・第3章「第1回土星環会戦」・


<会戦前>
 宇宙。
 かつては誰もがこの未知の領域に対して少なからず興味を持っていた。 だが、時代が流れ、人類が宇宙全体に勢力範囲を広げてしまうと、もはや宇宙は興味の対象にはならなかった。
 そして、その宇宙の一角では、不毛で長い戦いが始まろうとしていた。

 <地球・地球連邦軍総司令本部>
 連邦軍の最高機関である「連邦軍総司令本部」。 そこの一室に、今回の会戦に参加する14人の司令官のうちの12人までが集まっていた。
「えー、今回から前線総司令官をつとめる事になったグエン・ドム・リュー中佐だ。 早速今回の作戦について話したいのだが…」
 そこまで言うと、グエンは言葉を切って室内を見回した。
 室内には、撰び抜かれたエリート司令官が並んでいる…訳がない。 前回の土星会戦でたくさんの人的資源を失った地球連邦軍は、ほとんどやけくそで司令官を大量生産したようだ。 それが証拠にその部屋には、バンドをやっている感じのパンク野郎、熱血野郎、戦闘をさせると突撃しかしそうにない奴、そして、ここにはいないが整備士あがりに根からの空母乗り…。 そんな感じの司令官が並んでいた。
「…司令官が、二人ばかり足りないようだが…」
 そう言って、副官のジョン大尉の方を見た。
「ああ、せつら・W・中村司令なら、先程第4ポートに向かうのを見かけましたが…」
「第4ポート? 確か、彼女の旗艦が置いてあるドックだな。 何をしに行ったんだ、せつら司令は?」
 そう言って、グエンは彼女の副官であるリムディア・レンディム中尉の方を見た。
「じ、実は司令は旗艦の整備に行ったので…」
「旗艦の整備だぁ?!」
「は、はい。 実はせつら司令はこの前整備班から抜擢されて艦隊司令官になったので、自分の旗艦ぐらい自分で整備すると言って…」
 汗を拭きつつリムディア中尉はそう言った。
「…頭が痛い…」
 グエンは思わず頭を抱えてしまった。 その時…。
『グエン司令、緊急事態が発生しました!』
 部屋にあるスピーカーから、かなり慌てたような声が聞こえてきた。
「何事だ?!」
『はい! 小沢多聞司令が、貴下の艦隊ごと同盟に亡命をはかりました!』
「何だとっ! それは本当か!!」
 小沢司令とは、ここにいないもう一人の司令官である。
『はい! 目の前で本人がそう言っていましたので、間違いありません!』
「えーい、なめたまねを!」
 グエンはしばらく何かを考えていた。
「司令、どういたします?」
 ジョン大尉が聞いてきた。
「…よし、決めた。 今回の作戦は、敵艦隊を撃破しつつ、裏切り者である小沢少佐を捕らえる事にある! 名付けて“コマンダー・ハンティング”作戦だ! 全艦隊、出撃準備!」
「了解!」
 グエンの司令を受けて、各艦隊の司令達が準備のために散らばってゆく。 それをながめながら、グエンは和泉の事を考えていた。
(和泉よ、お前もこんな感じの司令官達を率いてくるのか?)

