・序章「銀河自由同盟、発足!」・
『なぜ、人類は同じ過ちを繰り返すのか。
なぜ、人類は争いを止めないのか。
なぜ、人類は血を流すのを止めないのか。
なぜ、人類は己の過ちに気づかないのか。
なぜ、人類は・・・
〜黙示録「戦の章」より抜粋〜』
時に、星暦194年。
恒星間飛行技術を生みだした人類は他星系への移住を開始した。
後に言うところの「雄飛作戦」である。
『目指せ、新天地へ!目指せ、未知の惑星へ!目指せ、まだ見ぬ未来へ!』
これを合言葉に、人々は我先へと争って移民船へと乗り込んでいった。
それほどまでに、人類は「地球」という狭い場所に対する希望を失っていたのだ。
これにより、200億とも300億とも言われていたた地球星系の人口は、一気に30億人ほどまでに減少していったのだ。
・・・後に残ったのは、大部分がまだ地球星系に希望を捨てていない人達であった。
しかしながら、移住が原因で、地球星系では不景気が起きていた。
人員の不足、それによる各種職種への弊害、それによる更なる景気の低迷・・・。
しかし、「雄飛作戦」の全てが地球星系にデメリットを与えたかと言うと、そうではない。
シリウス星系に向けて移住しようとしていた移民船団が、冥王星を過ぎた辺りで流星群と遭遇し、船の修理のためにどこかの惑星に着陸しないとならなくなった。しかし、冥王星まではすでに遠すぎる。
移民団の誰もがもう終わりだと絶望しかけた時、彼らの目の前に未知の惑星が現れたのだ。
それは、地球星系の第10番惑星だったのだ。
その知らせを受けた後、地球から直ちに調査団が派遣された。そして、念入りな調査の結果、この惑星がいままで発見されなかったのは、周囲を回っている6つの衛星から発せられるすさまじい力の磁気により空間偏位を起こしていたからである事が分かった。
つまり、半分ワープ状態になりながらこの惑星は存在していたのである。
又、さらなる調査の結果、この惑星は豊富な鉱物資源がある事も分かった。その埋蔵量は小惑星帯の鉱物プラントにも匹敵する物である。
調査団の帰還後、地球はこの惑星を「ゼムトラン」と命名。
6つの磁気衛星を破壊し、居住可能惑星に改造していった。
それから約2世紀ほどの時がすぎ、星暦423年。
他の恒星系に移住して行った人類は発展を続け、星系、もしくは惑星単位の国家組織を形成して行った。
地球星系とて例外ではなく、居住可能惑星に改造された水星からゼムトランまでを支配下に置く「地球連邦」を形成していた。
これは、各惑星に統治政府を置き、その集合によって連邦を形成している物であった。
また、「雄飛作戦」当時ほどではないにしろ、地球星系はある程度の人口が回復していた。
さらに、ゼムトランのもたらす経済効果が地球星系内部の景気を繁栄させ、人類はまさにこの世の春を謳歌していた。
他の星系に移住していった人類との交流も非公式ながら始まっており、もはや憂う物は何も無いかに見えた。
…しかしながら、『光』には必ず『影』が従う。
星暦450年頃よりここ数年、連邦政府内部では腐敗が進んでいた。
とある年に、政府のご用足しを受けた、民間会社「レディウム工業」。しかし、その地位を生かし、ぐんぐんと業績を伸ばし、しまいには地球連邦内のあらゆる業種にてを伸ばし、民間会社では最大規模の物になっていった。
そして、軍部の高級司令官と政府高官達は、民間の最有力企業になった「レディウム工業」からの、多額の賄賂を受け取っていた。また、彼らは己の身の保身のため、積極的にレディウムと接触していた。
その癒着は目にあまる物があり、金が全てに幅を効かせ、各統治政府からの多々ある請願や苦情なども、ほとんど取り上げられないでいた。
そして、そのために必然的に大きくなっていった、レディウムの権力・権利・・・。
また、地球に比較的近い所にある惑星の統治政府の高官達もも、賄賂を受け取っていた。
そのために、地球から遠いところに位置する惑星の統治政府、及び民衆達は、いわれ無き差別を受けるが故の不満を徐々に募らせていった。が、決定的な出来事は起きなかった。
・・・いや、平和があまりにも続いていたために、事を起こすほどの勇気が出なかったのである。
しかし・・・。
星暦456年。
タイムリーな形でクーデターが発生した。
土星統治政府が若き政治家イリッツ・メルディックの指導の元、地球連邦からの脱退と同時に独立を宣言、「銀河自由同盟」の樹立を宣言したのだ。
これに、天王星、海王星、冥王星、ゼムトランの統治政府がすぐさま同調。
イリッツ・メルディックを同盟最高会議の大統領とし、一瞬にして一大勢力が築き上げられてしまったのだ。
これに対し地球連邦政府はこれを「反乱行為」と断定、軍部に鎮圧を依頼し、軍部は直ちに各惑星の駐留軍に対し出動命令を下した。
しかし、同盟側の各惑星駐留軍もこの独立に同調していたのだった。
この後に、彼らは正式に『銀河自由同盟軍』を名乗ることになる。
事態を重くみた地球連邦軍はほぼ全兵力を土星に向け発進、「反乱」の鎮圧を力ずくではかろうとした。
こうして、一回目の遭遇戦が発生する。 地球星系は激動の時代を迎えようとしていた。
彼らは戦う。己自身のために。
彼らは戦う。己が信ずる物のために。
彼らは戦う。己の野望の達成のために。
彼らは戦う。己が愛するものを守るために。
彼らは戦う。まだ見えぬ「明日」と言う名の希望のために…。