その日は朝から調子が悪かった。
だるくて、咳が出て、寒気がして…とまぁ、典型的な風邪の症状である。
大学の新人歓迎コンパで池に叩き落されたのが原因と見て間違いない。
暖かくなってきたとはいえ、今時期に泳げば風邪のひとつもひこうというものだ。
「本当に、大丈夫ですか?」
病院に行く事にした僕にセリオがそう聞いてくる。
心配そうに聞こえなくもなかったけど、いつも通りの表情だ。そう見えた。
「すぐ…近くだし、大丈夫…だよ」
「やはり一緒に…」
「だから…いいって、大丈夫だから…ね」
本当はすごく辛くてついて来て欲しかったけど、風邪くらいで女の子に付き添われるのが、なんとなく恥ずかしかった。
「じゃ…いってくるよ」
靴をはき、そう言って振り返った僕をセリオがやさしく抱きしめてきた。
「???…セ、セリオ?」
慌てる僕に、
「本当に…気をつけてくださいね。」
やさしい声、そして心地よい暖かさ、そして…安心感…
「あぁ、ありがとう…セリ…」
僕は気を失った。
「マスター?マスター?!」
そんな声を聞いた気がした……
目がさめたら、夜だった。
気分は良くなかったけど、だいぶ楽にはなっていた。
ぼんやりとした頭で状況を整理する。
僕は自分の部屋で、布団に寝ていた。頭には冷たい濡れタオル。セリオがやってくれたんだろう。
「倒れたんだっけ…」
風邪くらいで倒れるとは情けないとも思ったが、意識はしていないつもりでも、やはり新しい生活にストレスが溜まっていたんだろうと納得した。
「マスター……」
体を起こした僕にセリオが呼びかける。
「ありがとう、セリオ。だいぶ楽になったよ」
セリオはそれには答えず、ただ僕に抱きついてきた。
「よかった……本当に……」
慌てる僕に聞こえたそんなつぶやき…そして震える小さな肩…
「心配、かけたね。悪い主人だな、僕は…」
僕もセリオを抱きしめる。不思議と、恥ずかしさはなかった。
どのくらいそうしていただろう。
「さぁ、もう一眠りしてください。まだ夜なんですから。明日は病院に行ってくださいね。」
そう言ってセリオは僕を寝かしつけた。
「うん、わかった。明日は付き添い頼むよ」
「わかりました。」
そう言って優しそうな顔で僕を見つめる。
「おやすみ、セリオ」
「おやすみなさい、マスター。」
そういって横になってからも、しばらくはセリオの視線を感じてはいたけど、すぐに僕の意識は深い眠りに落ちていった。
「もう、私を一人にしないでください。」
そんな僕が、その一言を聞くことはなかった…
<あとがき>
今回ちょっとまじめ・・・
まじめパターンはむずいですぅ(笑)
こんなのもあり、ということで。
最後のせりふはこのシリーズの最大の伏線として・・・というのはうそですが。(笑)
なんか週間パターン(笑)