「じゃあ行って来るけど…気をつけてね、セリオ」
「はい、明日の朝には戻りますから…晩御飯は作っておきますから、しっかり食べてくださいね。」
そう言って笑顔でセリオは僕を送り出す。
今日はセリオの定期検診。
メイドロボもだいぶ普及して、定期検診と言えば、結構混雑するし予約も必要になっている。
当然休日には予約が集中するし、本当にメイドロボが必要とされる人(老人とか)が優先されるから、僕みたいに…その…「好きだから」なんて理由だと後回しにされたりする訳で…
それに、メイドロボはある程度自分で判断して行動できるから、必ずしも一緒にいる必要は無い。
そういう訳で、僕のセリオは平日に順番が回ってきた。しかも晩くなるから施設に1泊するという。
その日は出席の甘い講義という事もあって、休んで付き添うって言ったら、本気で怒りだした。
この年になって、親にもあまり怒られなくなって、働くようになるまでそんな事とは無縁だと思ってたのに、頭にゴチンとやられた。
加減はしてあるから痛くないとはいえ、流石にグーで殴られては黙っていられない。
僕もちょっとムッときて、しばらく二人で言い争っていたけど、涙を流してまで訴えられては、僕も折れるしかなかった。
「わかった」と言った途端、極上の笑みを見せられて、やられた、とは思ったけど、僕の為に、そうまでしてくれるセリオがかわいくて、愛しくて…
「ふう…」
大学からの帰り道、僕はついため息をもらした。
結局その日は講義にも身が入らなかった…セリオが聞いたらまた怒るだろうか…
家に帰っても一人だし、ラーメンか牛丼でも…と思ったけど、
『しっかり食べてくださいね。』(きら〜ん☆)
そんなセリオの笑顔を思い出し、まっすぐ帰ることにした。
おいしいんだけど、いつもよりちょっと味気ない夕食を済ませて、
布団を敷こうと思って押入れを開けた僕は、いきなり「セリオに」襲われた。
「うわっ?!」
強烈な頭突きを食らって倒れこんだ僕にセリオが覆い被さってくる。
「?!セ、セリオ?!」
「………」
僕はすっかりパニックになった。
「どどうしたんだあしたじゃなかったのかってなんでおしいれにいくらなんでもまだはやはやいそそれにここういうことはまだおたおたがいのきもちが…」
「………」
自分でもよくわからない事を言ってる間、セリオはずっと無言だった。ただ僕をじっと見つめて…それが余計に僕を混乱させる。
「%&☆※▽◎♂∞$…って、あれ?」
「………」
さっきからセリオは一言もしゃべらない…っていうかぴくりともしない。それにセリオの周りがやけに白い…
「って、これは!」
「………」
それは『セリオ抱き枕』だった。そういう物があることは知っていたが、今ここにあるのはまさしく『僕のセリオの抱き枕』だった。
何でこんな物が…って思ったら、メモが落ちていた。
『私だと思って大切にしてください。』
…って、そういう趣味は無いんだが………無いはずだ……(汗)
……でも抱いてみたりして(爆)
「…マスター…。」
で、次の日の朝。
涙やらなにやらでクチャクチャになった抱き枕を前に、セリオは嬉しいような、悲しいような、何とも複雑な顔をしていた。
くそぅ、まさかあのまま寝てしまうとは…
ううっ、そうだよ、寂しかったんだよ、だからそんな目で見ないでくれよぅ…
そうやって背中を向けてイジけていたら、セリオが優しく抱きついてきた。
「大丈夫ですよ…私は…ここにいます…ここが…私の帰る場所ですから…。」
「セリオ…」
「ね?マスター。」
顔を上げれば、いつものやさしい笑顔が僕に向けられている。
僕が好きになった人の、最高の笑顔がそこにある。
「うん…ありがとう、セリオ…」
今の僕には、それしか言えないけれど、
今の二人には、それで十分だった。
<あとがき>
抱き枕購入記念! 以上!!(笑)