・第2章〜『テアリック』潜入〜・


 一旦森の外へ出たフーイは、森を迂回するように進んで、『アクランテ』とは反対側から『テアリック』へ進む道に出た。
「しかしまあ、最近事ある毎にごたごたに巻き込まれているような・・・」
 頭を掻きながら、ぼやくフーイ。
「・・・ま、これも歌のネタになると思えば、苦にはならんか」
 相変わらず楽天的ではあったが。

 そうしてしばらく進むと、やがて『テアリック』の街が見えてきた。
 商業都市国家だけあって、城壁で囲まれているとかそう言った事はなされておらず、従って道なりに歩けば、いつの間にかそこが街の中、と言う状態である。
「ふ〜ん、まあそれなりに賑わってはいるわな。もっとも、『ミル=ファレイス』の街ほどじゃないけど」
 周りを見ると、商業の街らしく色々な種類の商店が軒を連ね、それだけでは足りないのか道路にまで店を広げている状態である。

 やがて、フーイは街の中心部までやってきた。
「・・・さて、いざ見に来た・・・はいいけど、これからどうすっかな?」
 周りを見渡しながら、フーイはそんな事をつぶやいていた。
 その時、広場の向こうから何やら大きな「もの」が近づいてくる事に気がついた。
「?」
 よく見ると、それは伐採した木を丸ごと運んで来た物だった。
 明らかに、『アクランテ』の森から伐採して来た物だ。
「・・・あれか・・・って事は、あれの後をついて行けば」
 そう言うと、フーイは少し距離を置いてその木の後をついて行った。

 運ばれた木は、そのまま『テアリック』の町外れまで行き、そこに有る製材所の中に運ばれた。
「ほほう、ここが・・・」
 見ると、ありとあらゆる木工製品がそこで作られていた。
「確かに、あれだけの木の質だ。それなりの物が出来て来るわな。ましてや、鉄と違って木は生活に密着するもんだし・・・」
「おや、こんな所にお客さんとは珍しい」
 と、いきなり後ろからそんな声がした。
 ゆっくりと振り返ると、学者風の若い男が立っていた。その後ろには、付き従うように二人の屈強な男が着いている。
「どうも。あんまり立派な木だったんで、思わず見学に来ちゃいましてね」
 適当な話をして、フーイは注意深く男を観察する。
(オレが後ろに付かれた事に気がつかなかった・・・こいつ、ただもんじゃないな)
「それはどうも。私は、『テアリック』代表、カール・テアリック6世です」
 そう言うと、男〜テアリック6世〜は軽くおじぎをした。
(ほほう、こいつが今回の親玉ねぇ・・・)
「私は名も無き旅の吟遊詩人です。歌のネタとしてはなかなか興味深いものがありますね」
 そう言って、脇に抱えていたリュートを軽く鳴らす。
「ほほう、それはそれは・・・では、今度お聞かせ願えませんか? もちろん、それ相当の報酬は支払わせて頂きますが」
「解りました。出来上がった時にでも。では」
 そう言うと、フーイはその場を立ち去った。

