小樽水上オルゴール堂シリーズ
「第10話『それぞれの初雪模様 〜宗一郎の場合〜』」
(Episode:HM−13b4・芹凪、HM−13f375・美菜子(ToHeartオリジナルキャラ)
/連載SSシリーズ1作目・第10話)


 街に出ると、まず私はまっすぐに園芸店へと向かった。
 もちろん、冬囲いの道具を買う為だ。

 むしろ、竹ざお、荒縄。
 確か物置にあった分は、今の庭の植物の半分位の分だから・・・。

 買い込んだ物を車の後ろに積みこみ、次はスーパー。
 ええっと、芹凪の分は確か、みそ1袋に塩3kg、あと、油揚げが3袋か・・・。
 それから、美菜子の分が・・・何、瓦せんべい2袋? あいつは〜(苦笑)。

 気がつけば、買い物かごは山盛り。
 おいおい、やっぱり芹凪か美菜子に手伝ってもらえば良かったか?

 やっとの思いで車に積みこんで。
「う・・・流石に疲れた・・・」
 取り敢えず、ついでに買って来た缶コーヒーで一服つける。
「・・・ふぅ〜・・・」

 改めて町の様子を見ると、私と同じように、冬支度に忙しい町並みがあった。
 家族連れで買物袋を下げている人。
 米袋をかついでいる人。アレは、もち米だな。
 店の前に、冬用の売り物を出す店。
 さっそくそれを買って行った、おじいさん・・・。

「・・・・・・」
 こんな喧騒も、嫌いじゃない。
 多分、冬が寒い分、人が暖かいんだろう。
 今の小樽は、そう言う街だ。


 さて、そろそろ帰るか・・・あ。
 そこまで考えて、私は芹凪からあずかった福引券の事を思い出した。
 そう言えば、今回の買い物でも何枚か貰ったっけ。
 取り敢えず、福引の会場に行こうか。


 福引の会場は、商店街の端にある公園で行われていた。
「何々・・・1等は、暖かい南の国へのご招待・・・か」
 ま、期待するだけ無理だな。
 私は、普段の自分のくじ運の無さを考えると、ちょっと苦笑いした。
「おや、宗一郎君じゃないか。福引かい?」
「あ、どうも、会長さん。まあ、そんな所です」
 福引の会場には、商工会の会長さんを含めて、知った顔が何人かいた。
「んじゃ、まあ取り敢えず宗君の運試しだな」
 そう言う古物商の熊田さんに、持っているだけの福引券を渡した。
「ん〜と、この枚数だと・・・6回出来るよ」
「そうですか。ま、頑張って見ますよ」

 私は、福引器の前に立って、くるりと回し始めた。
 1回目・・・白。
「あ〜、それ残念賞だわ」
 熊田さんが残念そうに言う。
「ま、そんなものでしょう」
 2回目・・・白。
 3回目・・・白。
 4回目・・・白。
 5回目・・・白。
「やれやれ・・・宗君、ホント運が無いなぁ。前の人なんか、2回で5等のカンズメセット引いて行ったぞ?」
「ま、最後の一回ですよ。何か出るといいですけどね」
 そして、6回目・・・は、何か水色が出て来た。
「あ、水色ですね。これ、何ですか?」
「何、水色!? おめでとう〜!! 3等賞、朝里川温泉おせっかい御招待セット〜、大当たり〜!!」
 カランカラン。
 熊田さんの手でベルが振られて。
 周りからおこる、どよめきと拍手。
「あ、いや、こりゃどうもありがとうございます」

「・・・ところで、確か『おせっかい御招待』って言っていましたよね? あれ、何ですか?」
「ん? ああ、おせっかいなのは、コレが付いて来るからさ」
「・・・風呂桶とバスタオル、シャンプー、リンス、石けん・・・」
「ほら、おせっかいだろう?」
 熊田さんはそう言って、にやりと笑った。
 誰が考えたアイデアなのやら。


「・・・でも、朝里川温泉かぁ・・・そうだな、久しぶりにみんなで行くか・・・」
 そう言いながら、招待券をもう一度見て見る。
 と、あることに気がついた。
「・・・あれ? これ、4名様まで御招待って書いてある・・・」
 4人って事は、私と芹凪と美菜子を入れても、あと一人余るか。
 あと一人・・・う〜ん・・・。

 残りの一人を誰にしようか考えながら、帰り道を走っていくと、前の方の歩道に、どこかで見た事がある後ろ姿を見つけた。
「お、あれ、由希子ちゃんじゃないかな?」
 取り敢えず、ここで会ったのも何かの縁だから、これからのうちのお茶会にでも誘うかな。
 そう思って、私はクラクションを鳴らした。

 ピッピー。

「?」
 由希子ちゃんが振り向く。
 私が車の中から手を振ると、由希子ちゃんはにっこり笑って、こっちのほうに戻って来た。
 と、その時だった。

 ばしゃ〜ん!

 ちょうど私の車を抜かして行った車が、盛大に水をはね上げた。
「・・・あ・・・」
 そして、跳ね上がった水は、そのまま由希子ちゃんに・・・。
「・・・・・・え・・・」
 一瞬、何が起きたのか理解できない由希子ちゃん。
「おーい、由希子ちゃん、大丈夫・・・な訳ないか・・・」
「・・・ふにゃぁ・・・」
 ようやく、自分の状況を理解したらしく。
「ふにゃあ、ふにゃあ〜(涙)」
 あらら・・・すっかり猫化しちゃったよ・・・。

 取り敢えず、車に乗せて、先程貰ったバスタオルを由希子ちゃんに渡した後、車の暖房を最大限に効かせて、急いで家に戻る。
「とりあえずさ、うちでシャワー浴びて行きなさい。その間に、芹凪に服を洗濯してもらうから」
「・・・はい・・・」
「しかし、すまなかったね。私が声掛けなければ、水に濡れなくても済んだかもしれなかったけど・・・」
「いえ、良いですよ。私、芹凪さんのお茶、好きですし」
「・・・風邪、ひかないといいけどね・・・」
「・・・うにゃぁ・・・」
 結局、家に帰り付くまで由希子ちゃんは涙目で猫化したままだった。


「さ、急いで上がって、シャワー浴びて来なさい。お茶は、それからだ」
「はい・・・」
 私は、取り敢えず由希子ちゃんを連れて、玄関に入った。
 ぴんぽーん。
「お〜い、芹凪〜、今帰ったよ〜」
「あ、お帰りなさい、マスター」


 ...It continues to the next season.