 <ゼムトラン・銀河自由同盟軍総本部>
 一方、同盟軍総本部のとある一室でも作戦の説明が行われていた。 そこには、ちょうど11人の司令官達が集まっていた。
「えー、私が同盟軍最高司令官のレイモンド・ライズ中将だ」
 そう言って、レイモンド中将は言葉を切ると、胃のあたりを抑えてしまった。
「…和泉、すまんが後を頼む。 私はちょっと医務室へ行ってくる…」
「はぁ…」
 室内の司令官の視線を集めながら、レイモンド中将は部屋をよろよろと出て行ってしまった。
(やれやれ、レイモンド中将も大変ですねぇ)
 そう心の中で思いつつ、和泉は向き直った。
「え〜、今回から前線総司令官を任された、和泉中佐です」
 そう言って、和泉は室内を見回した。
(何か、すごい人たちが集まってきましたねぇ)
 その部屋の中には連邦と同様、ありとあらゆるタイプの司令官が並んでいた。 しかも、今回の会戦に同盟軍は制服の制作が間に合わなかったので、彼らはてんでバラバラな格好をしていた。 一見するとお嬢様タイプの女性士官、時代を間違ったとしか思えないような格好をしている者、仏教家のような者、警察官からの成り上がりのような格好をした者、技術屋からの転向者、等々…。 (書くときりがないからここでやめよう)
(もっと軍人らしい格好を、と通達は出しておいたのになぁ)
 そういう彼とエリム大尉(彼女も1階級昇進した)は、モデルタイプの制服を支給されていたのでそれを着用していた。 (その「絵」を後の方に載せてありますので参考にして下さい。 なお、恐らくは正式に採用されると思います)
「では、今回の作戦について説明します。 …まあ、作戦とは言っても今回は相手の戦力を見極めるためだけの戦いになるでしょう。 そこで、あまり無理をしないで、生きて帰ってきて下さい。 これが今回の作戦です」
「…は?」
 これには、そこに居合わせた全員があっけにとられた。 と、その時…。
『こちら前線防衛本部! れ、連邦の艦隊が1艦隊、同盟領に入ってきました!』
「なんだって?!」
 そこに居合わせた司令官達は、今度は驚く番だった。 もちろん、和泉は例外だったが。
「首都星最終防衛艦隊を出撃させて下さい。 あれを出せば、まあ少しは時間が稼げるでしょう。 では、我々も行きますか」
 そう言って、彼は部屋を出ようとした。 すると…。
『ちょっと待ってくれ。 こっちは亡命してきたんだ』
 と言う通信が入ってきた。 …と思う間もなく、同盟軍総本部の上空で、宇宙戦闘機がアクロバット飛行を始めた。
「やあ、なかなかの腕ですねぇ」
 のんびりと和泉がそう言ったとき、部屋の中に和泉と同じくらいの年の司令官が入ってきた。
「“第2航空戦隊”、通称“烈火隊”艦隊司令官、小沢多聞少佐、こちらに正義ありと亡命してきました! 以後よろしく」
 そう言うと小沢少佐は敬礼した。
「はい、よろしく」
 敬礼を返しながら和泉はグエンの事を考えていた。
(グエン、君もこんなすごい艦隊司令官達を連れて来るのかい?)

   〜インターリュード2・会戦勃発〜

 <土星環“横”、グエン艦隊>
「全艦出撃せよ!」
 グエンの号令の元、13の艦隊は戦闘宙域に、それぞれの作戦行動に従って侵攻を開始していく。
(一体、どれだけの司令官が生き残ってくれるのやら…)
 それを眺めながら、グエンは考え込んでいた。
(自分ですら和泉とやり合ったら、命があるかどうかは分からないからな…)
「まもなく、戦闘予想宙域です」
 ジョン大尉がそんな事を考えているグエンに声をかけてきた。
「索敵艇に反応は?」
「今のところ、ありません」
「ふむ…」
(しばらくは戦闘に入らないかな?)
「一応のためだ。 全艦戦闘準備を」
「了解」
 立ち去って行くジョン大尉の後ろ姿を眺めながら、グエンは考え込むことをやめてしまった。
(ま、今更始まったことを考えてもしょうが無いしな)
 そう考えて伸びをしたその時だった。
「敵艦隊発見! 距離、至近!」
「何だと! 索敵できてなかったのか?!」
「捕捉は出来ていませんでした!」
「ええーい、全艦砲撃戦準備! …で、相手は誰だ?!」
 グエンは矢継ぎ早に司令を飛ばしながら、相手を確かめた。
「…和泉司令の和泉艦隊とリーザ司令のリーザ艦隊です!」
「何?! 2艦隊もいるのか?!」

 <和泉艦隊、リーザ艦隊>
 その頃、和泉とリーザはほぼ同じ航路をたどっていた。
「まもなく、グエン艦隊と接触します」
「了解。 それにしても、リーザ司令の航路がほぼ同じと言うのは単なる偶然ですかねぇ?」
 紅茶を飲みながら、和泉は横にいるリーザの艦隊を眺めていた。

 その、リーザの旗艦“ブルー・フォレッサ”では…。
「いーのかなーぁ? 偶然とは言え、和泉司令の艦隊と航路がほぼ同じなんて…」
 リーザはかなり悩んでいた。 と、そこに彼の副官のティン・レン・ワン中尉がやってきて、
「だいーじょうぶですってば、司令!」
と言い残して立ち去って行った…。
「“あれ”が一番心配なんだ…」
 そう言うと、彼は頭を抱え込んでしまった。 と、その時。
「敵艦隊捕捉! 連邦のグエン艦隊です!」
 和泉とリーザは同時にグエンを捕捉していた。

 <グエン vs 和泉、リーザ>
「全艦砲撃開始」
 先手を取ったのは和泉であった。
「数の上では互角だから、的確に叩くように。 で、一度撃ったら突破します」
 一方、グエンも負けてはいなかった。
「2艦隊がなんだ! 力で押し返せ!」
 一番反応の遅かったリーザは、常識的な司令を出していた。
「和泉司令に同調しろ!」

