小樽水上オルゴール堂シリーズ
「第11話『それぞれの初雪模様のお茶会』」
(Episode:HM−13b4・芹凪、HM−13f375・美菜子(ToHeartオリジナルキャラ)
/連載SSシリーズ1作目・第11話)


− 宗一郎サイド −

「マスター、福引の結果はどうでした?」
 私が運んで来た荷物を受け取りながら、芹凪が聞いて来た。
「えっと、ポケットティッシュが5袋」
「やっぱりですか」
 にっこりと笑う芹凪。
 よし、驚かせようと思っていたここまでは成功。
「・・・それに、朝里川温泉おせっかい御招待セットが一つ」
「ええっ! 温泉が当ったのですか!?」
「何々、温泉がどうしたの?」
 驚く芹凪の後ろから、頭にバスタオルを巻きつけた美菜子がひょこっと顔を出す。
 どうやら美菜子はシャワーを浴びて居たようだ。
 丁度いい、由希子ちゃんは彼女に任せるか。
「・・・それと、道端で頭から水をかぶった、仔猫が一匹」
 そう言いながら、後ろに立って居た由希子ちゃんを前に出した。
「・・・ふにゃぁ・・・(涙)」
「あら、由希子ちゃん、どうしたの一体?」
「話は後だ。美菜子、風呂上がりで悪いけど、由希子ちゃんをシャワーに入れてやってくれ」
「うん、解ったよ。さ、由希子ちゃん、こっちだよ」
「ふにゃあ・・・」
 美菜子はそう言って、由希子ちゃんを連れて家の中に引っ込んで行った。
「芹凪、由希子ちゃんの着替えを何か適当に用意して、それから今着て居た服を洗濯してやってくれ」
「解りました。じゃあ、詳しいお話しは、お茶会の時にしましょうか」
「頼む。私は、冬囲いの物を庭に運んでおくよ」
「はい」
 芹凪が家の中に入って行くのを見届けてから、私はもう一度車の方に戻ると、残った荷物を庭の方に運び始めた。

「お〜、宗君、せいが出るなぁ」
 最後の荷物を運び終えた所で、丁度そこに加藤さんと、彼の所に居候して居るバイト君がやって来た。
 確か、彼は・・・ケンちゃんって言ったっけな。
「ああ、どうも加藤さん。丁度、さっき帰って来た所なんですよ」
「ま、今日初雪だったけど、こんなんじゃあ、ここ3日くらいじゃあ積もらんだろ」
「ええ、だから今日のうちに冬囲い終らせようと思いまして」
 そう言いながら、私は冬囲いの物の数を確認した。
「・・・イヤ、どうも、お待たせしました。じゃあ、中に入りましょうか」
 そう言って、加藤さんとケンちゃんを中に案内する。
「・・・でも、いいんすか? たかがバイト風情のオレが来ちゃっても?」
「構わないさ、大歓迎だよ。それに、ケンちゃん前にうちのオルゴールを買って行ってくれたって話じゃないか。お客様は神様だってね」
 私はそう言って、にっこりと笑った。
「は、はは・・・そう言ってもらえると、何かくすぐったいっすね」
 ケンちゃんは、照れたように鼻の頭をかきながら笑っていた。

− 美菜子サイド −

「でも、どうしたの一体?」
 私は、由希子ちゃんの髪を洗ってあげながら、聞いて見た。
 ちなみに、私も結局また一緒にお風呂に入っていたりして。
 お風呂好きだし♪
「あの・・・学校の帰りに、お使い物をお母さんに頼まれていて、それを買いに行って、その後こっちに遊びに来る時に、店長さんに会ったんですよ」
「うんうん」
 話を聞きながら、私は髪に付いた泡を洗い流して行く。
 ・・・由希子ちゃんの髪の毛って、綺麗だな〜。
「その時に、商店街から出て来た店長さんに車からクラクション鳴らされて、で、車の方に私が走って行ったら、丁度店長さんの車を抜かして行った車が、水をはね上げて・・・」
「あらら〜・・・タイミング悪かったんだね」
「ええ。でも、結局はこっちに来る予定だったですし、美菜子さんにお風呂に入れてもらったから、もう大丈夫です」
 そう言って由希子ちゃんはにっこりと笑った。
 うん、大丈夫そうだね。
「・・・あれ?」
「ん? どしたの?」
 と、由希子ちゃん、私の顔・・・って言うか、耳の方をじっと見て不思議そうな顔をしていた。
「美菜子さん、お風呂入る時って、その、あの耳のアンテナみたいなのって、外しているんですか?」
「え? ・・・ああ、耳カバーね」
 私は、そう言いながら何も付いていない耳に手を伸ばした。
 そこには、普通に耳がちゃんと付いている。
「うん、お風呂入る時と、寝る時は外してるよ。あとは、いつも必ず付けてるけどね」
「そうなんですか」