 その日、フーイは街の中心に近い所に宿を取った。
「さて・・・この様子だとかなりの伐採が行われているな・・・ん〜、しかし、その現場も見て見たいし・・・何とか伐採現場まで行けないかな?」
 と、との時。
 ことっ。
「!」
 普通だったら聞き逃すような僅かな音。しかし、フーイはそれに気がつくと、部屋の明かりを消して、部屋の角の方に潜む。
 ・・・・・・。
(・・・気のせいか?)
 そう思った瞬間。
 どがん!!
 凄まじい音を立てて、木製のドアが砕け散った。
 どたどたどた・・・。
 それと同時に、部屋に駆け込んでくる影が3人分。
 3人はそのまま、ベッドのそばに駆け寄ると、いきなり布団を殴りはじめた。どうやら、フーイがベッドで寝ている物と思ったらしい。
「よし、これだけ痛め付けりゃあ、起き上がれないだろう。おい、ひっくくるぞ」
 そう言って、一人が布団をめくる。しかし・・・。
「あ!? ・・・枕?」
「おい、お前ら。誰に頼まれたか知らんが、押し込みならもう少し静かにやったほうがいいぞ」
 と、フーイが後ろから声をかけたので、3人は飛び上がった。
「あ、て、てめぇ!」
「見ず知らずの人間にてめえ呼ばわりされるのは気に食わんが、ここは見逃してやるから、さっさと帰るんだな」
「ふざけるな!おい、やっちまえ!」
 そう言うと、3人は一斉に切りかかって来た。
「・・・やれやれ。人の安眠を妨害した上に、口封じってかい。・・・気に食わんな」
 そんな事を言いながら、フーイは3人の攻撃をひらりとかわし、入り口から逃げ出した。
「今騒ぎを起こすのも起こされるのも得策じゃないしな」
 ・・・ところが。
「あ、奴が出て来たぞ!やっちまえ!」
 何と、宿屋の外にも男が数人待ち構えていた。
「おいおいおい、随分と用心深い押し込みだねぇ。こんなに手際がいいと、多分逃げれないなぁ」
 そう言いながらも、フーイは宿屋の壁を背中にし、仕方なくと言った感じで精神剣の柄を構えた。
 次の瞬間、精神剣が姿を現す。
「お、こいつ精神剣術士だ!よし、奴を疲れさせて捕まえるんだ!」
 そう言うと、男たちは囲むようにして近づいてくる。
(・・・やれやれ。おとなしく捕まってやるのもしゃくだなぁ・・・)
 そんな事を考えながら、フーイは剣を下段に構えた。
 じりっ、じりっ。
 次第に距離をつめてくる、男たち。
 と、右端の男が敷石につまずいた。
 その瞬間、フーイはその男に切りかかっていた。
「せりゃっ!」
 びゅん!
 狙い違わず、右端の男を一瞬にして倒す。
「あっ、この野郎!」
 虚を突かれた形の男たちは慌てて切り返そうとしたが、その時には既にその場にフーイの姿は無かった。
 見ると、道の向こう側を曲がって行く姿が見える。
「あっ、逃げたぞ!」
「追えっ!」
 慌てて駆け出す男たち。

 フーイはその頃、裏道に迷いこんでいた。
「・・・さて、初めて来た街でこう逃げ回ると、まあ当然ながら迷っちまうよなぁ・・・」
 取り敢えずどこかに隠れようと思い、辺りを見回すと、道の向こうから誰かが近づいてくるのが見えた。
「・・・ん?」
 良く良く見ると、フーイはその男に見覚えがあった。
「・・・カール・テアリック6世さんか」
「おや、こんな所で珍しい。昼間の吟遊詩人の方ではありませんか」
 にこやかに近づいてくる。
「あなたもとんだお人だ。吟遊詩人を語って、実はアクランテのスパイだったなんて」
「アクランテのスパイだぁ!? ちょっと待て、何でそうなるんだよ?」
 フーイが抗議するが、カールは笑みを絶やさない。
「じゃあ、何故あんなに剣術が達者なのですか? しかも、精神剣術士とは、正直私も驚かされましたが」
「へっ、やっぱりあの男たちはあんたの差し金か」
 そう言って、フーイは身構える。
「まあまあ、そう構えずに。ただちょっとの間、私の家にご招待したかっただけでございますよ」
 そう言うと、カールはぱちんと指を鳴らした。
 瞬間、フーイの周りに立ちこめる煙。
「こ、これは・・・古代語魔術・・・」
 慌てて口をふさぐフーイ。しかし、少し吸い込んでしまったらしく、途端、猛烈な眠気に襲われる。
「眠りの・・・空気・・・」
 必死に対抗するフーイ。・・・しかし。

(以下、次回更新時に追加執筆予定)