 そして、一回の砲撃の後、和泉艦隊では…。
「グエン艦隊左翼、手薄になりました!」
「よし、突破しましょう」
 こうして和泉はこの乱戦宙域から、まんまと「逃げだした」のであった。 スレ違いざまに和泉はグエンの艦隊の索敵艇を撃沈していた。 報復とばかりにグエンも和泉の艦隊の索敵艇を沈めていたが。
 一番驚いたのはリーザであった。
「い、和泉司令においていかれた…」
 リーザ、それは君の反応が遅いだけだと思う。
 …などと言いつつも、彼はグエンの駆逐艦を1隻沈めていた。

 そして、リーザとグエンの一騎討ちが始まった。
「数ではこちらの方が上だ! 的確に叩け!」
 グエンはその勇猛さを丸だしにして司令を飛ばす。 それによって、リーザ艦隊の駆逐艦を1隻沈めた。 しかし、彼の戦果はそこまでであった。

 一方のリーザも負けてはいなかった。
「駆逐艦<イエロー・フォレッサ>、撃沈!」
「かまうな! 右翼に砲撃を集中! 相手は先程のダメージがあるから、勝てる!」
 そして、旗艦の主砲がグエンの旗艦のメインブリッジを捕らえた。

「! メインブリッジに命中、来ます!」
「何?!」
 ズズーン!
「ひゃーっ、あぶない。 死ぬかと思ったぜ」
 完全に崩壊したメインブリッジから、副官のジョン大尉を抱えてグエンが出てきたのは、その直後に高速巡航艦を沈められた後だった。
「敵さんもなかなかやるな。 残存は?」
「5隻です!」
「よし、この戦闘宙域から出る! 敵もそれほど余力はないだろう」
 こうして、グエンは危うく死ぬところで無事、帰還したのであった。

 一方のリーザ司令はと言うと…。
「グエン艦隊、撤退して行きます!」
「た、助かった…」
 そう一言言って、指揮卓につっぷしてしまった。
 その横で、副官のティン中尉が帰還の準備に入っていた。
「ほら、だから大丈夫だって言ったでしょう、司令?」
「…もういい、早く帰ろう…」
「りょーうかい!」
 こうしてリーザ艦隊も帰還した。

 <ジェームズ vs 神風>
 一方、このすぐそばでは一瞬で勝負が決してしまう艦隊戦があった。
 連邦のジェームズ・W・カーク少佐率いる第48突撃戦艦部隊と同盟の神風特攻(しんぷう とつや)少佐率いる神風艦隊であった。

「敵艦隊捕捉! 編成は軽巡1、索敵艇4。 同盟軍の神風艦隊です!」
「ほほう、あれが今回奇抜な艦隊編成をしてきた奴か」
 ジェームズはそう言うと、すぐに司令を出した。
「軽巡を集中砲撃! あれが敵艦隊の旗艦だ!」

「! 敵艦砲、直撃来ます!」
「な…!」
 神風が反応するより早く、敵艦砲の直撃かがきた。
 ズズーン!
「ダメージ大きすぎます! もう持ちません!」
「うぬ、総員退艦じゃ! 同時に全艦砲撃!」
 逃げながらも神風は攻撃の司令を出していた。 そしてそれは、奇跡的に索敵艇がジェームズの索敵艇を一撃で撃沈すると言う結果をもたらしたのだ。
「索敵艇<シーフ・バット>、撃沈されました!」
「何?! 敵の索敵艇に沈められたのか?!」
「はい、そうです!」
「くそーっ、油断したぜ」
 ジェームズはそう言うと、次の司令を出した。
「敵の残りを掃討せよ!」
 …しかし、その命令はむくわれることがなかった。
「敵艦隊、急速に離脱! 追いつけません!」
「何だとっ!!」
 索敵艇は、単独だと現行のどの艦艇よりも速度が早いのだ。 それを利用して、神風は“超高速”で文字通り『逃げた』のであった。 ちゃんちゃん♪
「ちぃ、逃げられたか…」
「いかが致しますか、司令?」
 くやしがっているジェームズに、副官であるルフトスキー中尉が声をかけてきた。
「…まあ、仕方無いだろう。 それより、まだ予定進軍宙域ではないからな。 進むぞ!」
「了解」

 <シナプス vs カーチス>
 一方、グエンと和泉の戦った宙域を挟んで逆の方向では、一回砲火を交えただけでお互い進軍を続けた艦隊があった。 エイパー・シナプス少佐率いる索敵攻撃部隊と、ジョン・カーチス少佐率いる長槍部隊である。

