− その9 月夜の晩に… −

「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・。」

 どのくらい、こうしているだろう…
 近所の公園で、何をするでもなくただベンチに座り、僕らは月を眺めている。
 きっかけは、そんなにたいした事じゃない。
 夕食を食べて、適当にくつろいで、ふと外を見た時、それが見えただけだった。
「今日は満月か…」
 天気もよくて、まん丸な月がよく見えた。
「そうですね。」
 僕の横で、セリオが同意してくれる。
「……とても、きれいですね。」
「うん…きれいだ…」
 今度は僕が同意する…本当に、同意だったのかは今は自信がない。

「お月見にいこう、セリオ」
「お月見、ですか?」
 僕の提案に、セリオはちょっと首をかしげて訊いた。
「せっかく月がきれいなんだから、もっといい所で見ようよ」
 そういって手を差し出す僕。
 セリオは何か言いたそうだったけど、
「はい、マスター。」
 と僕の手を取った。

 家からそう遠くないところに、その公園はある。
 結構大きな公園で、彫刻なんかも飾られた、憩いの場、という所だ。
 この辺りには、2階を越えるような建物はないから、空を眺めるにはちょうどいい。
 まだ外は肌寒いけど、その分空気が澄んでいて、月がよく見えた。
 そんな公園の一角のベンチに、二人並んでただ月を眺めていた。

「月にはね、ウサギがいるだんよ」
「…マスター、信じているんですか?」
「ん?知ってるようなこと言うね」
「はい、データ上は…でも…」
「いるかもしれない、よね」
「はい、きっと、カニもいるかもしれません。」
「きこりとか…」
「魔女なども…」
 そんな他愛のない話も、楽しかった。

「セリオ、寒くない?」
 どのくらい経っただろう。肌寒さを感じた僕は、そうセリオに訊いた。
「私は、大丈夫です。マスターこそ、寒くありませんか?」
 そういってセリオが身を寄せてくる。やわらかい暖かさが、僕に伝わってきた。
「ん…ありがとう、セリオ」
 顔をむけると、やさしく微笑むセリオがいて、僕は……

「さて!そろそろ帰るか」
 照れ隠しに、ちょっと大げさにそういって立ち上がる。
「…はい、マスター。」
 そういって、セリオも立ち上がる。

『本当に、ありがとう、セリオ』

 そんな二人を、月だけがやさしく見守っていた…


<あとがき>

 いや、月がとってもきれいだから…

 満月の夜は、

 人を、狂わせるものです…