小樽水上オルゴール堂2:ヨコハマ編
「プロローグ『また、会う日まで・・・』」
(Episode:HM−13b4・芹凪、HM−13f375・美菜子)


 緩やかな坂道を、私はのんびりと登って居る。
 この坂を登るのは、およそ1年ぶりだろうか。

 ふと道端を見れば、すっかり緑色に染まった桜の木が1本。
 そう言えば、前来た時はこの桜の木は満開だったかな。
 吹く風が、小樽の町に初夏の訪れを告げて居る。

 ふう・・・。

 少しだけ、日差しがまぶしい。

 やがて、道はとある1軒の家の側を抜けて行く。
 私は、そこで足を止める。

 看板は、前来た時よりもややくたびれた感じで。
『小樽水上オルゴール堂』と。

 久しぶりに来て見たが、あの仲の良い姉妹は元気だろうか。

 そんなことを考えながら、私はドアを開く。

「カラン」

 店に入った私の目に真っ先に飛び込んで来たのは、全ての商品にかけられて居る白い布だった。

 おや、今日は休みだったかな?

「あ、お客さんですか?」
 と、奥の方から、ひょこっと姿を現した、メイドロボットのお嬢さん。
 確か・・・芹凪さん、だったかな。
「ええ、そうです。1年半ぶりですね、お客様」
 そう言って芹凪さんはにっこりと笑った。

 ところで、今日はお休みだったんですか?
「あ、いえ、お休みの準備をしてたんです」
 ・・・お休みの準備?
「ええ。・・・実は、私達、しばらく店をあける事になりまして」

 ほほう・・・どちらか、旅行にでも?
「ええ。マスターのお仕事の関係で、ちょっとヨコハマの方へ」
 ヨコハマ。それはまた遠いですね。
「ええ。そしてこのご時世ですので、何時帰ってこれるか、ちょっと解らないので・・・」
 そう言って、芹凪さんはちょっとだけ困ったような顔をした。

「芹凪〜、裏のおじいさんに渡す鍵はどこ行った〜?」
「あ、それならミナちゃんが持ってる筈ですよ」
「そっか・・・おーい、美菜子〜」
『はーい、ちょっとまってて〜』

「すいません、ごたごたしちゃって」
 いえいえ。お忙しい所に来た私も野暮でしたしね。
 今日の所はこれで失礼しますよ。
「あ、もし何かお求めでしたら、承りますよ?」
 そう言ってにっこりと笑う芹凪さん。
 そうですね、ではちょっと見せて頂きましょう。
「はい」

 そして私は、見事な細工がなされた化粧箱に入ったオルゴールを求めた。
「これ、ミナちゃんの新作なんです」
 そう言いながら、嬉しそうに包んでくれた笑顔が、印象的だった。

「ありがとうございました。いつ戻って来るかは解りませんが、戻って来たらまたのご来店をお待ちしております」
 ええ。皆さんも、道中お気をつけて。
「はい!」


 小樽水上オルゴール堂。
 その店は、今でも、そこに静かに佇んで、主の帰りを待って居る筈である・・・。