「敵艦隊発見! 距離、至近!!」
「対空砲、全力砲撃!」
 両方の司令官は同時に叫んでいた。 …が、お互いにとって幸運なことに、双方共に被害は無かったのである。 そして、そのまま両艦隊はすれ違ってしまった。
「今のは一体誰だったんだ?」
「連邦のエイパー・シナプス少佐の艦隊です」「同盟のジョン・カーチス少佐の艦隊です」
「ほーう、そうか。 又会うときが楽しみだな」
 そうして両方の艦隊は分かれて行ったのだ。 何て平和的なんだろう…(笑)。

 <ローズ ←← ミジコフ>
 その頃、その宙域のそばでは連邦にとって初の悲劇が起きていた。
「まもなく回避航路に入ります」
「うん、予定通りですね」
 J・H・ローズ少佐率いるHell Fire艦隊は、ローズ少佐の作戦で中央戦闘宙域を回避する形で航路をとっていた。
「しかし少佐、よろしいのですか? 万が一に後ろを敵に取られたりしたら…」
 司令席に座っているローズに、彼の副官である小野田洋一郎少尉が話しかけてきた。
「なに、後ろを取られたらすぐに逃げるだけです。 こちらは機動艦隊ですから、逃げることに関してはどの艦隊にも負けませんよ」
 …しかし、その考えは甘かったのだ。 彼らの艦隊の真後ろに、同盟軍の艦隊が迫っていたのだ。
 マクニール・ミジコフ少佐率いる機動ミサイル部隊である。
「前方に敵艦隊を発見! 敵はこちらに後ろを見せています!」
 オペレーターの報告に、ミジコフは一瞬耳を疑った。
「何、後ろを見せているだと?」
「はい、敵は明らかにこの宙域を離れようとしております」
 神田広樹中尉(彼の副官)が、明瞭な答えを返してきた。
「…よし、我が艦隊は全力を持って、この敵艦隊を叩く! 全艦、ミサイル斉射!」

「!! 後方より、ミサイル群接近!」
 ローズはこの時、完全に油断をしていた。
「何?! シールド全開! 全力回避せよ!」
「回避間に合いません! 命中、来ます!!」
「な…!」
 ズズーン! ズズーム!!
 …2発のミサイルの直撃を食らったローズの旗艦「ENRA(閻羅)」は、瞬時に撃沈したのであった…。

 司令官を失ったローズ艦隊の残存は、指揮系統の乱れより応戦することが出来ず、ことごとくミジコフの艦隊に撃沈させられたのであった。

 <イルミア、カロッゾ vs イェーガー、和泉>
 同じ頃別の宙域では、激戦と呼ぶにふさわしい戦いが繰り広げられていた。
 連邦のイルミア=レンディーリン少佐率いるレンザルト艦隊、カロッゾ・ロナ少佐率いるキザー艦隊と、同盟のグーンベルト・イェーガー少佐率いるGENO・SIDE隊である。

 序盤はイェーガーの遠距離攻撃から始まった。
「よーく狙って撃て!」
 イェーガーのゲキが飛ぶ。 しかし、これは距離がありすぎて、命中弾はなかった。
 そこに、イルミアの艦隊が現れ、2対1の艦隊戦の構図ができあがった。
「よーし、カロッゾ司令と同調するんだよ! 攻撃開始!」
「戦線をシフト! イルミア少佐に同調せよ!」
 イルミアとカロッゾの対応は早かった。 しかし、イェーガーも負けてはいない。
「2艦隊が何だ! 数さえいれば良いって物ではない! 確実に叩け!」
 現実に、イェーガーはこの数の差を物ともせず、イルミアの艦隊の駆逐艦を1隻沈め、自艦隊には被害(撃沈艦艇)を出さなかった。
 と、その時、連邦軍の艦隊の横から攻撃がきた。 先ほど転進してきた和泉の艦隊である。
「て、転進だよ!」
 イルミアは被害の大きさに驚き、この戦闘宙域を離れ帰還した。
「よーし、後は1艦隊だけだ! 撃って撃って撃ちまくれ!」
 ここぞとばかりに、イェーガーはさらに攻撃の司令を出した。 しかし、何でも物事がそううまく行くとは限らない。
「今だ! 全艦主砲斉射!」
 カロッゾの的確な司令により、イェーガーの軽巡航艦を1隻沈めた。
「司令、被害が大きすぎます! 撤退して下さい!」
「う、うむ…」
 オペレーターの悲鳴にも似た声に、イェーガーはやむなく撤退を決意した。

 イェーガーが転進した後、和泉はさらに攻撃の司令を出した。
「相手は先ほどの戦闘で傷ついているはずです」
 しかし、これは全くの実りを得なかった。 一発も命中しなかったのである。
「司令、そろそろエネルギーの残存が少なくなってきましたが…」
 エリムの声に、和泉はうなずいた。
「わかりました。 これ以上戦闘に参加しても効果はありませんね。 帰還しましょう」
「了解」
 こうして和泉の艦隊は帰還したのだ。
 一方のカロッゾ司令もそれ以上の戦果をあげられず、これ又帰還したのであった。

