小樽水上オルゴール堂シリーズ・番外編
「坂と運河のある街で」
(Episode:HM−13b4・芹凪、HM−13f375・美菜子(ToHeartオリジナルキャラ)
/連載SSシリーズ1作目・番外編第4話/投稿作品/投稿者:ちひろさん)


ばあちゃんへ


 桜の花に誘われて、ふらっと旅に出てしばらくになる。
 桜を追いかけて北へ行くうちに、気がつくと蝦夷の国に来ていた。
 そういや途中で、えらく長いトンネルを抜けたっけかな?
 季節の割りには、ちっと寒い気がするわ。

 で、相棒と一緒にたどり着いたのが 運河が流れる街
 ここでちっとばっか ゆっくりしてこうかってことになった
 やっかいになる場所とバイトを見っけて、
 今、この小樽という街にやっかいになっている。

 やっかいになってみて、しばらく暮らしてみて、初めてその街がどんな街か
わかるって、ばあちゃんよく言ってたもんな。

 小樽って街の匂いは、うちの近所の匂いによく似ている。
 匂いだけじゃなくて、人の温かさもうちの近所によく似てたよ。


………
………


  「お〜 ケンちゃんよ〜 お使い行ってもらえるか?」

  オレが世話になっている バイト先のご主人がそう声をかけてくる


  「いいっスよ あ、それ届けんすね?」

  ご主人の名前は加藤さん 昔気質のブリキ職人さんだ


  オレ自身は ブリキなんて扱ったこともないけど

  なんか気に入って貰えたみたいで 勉強かたがた置いてもらってる


  「お〜 そうそう、それな。坂の上の水上さんとこまで頼むわ」

  水上さんって言うのは 町外れにあるオルゴール屋さん


  「いつもはミナちゃんが取りにくんだけどよ 今日は急ぎだっつーから」

  ミナちゃんってのは 水上さんのとこの元気のいい女の子だ


  「そいじゃ行って来ますね」

  荷物を持って カブにまたがる


  「お〜 頼むな」

  そんな加藤さんの声に送られて 坂の上へと走り出した


………
………


 今やっかいになってるのは、加藤さんって言うブリキ職人さん。
 妙に気に入られたみたいで、色々教わってる。

 そうそう、小樽の町外れの坂の上には、水上さんのやってるオルゴール堂があってよ。
 今日そこまで行ってきたんだ。
 加藤さんは、水上さんに頼まれてオルゴールの部品も作ってんだって。
 今日届けに行ったのはその部品なんだ。
 いつもは美菜子ちゃんって言う元気のいいロボットの女の子が取りに来るんだけど、
今日は急ぎみたいで、オレっちが届けに行ったんだ。

 水上さんとこには、ミナちゃんのほかに芹凪さんって言うやっぱりロボットの
女の子がいて、水上さんと3人でお店を切り盛りしてるんだ。
 ちっと遠いのもあって、1,2度しか行ったことないけど、やっぱり暖かい
雰囲気でよ。

 坂をひとしきりのぼって、登り切った先に水上さんちが見えてくるんだけど、
その工房までバイク飛ばして届けに行った。
 確か店の横の工房に行けばいいんだったよな、と思いながらな。


………
………


  ぷるるるるん

  工房の前でバイクを止めて 品物を抱えて中をのぞき込む


  「ちわー 頼まれものをもってきたんッスけどー」

  そんな風に声をかける


  ちょっと待ってたら お店のほうから声が聞こえた

  「はいはい、ちょっと待って下さいね」


  顔を出したのは 店番をしていた芹凪さん

  あまり話をしたこともないんだけど なんだか懐かしい感じがする人


  「あ、加藤さんのところの。ちょっと今、ミナちゃんもマスターも出てるんです」

  申し訳なさそうに そう言う


  「あ、こっちも突然来ましたからね。はい、これ頼まれものッス」

  持っていた荷物を 芹凪さんに渡す


  「あ、はい、確かに。 あ、よかったら見ていって下さいね」

  オレが店の中を珍しそうに見ていたら 芹凪さんが笑ってそう言った


  せっかくだし ちっとだけ見せてもらおう

  様々なオルゴールの並ぶ店内を ざっと見て回る




  あ これ いいな

  目に留まった オルゴール


  ガラスコップに入った ちっとばっかかわったもの

  それに目が 釘付けになった


  一つ一つの色合いが 微妙に違って

  若造のオレが言うのもなんだけど 味がある気がする


  「音をきいてみますか?」

  そんなオレを見て 芹凪さんが声をかけてきた


  ゆっくりとねじをまいて オルゴールを鳴らしてみる

  ガラスに音が響いて やわらかなそんな何とも言えない音色


  「ふふ、それミナちゃんが作ったんですよ。コップもミナちゃんの作なんです」

  へー あの子やるなあ……


  ちっと考えて 2つ買うことにした

  ばあちゃんと姉ちゃんに 送ろうと思って


  「ありがとうございます。贈り物かしら?」

  オルゴールを包みながら 芹凪さんがそんなことを言う


  「ええ、ばあちゃんにね」

  ちっと照れくさい ごにょごにょと答えた


  「ありがとうございました。あ、部品のこと加藤さんによろしく伝えて下さいね」

  芹凪さんがにっこり笑って そう言った




  さて 油売りすぎかな?

  とっとと 帰ろう


  カブにまたがって エンジンをかける

  芹凪さんが 見送ってくれた


  風を切って 坂を下りていく

  目の前に 小樽の街が広がっていた


  また 顔出しに来ようかな?

  そう思える あったかい場所だった


………
………


 届け物も早めにすんだんで、オルゴール屋さんの中を見せてもらった。
 水上さんところのオルゴール堂にはたくさんのオルゴールがあって、
そこでガラスコップに入ったちっと変わったオルゴールをみっけた。
 音を聞いたんだけど、なんとも言えない音で、一発で気にいっちまったから、
たまたまそっちに帰るって人に、お願いして持っていってもらうよ。
 ばあちゃんとしい姉ちゃんの2人の分、割れないといいけどな。

 オレは、もうちっとここにいようかと思ってる。
 動くときはまた連絡するわ。

 んじゃ、ばあちゃんも元気でな。
 しい姉ちゃんとマスターにもよろしく伝えてな。


               坂と運河とオルゴール堂のある小樽から ケンタ


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