芹凪姉ちゃんが申し訳無さそうな顔をするけど、私はにっこり笑って、気にしないで、と言って。
丁度そこに、宗さんも起きて来て。
そして、ちょっと遅い朝ご飯が始まった。
「お~い、美菜子~。買い物行ってくるけど、一緒に行くか~?」
大体10時くらいになった頃。宗さんが聞いて来たけど。
私は、今日は大事な儀式が有る。
「あ、ごめんなさい。今日はちょっとやる事あるから、私はいいわ。芹凪姉ちゃんと行って来て」
「そうか、そりゃ残念だなぁ。芹凪も、何か雪かきの道具を物置から出すから、美菜子と行って来てくれって」
宗さんは、そう言って頭をかく。
「何か、二人ともにふられちゃったなぁ~。残念」
本当に残念そうにつぶやく宗さんの仕草が、何かおかしい。
「あはは、ゴメンね。今度ちゃんとつきあうから」
そう言って、両手を合わせる。
「・・・ま、今日は初雪だから仕方ないか」
・・・良かった、やっぱり覚えていてくれたんだ。
「うん・・・これは、宗さんとの約束だから・・・」
「そうか。うん。偉い偉い」
宗さん、そう言って私の頭を撫でてくれた。
何か嬉しくて、でもちょっと恥ずかしくて。
今日はお店もお休み。
私は、自分の部屋に自転車を運びこんだ。
この家に来てから、ずっと一緒に走り続けて来た、大切な友達。
「・・・一年間、ご苦労様。また来年も宜しくね」
私は、自転車にそう言って、今年最後の整備を始めた。
「んじゃ、出かけてくるよ」
「はい、行ってらっしゃい、マスター」
10時を過ぎた辺り、大抵の店が開く頃。
私は、冬囲いに足りない物を買いに行く為に、商店街まで降りる事にした。
二人に、一緒に行かないかと誘ったのだが、二人ともに断られて、結局一人で買い物に。
まあ、仕方ないか。
「え~っと、芹凪の買い物は、みそが一袋と、あと塩3kgで良いのかい?」
「そうですね。・・・あ、あと、油揚げを3袋お願い出来ますか?」
「油揚げね。解った」
私はそう言うと、車の方に歩いて行った。
美菜子の方の買い物のメモは、既に貰ってある。
「あ、マスター、ちょっと待ってもらえます?」
と、一旦家の中に戻った芹凪が再び出て来た。
「? どうしたんだい?」
「マスター、ついでに、これ、お願いします」
そう言って、手渡してくれた小さな紙切れ数枚。
「・・・『商店街謝恩福引券』?」
「ええ、今まで何度かお買い物に行った時に頂いた物を溜めておいたのですが、それの抽選、今日で終わりなんですよ。ついうっかり忘れていて」
そう言って、苦笑いをする芹凪。
「そうか。ま、私はクジ運あまり良くないから、その辺は期待しないでくれよ」
「ええ。残念賞のポケットティッシュでも、頂けるだけ嬉しいです」
そう言いながら、本当に嬉しそうに話す芹凪。
何だか、こっちまで嬉しくなってくる。
「よし、じゃあ目指せ残念賞。んじゃ、行ってくるよ」
「行ってらっしゃい。でも一つくらいは、残念賞以外を引いてきて下さいね」
にっこりと笑って手を振る芹凪の見送りを受けながら、私は車を発車させた。
見ると、雪はすっかり溶けて、あちこちに水たまりが出来ている。
・・・ま、今日は溶けたけど、あと2週間もしたらここも真っ白になるな。
私は、そんな事を考えながら、商店街へと続く道を、車を走らせて行った。
...It continues to the next season.