 <カーク →→ メイム>
 その頃、更に進軍したジェームズ・W・カーク司令率いる第48突撃戦艦部隊の前に、横を見せて移動中の艦隊が姿を表した。 同盟のメイム・アロー少佐率いるメイム艦隊である。

「チャーンス! 全艦砲撃!」
 この好機をカークが見逃すはずがなかった。 が、しかし…。
 この一方的な戦闘で、彼は戦果をあげられなかったのである。

「敵艦隊、左舷より奇襲!」
 一瞬、メイムの艦隊はパニックに陥った。 と言うのも、メイムはどちらかと言うとおっとり屋さんなので、大抵の事は彼女の副官のルイス・N・B・ガーラント大尉がやっているからだ。 それが、今はルイスの反応が多少遅れたために、パニックに陥りかけたのだ。
 それを救ったのは、以外にもメイム本人であった。
「…全艦、全速前進」

「敵艦隊が逃亡を図りました! 攻撃は間に合いません!」
「またしても逃げられたのか!」
 この結果に、カークは「じだんだ踏んで」くやしがった。
「…ま、そう言ってもしかたないしな。 戦果を上げられただけでも良いとするか。
帰還するぞ!」
 こうして、カークの艦隊は帰還した。

 <シナプス vs ボーズ>
 その頃、正面から激突した艦隊があった。
 先ほどから進軍を続けた連邦のエイパー・シナプス少佐の策敵攻撃部隊と、同盟のボーズ=イム少佐率いる七福艦隊である。

「全艦、主砲斉射!」
 “数、質、量”が共にほぼ互角な両艦隊の戦闘は、主砲の砲撃合戦から始まった。

「敵は数が少ない! 確実に叩け!」
 シナプスが得意の主砲攻撃を繰り出す。 一方のボーズも負けてはいなかった。
「敵は索敵艇がある分、艦隊戦に不利だ! 量より質だと言うことを教えてやれ!」
 そして、始めの砲撃で、シナプスは駆逐艦<ラーカイラム>、索敵艇<アーガマ>を、又、ボーズは駆逐艦<寿老人>を、それぞれ失った。 そして、お互いに決定打を与えられぬまま、戦闘は膠着状態に陥った。 しかし、意外な事でこの戦闘は終結する。
「よーし、こんなものでいいだろう。 転進!」
 しばらくの後、またシナプスが転進を命じたのだ。 これにより、後膠着状態に陥っていた両艦隊の戦闘に終止符が打たれたのであった。

「追撃しますか?」
 副官、イワン=コスムノフ中尉の問いに対し、ボーズは
「いや、ほっといてもいいんじゃないの? それよりさらに進軍する」
と答えた。 この判断は結果として当たっていたことになる。

 <ドレル →→ ワッディ、アレックス ←← 後藤>
 同じ頃、2カ所で遠距離の敵を攻撃したが被害を与えられなかったと言う戦闘が起きた。
 連邦のドレル・ロナ少佐が同盟のワッディ・テイツ少佐に、又、同盟の後藤・ハリス・ミュラー少佐が連邦のアレックス・ランディ少佐に対して仕掛けた物である。
 しかしながら、これらの遠距離攻撃は遠すぎて、両方共にたいしたダメージを与えることが出来ずにいるうちに、相手の艦隊が攻撃範囲内から出てしまうと言う結果に終った。 もちろん、相手には追いついていない。
 ま、たまにはこんな事もあるのである。

 <京也、アルフレッド、シナプス vs カーチス、ミジコフ、後藤、メイム>
 その頃、中央星域から少し離れた所では、今回の会戦で最も激しい戦いが繰り広げられていた。
 連邦の中村京也少佐、アルフレッド・フェナンズ少佐、エイパー・シナプス少佐と、同盟のジョン・カーチス少佐、マクニール=ミジコフ少佐、後藤・ハリス・ミュラー少佐、メイム・アロー少佐の、のべ7艦隊がぶつかる戦いである。
 (GM:「これの処理が一番大変だったんだ(笑)。 全く、数ばかり集まってからに…(笑)」)

