小樽水上オルゴール堂シリーズ
「第5話『おじいちゃんのオルゴール 〜中編〜』」
(Episode:HM−13b4・芹凪、HM−13f375・美菜子(ToHeartオリジナルキャラ)
/連載SSシリーズ1作目・第5話)
それから数日後。
私は、宗さんが商工組合に頼まれて納入する事になっていた1ダースのオルゴールを収めに、宗さんの代わりに商工組合の方に来ていた。
宗さんは、手が開いたのでさっそくあの仕掛けオルゴールをいろいろ調べているみたい。
ちなみに、今日は芹凪姉ちゃんも一緒に来ている。
スーパーでたまごの安売りが有るから、この用事が終わったら私と一緒に買いに行く事になってるんだよね。
「会長さん、こんにちわ〜」
「おお、美菜子ちゃんか! 久しぶりだねぇ〜、元気にしてた?」
「ええ、おかげさまで」
私はそう言いながら、リュックからオルゴールの入った箱を取り出した。
「はい、これ注文のオルゴール1ダースね」
「おお、ありがとう〜。お蔭で来週からのイベントもいい物になると思うよ」
「どう致しまして」
お代を受け取りながら、私はにっこりと笑った。
「ところで・・・後ろのお嬢さん、美菜子ちゃんそっくりだけど、どなた?」
会長さん、芹凪姉ちゃんの方を向いて私に聞いてきた。
「水上 芹凪と申します。いつも妹がお世話になっております」
芹凪姉ちゃんはそう言ってぺこりと頭を下げた。
「おお、じゃああんたが美菜子ちゃんのお姉さんかぁ〜。イヤ、噂は美菜子ちゃんからいろいろ聞いているよ〜」
「え? 噂、ですか?」
「ああ。『私の自慢の姉ちゃんだ』ってね」
「え!? も、もうミナちゃんったら!」
あはは、芹凪姉ちゃん、照れて真っ赤になってるよ。
「あ、そうだ。ところで、いきなり話は変わるけど・・・」
ふと、何かを思い出したように会長さんが話を変えてきた。
「美菜子ちゃんの所に、最近高校生のお嬢さんのお客さんって、行かなかったかい?」
「高校生のお嬢さんのお客さん?」*2
私は、思わず芹凪姉ちゃんと顔を見合わせてしまった。
「う〜ん・・・うち、結構観光客の人とか一杯来るから、高校生のお嬢さんのお客さんって言われても・・・ねぇ」
「そうですね。私も、お客さんのお顔までは覚えていませんし・・・」
「イヤ、そのお嬢さんっていうのが、何でも古いオルゴールを探しているらしいんだ」
と、これはうちもお世話になっている、古物商の熊田さん。
「うちにも来たし、隣町の笹川さんの所にも行ったらしいんだけど・・・何でも、思い出のオルゴールらしくて、ものすごく真剣に探してたけどね」
「そっか〜・・・じゃあそのうち、うちの店にも来るかもね」
「そうだね、この辺りであとそのお嬢さんが行きそうな所って、水上さん所位しか無い筈だから、行ったら話聞いてあげてよ」
「うん、解ったよ。じゃあ、私たち、そろそろ行くね〜」
「失礼いたします」
「おお、気をつけて帰んなよ〜」
私は手をひらひらさせて、芹凪姉ちゃんはぺこりとおじぎをして、その場を後にした。
その後、私と芹凪姉ちゃんは、スーパーでたまごを買ってから家に帰ると。
「ただいま〜」
「ただいま戻りました」
「お、お帰り〜。丁度いい所に帰ってきたね。ちょっとこれ見てごらん」
宗さん、そう言って私たちを手招きした。
「何々? 何か面白い物でもあるの?」
「イヤ、面白いかどうかはともかく、この前の仕掛けオルゴールなんだけど・・・」
そう言って宗さんが見せてくれたあの仕掛けオルゴールは、天板の板だけ磨かれてぴかぴかになっていた。
「わ、すご〜い! 他はこんなにホコリだらけなのに、ココだけピカピカ!」
「マスター、これ、どうやったのですか?」
「これはね、まずホコリを落としてから、なめし革の布で拭いてみたんだ。元が立派な物だったから、これだけ光るんだよね」
そう言って、宗さんはオルゴールの箱をなでていた。