「ふ〜・・・あ〜、いい気持ち〜」
「くすっ。美菜子さん、お年寄りみたいですよ」
 湯船に二人で入って。私がそう言うと、由希子ちゃんはクスクスと笑いながらそう言った。
「あ、由希子ちゃんひどいなぁ」
「ふふ、ごめんなさい」
 ぺろりと、舌を出す由希子ちゃん。
 ま、いっか。
「・・・でも」
「ん? でも、どうしたの?」
「美菜子さんって、何かお姉さんって感じがして、いいなぁ〜」
「ええっ? そんな事無いよ〜」
「でも、とても優しいし。私、一人っ子だから、兄弟とか姉妹とかって、いいなぁ〜って思うんですよね」
 そう言うと、由希子ちゃんはこっちを向いて。
「美菜子さんって、ロボットの人だから、姉妹って一杯居るんですよね?」
「うん、一杯居るよ。でも、私以外のセリオ型ロボットで会ったこと有るのって、今の所芹凪姉ちゃんだけかな?」
「そうなんですか」
「・・・由希子ちゃん、姉ちゃんが欲しいの?」
「・・・え? ・・・え、ええ、まあ。あはは」
 何か照れたように笑っている由希子ちゃん。
 よし、じゃあちょっとだけ。
「じゃあ、私がお姉ちゃんになってあげるよ」
「え? あの・・・きゃっ?」
 言うが早いか、私は由希子ちゃんの頭をきゅっと抱きしめた。
「・・・本当のお姉ちゃんにはなってあげれないけど、でも、うちの店に遊びに来てくれたら、いつでも私がお姉ちゃんだよ」
「・・・ありがとうございます」

− 芹凪サイド −

「はい、皆様お待たせいたしました」
 ちょうど紅茶がおいしく出る頃合いを見はからって、私はティーポットを持ってリビングに行きました。
 そこには、マスターやミナちゃんを含めて、今日のお客様が6人。
「今日はアール・グレイです」
 そう言いながら、一人一人のティーカップに紅茶を注いで行きます。
「では、どうぞ」
 その言葉を合図に、今日のお茶会が始まりました。

「・・・そんな事があったんですか・・・」
 マスターと由希子ちゃんから、由希子ちゃんがずぶ濡れになった理由を聞きまして。
「うん、でももう平気ですよ。美菜子さんにお風呂に入れてもらいましたし」
 ちょっとのぼせ気味になった由希子ちゃん、何か、ミナちゃんにぴったりとくっついています。
 ミナちゃん、すっかり気に入られてしまったみたいですね。
 私も、妹が出来た気分です。


「お〜、芹凪さん、悪ぃけど、おかわり頼めるかい?」
「あ、はいはい、どうぞ」
「あ、じゃあ芹凪、私も頼むよ」
 マスターと何やら冬囲いのお話しで盛り上がっていた加藤さん。
 健太さんも加わって、何やら楽しそうです。


「芹凪ちゃんや、さっきのあれ、そろそろお披露目したらどうだい?」
 と、これは裏のおじいさん。
 そうそう、忘れる所でした。
「あ、じゃあ、今やりますね」
「ん? 芹凪姉ちゃん、もしかしてさっきのアレ?」
「うん、そう」
 私はそう言いながら、床においてあったケースから鼓弓を取り出します。
「お、芹凪それ見つかったんだ〜。いや、懐かしいねぇ」
「はい。私の大切な宝物ですから」
 私はそう言って、マスターににっこりと笑います。
「お〜、芹凪ちゃん、楽器何てやってんの?」
「ええ、昔、ちょっとだけ」
 そう言うと、私は弓を構えて、軽く2・3音鳴らします。
 うん、昔と同じ。
「では、ちょっとだけお耳を拝借致します。・・・中国のとある地方に伝わる、子守り歌です」
 そう言って、一息ついてから、私は演奏を始めました。

 流れる鼓弓の音色。
 イメージは、とある村で見かけた、村の中央を流れる小川の流れ。
 村の乳飲み子達は、川のせせらぎを子守り歌にして良く眠ると聞かされました。
 そのイメージが、少しでも出せるよう、ゆっくり、丁寧に・・・。

 そして、最後の音を出して。
「・・・はい、おしまいです」
 いつの間にか、閉じていた目をゆっくりと開きます。
 そして、拍手。
「芹凪さん、すごい〜!」
「いやぁ、芹凪、相変わらずいい音出すよ」
「芹凪ちゃん、良いねぇ。初めて聞かせてもらったけど、いやこりゃあいい日にお呼ばれしたなぁ」
「お〜、何て言うか、渋いなぁ」
「そうっすね。すごい感動したっすよ」
「芹凪姉ちゃん、今度私にも教えてよ〜」
 ・・・何か、ちょっと照れ臭くて、すごく恥ずかしいです。
「あ、あの、お茶のおかわりを入れて来ますね」
 私は、逃げるようにキッチンの方に行きました。


 こうして、初雪の日のお茶会は、まだまだ続きます。


 ...It continues to the next season.