 始めはアルフレッド・フェナンズ少佐率いるクルセイダー艦隊と、先ほどの戦闘宙域から転進してきた同盟のジョン・カーチス少佐率いる長槍部隊の主砲の砲撃合戦で始まった。
「全艦、主砲斉射!」
 この時、わずかに反応が早かったアルフレッドの方に軍配が上がり、カーチスの駆逐艦<ウォーシング>を一瞬のうちに沈めた。
「ええい、くそっ! 全艦、防御隊型を取れ!」
 カーチスは常識的な対応でこれに応戦した。 が、悪いことは更に続いた。
 右舷方向より中村京也司令の指揮する星風(スター・ウインド)艦隊が攻撃を仕掛けてきたのだ。
「敵は横を見せている! 我々は有利に立っているんだ! 的確に攻撃せよ!」
 …しかし、幸運の女神はカーチスに味方したのか、京也は一隻も沈めることが出来なかった。
「な、なぜだ…」
 京也に取って悪いことは更に続く。 カーチスの艦隊を挟んで反対の方向から、先程J・H・ローズの艦隊を全滅に追いやったマクニール・ミジコフ少佐の機動ミサイル部隊と、遠距離攻撃に失敗して戻ってきた後藤・ハリス・ミュラー少佐の電光石火艦隊が同時に攻撃を仕掛けてきたのだ。
「我々は敵の倍の数がいるんだ! 力で押し切れ!」
 こうして京也は一瞬にして重巡航艦<南十字星(サザンクロス)>と、策敵艇<北極星(ポーラスター)>を失った。 もちろん、戦果は上げていない。
「なぜだーっ! なぜ、私ばかりこんな目にあうんだーっ!!」
 叫んだ所で戦況が変化するはずもない。
「て、撤退だ!」
 こうして京也の艦隊(この時点で、彼の艦隊の残存は旗艦だけだったので、艦隊と呼ぶのは間違いかも知れない)はこの宙域より撤退を開始した。 しかし、彼にとって悪いことは更に続いたのであった。
 更に後方の宙域より、先ほど横からの攻撃を難なくかわしてきたメイム・アローのメイム艦隊が攻撃を仕掛けてきたのだ。 だが、幸いなことに、この攻撃による被害は京也にはなかった。
「ふえっ、助かったか…」
 冷汗を拭いつつ、京也は撤退の指揮を続けた。 しかし、悪いことはこれで終わりではなかったのである。

 その頃、挟まれた宙域で戦っているアルフレッドとカーチスは膠着状態に陥っていた。
「後藤少佐とミジコフ少佐に通信を入れて、援助を求めろ!」
 カーチスはこの膠着状態を打開するために二人の助けを借りようとした。 しかし…。
「ダメです! 両艦隊は残存エネルギーが少なく、帰還します!」
「何だと!」
 その時である。 (今回はやっぱり悪いことは続くようだ)
「別動敵艦隊発見! 合流する模様!」
「な、何だとーっ!」
 それは、先ほどの戦闘より転進してきたエイパー・シナプス少佐の索敵攻撃部隊であった。
「よーし、撃てーぃ!」
 二艦隊同時に攻撃を仕掛けて来る。 さすがにこれには耐えられず、カーチスはアルフレッドに駆逐艦<ダラム>を、シナプスに旗艦でもある高速巡航艦<カーストラグーン>を沈められてしまった。
 危ういところで唯一残った駆逐艦<ランドベリー>に乗り移ったカーチスは、がっくりと方を落としていた。
「ここまで被害を受けるとは…。 次こそはこの恨みを晴らしてやる!」
 こうしてカーチスは残り一隻で撤退した。
「やれやれ…。 やっと追い払ったか。 しかし、ちょっと被害が大きいな。 我々も退却しよう」
 ほっと一息をついたアルフレッドとシナプスであったが、そこに攻撃を仕掛けてきた艦隊があった。
 先ほど京也に攻撃を仕掛け失敗したメイムの艦隊である。
「敵は油断している。 攻撃するなら今だ!」
 副官、ルイスの気合いが入った声を出すのを聞きながら、メイムはやはりぼーっとしていた。 そして、何とも気合いの入らぬ声で司令を出した。
「こうげき、かいしぃ〜」(←あえて漢字で書かない辺りに、メイムののんびりさを示すのであった(笑))
 しかし、気合いが入らなかったため…かどうかはわからないが、相手に被害を与えられなかった。
「今のうちだ、転進!」
 メイムが再度の攻撃を仕掛けようとしているときに、アルフレッドとシナプスはこの宙域より撤退をしようとした。 しかし、シナプスは逃げきることができなかった。
 艦隊が転進しようとしているところにメイムの攻撃を食らったのだ。

 ズズーン!!
「ダメージ大! もう持ちません!」
「司令、退艦を!」
「う、うむ。 こんな所でくたばる訳には…」
 そう言った瞬間、シナプスの旗艦・高速戦艦<アルビオン>は爆発してしまった。
 一体、誰がこの不幸を予想できたのだろう…。
 同時に残った駆逐艦<ロンドベル>も沈められ、シナプスの艦隊は全滅した…。