「・・・前のこれの持ち主の人は、このオルゴールをかなり大切に扱っていたみたいだね。ぜひとも、完全に修理したいなぁ・・・でも、出来るかな?」
宗さん、そう言ってじっとオルゴールを眺めている。
オルゴールの事になると、宗さん人が変わっちゃうしね。
「あれ? まだ中を見てないの?」
「うん、取り敢えず外側の掃除に気を取られちゃってね。ココだけで2時間もかかっちゃったよ、あははは」
そう言って、宗さんは頭を掻いていた。
「ふふふ、マスターらしいですね」
「あ、何かこっそりひどい事言ってないか、芹凪?」
「いえいえ、そんな事ありませんよ。さ、お夕飯の支度をしなくっちゃね」
芹凪姉ちゃんはそう言うと、逃げるようにキッチンの方に行っちゃった。
「・・・逃げたな」
「・・・そうだね」
そう言って、私と宗さんはその場で思いっきり吹き出した。
その夜の事。
工房で、私は今日仕上げたオルゴールを店に並べる準備をしていて。
横では宗さんがあのオルゴールの、中の部分を調べていて。
芹凪姉ちゃんはそんな私たちをいすに座って見ていたんだけど。
ぴんぽーん。
「あら? こんな時間にお客さん?」
そう言って、芹凪姉ちゃんが母屋の方に行く。
その時は、私も宗さんも、気にしていなかったんだけど。
すぐに芹凪姉ちゃんが戻って来て。
「マスター・・・お客様です」
「・・・え、私に?」
私も一緒になって、母屋の玄関の方に行くと、そこには小樽の街中に有る高校の制服を着たお嬢さんが立っていた。
「あ、あの、夜分遅くに申し訳ありません。ちょっと、お尋ねしたい事がありまして・・・」
見た感じ、まだ高校1年生位かな〜。
その女の子は、何かちょっと疲れている様な感じだったけど。
真剣な表情で宗さんの方を向いて。
「あのっ、私、片桐 由希子って言います。今、ちょっと訳が有って、古いオルゴールを探していまして・・・」
「古いオルゴール?」
「はい。私にとって、思い出のオルゴールなんです」
それを聞いてぴんと来た。
昼間、商工組合の会長さんとかが言っていた、「高校生のお嬢さん」って、この娘だ。
芹凪姉ちゃんの方を見ると、芹凪姉ちゃんも頷いていた。
「うーん、でもご覧のとおり、うちはオルゴール屋だから、単に古いオルゴールって言っても、いろいろ入って来ているんだよ。どんなオルゴールか教えてもらえるかい?」
宗さんは頭を掻きながらそう聞くと。
「あの・・・仕掛けオルゴールなんです。これくらいの大きさで、お人形さんが3人入っていて・・・」
「・・・マスター、それって・・・」「宗さん・・・それ・・・」
「ああ、それなら一月位前にうちに入って来たよ」
「ええっ!! 本当ですか!?」
宗さんの答えを聞いた途端、そのお嬢さん・・・由希子ちゃんは、大きい声で身を乗り出すように宗さんの方に聞き返す。
「・・・ふむ・・・何か、深い理由がありそうだね。じゃあ、こんな所で立ち話も何だし、中で詳しい話を聞かせてくれないかな?」
「え?」
由希子ちゃんは驚いたような顔をしていたけど、宗さんはそんな事おかまいなしに。
「芹凪、お客様だ。お茶の準備を頼む」
「はい、解りました」
芹凪姉ちゃんはそう言って、支度をしに家の中に戻って行った。
「え? いえ、あの・・・今日はもう遅いですし・・・」
「いいからいいから。帰りは私が送って行くし、怒られたら一緒に謝ってあげるよ。それに、芹凪の入れる紅茶はとてもおいしいよ。由希子ちゃん、何か疲れているみたいだし、一休みして行きなよ」
宗さんは微笑みながらそう言って玄関を大きく開けた。
私も、にっこり微笑んで。
「そうそう。せっかくだからさ、一緒にお茶しようよ」
そういわれて、由希子ちゃんはしばらく迷っていたみたいだけど。
「・・・じゃ、じゃあお言葉に甘えて・・・」
こうして、夜のお茶会が始まった。
...It continues to the next season.