 <京也 ←← ボーズ>
 その頃、京也の艦隊を第四の不幸が襲っていた。
 唯一残った旗艦・戦艦<北十字星(ノーザンクロス)>を、シナプスと戦った宙域から更に進軍して来たボーズ=イム少佐の七福艦隊が射程内におさめたのだ。
「よーし、ミサイル斉射! 目標、前方の敵戦艦!」
 ボーズの間違いようの無い司令が飛び、ついでにミサイルも飛んだ。

「右舷方向より敵ミサイル接近!」
「何?! 全力回避!」
「だめです、間に合いません!」
「な…」
 ズズーン!
「機関停止! 機動レベルの確保不能!」
「くそっ、総員退艦! それにしても、なぜこうまでも悪いことが重なるのだ?!」
 思わず京也は叫んでいた。
「司令も早く脱出して下さい!」
 自分も脱出の用意をしながら、副官のルイス・ヤマナカ中尉が声をかける。
「わかった。 それにしても、不幸だ…」
 わが身の不幸を呪いながら、京也は退艦したのだった。 それにしても、不幸と言うか何と言うか、可愛そうなお人…。

 一方、最後に京也に最大級の不幸をふっかけたボーズ少佐の艦隊は、そこで反転し無事に帰還したのだった。 (その後、彼が京也に恨まれるようなったのは言うまでもない マル)

 <悟郎 vs テイツ>
 時間は少し戻る。 のべ7艦隊が壮絶な戦いを演じているとき、戦闘宙域のすみぎりぎりの所では、わずかな時間で決着のついた戦いがあった。
 連邦の侍 悟郎少佐率いる炎のエイ艦隊と、同盟のワッディ・テイツ少佐率いるナイトメア艦隊である。

 両艦隊は、ほぼ同じ時にお互いを発見していた。
「敵艦隊発見! 距離、至近! 副砲以外は使用できません!」
「全副砲、全力射撃!」
 そして、ほぼ同じ早さで反応していた。 しかしながら、この戦いはテイツの方に軍配が上がった。
「索敵艇、撃沈されました!」
「全体のダメージが25%を突破!」
「ええいっ、ここならたいした敵にも当たらんだろうと考えていたが、甘かったか!全艦、撤退!」
 悟郎は戦闘宙域外に逃げだし、事無きを得たのだった。

「敵艦隊、戦闘宙域外に逃亡! 捕捉不能!」
「ふ…ん、まあいいさ。 以外とその方が賢いかもしれんしな。 我が艦隊は更に先へ進むぞ!」
「了解!」
 進軍の司令を出しながら、テイツはいま考案中の新兵器の事を考えていた。
…そう、同盟軍の科学者上がりの艦隊司令官とは、彼の事だったのだ。

 <せつら ←← テイツ>
 そして、更に進軍したテイツの前に、帰還途中の艦隊が現れた。
 せつら・W・中村少佐指揮するDestiny(デスティニィ)艦隊である。

「敵艦隊、後方に発見!」
「え? 後ろに?! 船壊されたらやだから逃げるよ!」
 司令席から身を乗り出してせつら司令が“逃げ”の司令を出す。
「言われなくても逃げます!」
 それに対して、彼女の副官でこれ又女性のリムディア・レンディム中尉が言い返した。
「リムディアって、怒りっぽのね」
「誰のせいだと思っているんですか!!」
「おお、こわいっ」
 リムディアはせつらの副官になってから、胃薬に頼ることが多くなってきていると言う。 まあ、せつらの性格を見れば解るような気もするが…。
 それはいいとして、せっかく後ろを見せている艦隊が目の前にいるのに、これを見逃すようなテイツではなかった。
「これはチャンスだ! 全艦攻撃よーい、撃てっ!」
 そして、主砲のビームがせつらの旗艦・高速巡航艦<ノルン>に突き刺さった。
 ズズーン!
「機関大破! 発電機機能停止! 全システム、ダウン! もう持ちません!」
「総員、退艦を!」
 これに対し、リムディアは素早い対応を見せた。 せつらの副官にして置くのは惜しいくらいである。
「さあ、司令も早く退艦して下さい!」
「えーん、ノルンが壊れるなんて、やだ〜っ! 持って帰る〜!」
「いいから早く!!」
 こうして、せつらは旗艦を沈められて、リムディアに引きずられながら退艦したのだった。

「何か、見てはいけないものを見てしまったような気がする…」
 その頃、テイツは目の前で起きたことで頭を抱えて悩んでいた。 哀れな奴…。

 <グローバル vs カミシモ、小沢>
 そして、他の艦隊がほぼこの宙域から撤退した後に、ようやく戦闘に突入した艦隊が3艦隊あった。
 連邦のグローバル少佐率いるゲルマン艦隊と、同盟のショウ=カミシモ少佐率いるカミカゼ艦隊、そして、連邦から亡命してきた小沢多聞少佐率いる第2航空隊
(烈火隊)であった。
 何ゆえに彼らが戦闘に突入するのが遅かったか。 答えは簡単で、彼らは足の遅い宇宙空母を艦隊に組み入れていたからである。

 始めはグローバルとカミシモの戦闘機での攻撃合戦から始まった。
「戦闘機の数で押せ!」
 先手を取ったのはグローバルであった。 瞬時に戦闘機を出撃させ、カミシモの艦隊に攻撃を仕掛けさせる。
 カミシモも負けてはいなかった。 が、いかんせん彼の方が戦闘機の指揮に多少劣る面がある。 次第にカミシモの手持ちの航空戦力が減少していった。
「このまま負けるのか?」
 さすがにカミシモは負けを覚悟した。 が、そこにいいタイミングで小沢の艦隊が現れたのである。
「敵はカミシモ少佐との戦いで疲れているぞ! 叩くなら今だ!」
 こうして、1対2の艦隊戦の構図ができあがり、狭い空間の中で戦闘機が縦横無尽に飛び回る激しい戦闘が展開された。
 その時である。
 ズズーン!
「ダメージ大! 撃沈します!」
 カミシモ少佐の旗艦・高速戦艦<日の丸(ヒノマル)>が、グローバルによって沈められた。 カミシモ自身は、残った宇宙空母に逃れて無事だった。
「ふえ〜、死ぬかと思った。 ま、どっちにしてもこれ以上の戦闘は意味が無いだろう。 撤退!」
 こうして、カミシモの艦隊は撤退した。
 その時、小沢はと言うと…。
「敵の巡航艦に攻撃を集中! そちらの方が対空砲の火力は薄い!」
 そうして、高速巡航艦<サザンクロス>を沈めたのだった。
「サザンクロス、撃沈!」
「うぬっ! やむをえん、撤退だ!」
 こうして、グローバル少佐も撤退を開始した。
「追いますか?」
 副官の問いに小沢は、
「いや、やめて置こう。 深追いして捕まった、なんて事になったらせっかく亡命してきた意味が無いしな。 帰還する!」
と答え、旗艦の途についたのだった。

 <孤独なアレックス(笑)>
 その頃、中央星域を挟んで反対側では、全く戦闘に参加できなかった艦隊があった。
 連邦のアレックス・ランディ少佐率いるWinds艦隊である。
「なぜだ! なぜ、ここに敵がいないんだぁ〜っ!」
「司令、落ち着いて下さい!!」
 結局、この航路での戦闘は発生せず、彼は「被害無し、戦果無し」で帰還したのであった。 緒戦からついていないと言うか、哀れな…。

   〜インターリュード3・会戦後〜

 <地球連邦軍総司令本部>
「二人も戦死者が出たのか!」
 帰還してきて、戦闘結果の報告を受けたとき、グエンは思わず叫んでいた。
「なぜ、この前から我々は勝てないのだ…。 和泉が、そんなに有能なのか…」
 今回の会戦は、明らかに連邦側の敗北である。 しかも、二人も戦死者を出してしまった。 軍上層部からは、「そんなに気にするな」とは言われている。 言われてはいるが…。
(和泉、これからもお前は連邦にとって巨大な壁となって立ちふさがって来るのか…)
 グエンはしばし、苦悩するのであった。

 なお、この敗戦をきっかけとして、連邦軍の内部では、巨大戦艦と巨大巡航艦を主軸とした、『八・八艦隊』の創設を目指す動きが出ている。 実現には相当時間がかかりそうだが。

 <銀河自由同盟軍総本部>
「圧倒的勝利、か」
 報告を受けた和泉は、しばらくの間無言で空を見上げていた。
(今回はこううまくいったが、次もそうなるとは限らない。 ましてや、連邦軍は躍起になって勝ちを狙って来るだろう。 グエン、君も大変だな)
 出来れば戦わずして独立を守りたい。 しかし、もはや血で血を洗う争いになるのは目に見えていた。
(この先、どうなるやら…)
 無言で見上げた空に、流れ星が一つ流れた。

 こうして、初めての対戦である「第一回土星環会戦」は、同盟の圧倒的勝利に終結した。 しかし、これからも勝ち続けられると言う保証はどこにもない。

 戦乱の時代は始まったばかりなのだ。

 続く。