小樽水上オルゴール堂シリーズ
「第9話『それぞれの初雪模様 〜美菜子の場合〜』」
(Episode:HM−13b4・芹凪、HM−13f375・美菜子(ToHeartオリジナルキャラ)
/連載SSシリーズ1作目・第9話)


 私は、自転車を部屋に運び上げると、いつも自転車の整備とかに使っている整備服に着替えて、さっそく自転車の分解整備から始めた。
 一つ一つ、部品を丁寧に外して行く。
 ブレーキパッド、タイヤ、サスペンション、変速機、ペダル、サドル、ハンドル・・・。
 最後に、フレームだけが残る。
 フレームなんか、あちこち傷だらけ。
 あはは、何か私がどう言う自転車の乗り方しているかって、これだけでばれちゃうね〜。
 ・・・結構、無茶な走りもしているからねぇ・・・。

 私は、傷だらけのフレームを撫でながら、何年か前の「約束」の出来事を思い出していた。


 その日は、今日と同じように、初雪の日だった。
 何日か前から朝晩寒くて、地面とかも所々凍っていて。
 そんなところに雪が降ったから、滑りやすい所とかもあったんだけど。

「大丈夫大丈夫。結構地面乾いているから、そんな危ない事ないよ。うん」
 私はそう言うと、いつものように自転車に乗った。
 玄関口には、心配そうな芹凪姉ちゃん。
「・・・でも、マスターも言っていたけど、本当、止めておいたら?」
「芹凪姉ちゃんも心配性だなぁ。大丈夫、危なかったら自転車押して行くからさ」
「うん・・・ならいいけどね」
「じゃあ、行って来るね〜!」
 右手をひらひら、いつもの挨拶をして、私は自転車に乗りこんだ。
 風よけの眼鏡をかけて、いざ、しゅっぱ〜つ。

 そうして、坂を降り始めたその瞬間。

 つるっ。

 影になっていて、アイスバーンになっていた所。
 日陰になっていて、見えなかったのが運の尽きだった。

 がしゃ〜ん!

 思いっきり転んで、自転車とだんごになって坂を落ちて行く私。
 落ちて行く間に、私は気を失ってしまって・・・。


 次に目が覚めた時、私は自分の部屋のベッドに寝かされていた。
「・・・あ・・・あれ・・・? 私、どうしたんだっけ・・・」
「ミナちゃん!」
「美菜子!」
 ふと見ると、ベッドのそばに、宗さんと芹凪姉ちゃんが居た。
「ミナちゃんのばかっ! だから止めておけば良かったじゃない!」
 芹凪姉ちゃん、そう言って私に抱きついてきて・・・そのまま、わんわんと泣き出してしまった。
「芹凪・・・姉ちゃん?」
 余りの事に呆然としていると。
「・・・あのな、美菜子。芹凪、お前が坂を落ちて行くのを見て、ものすごい速さで追いかけて行って、もう少しで車にひかれそうだったお前の事、助けたんだぞ」
 宗さんが、そう言った。
「・・・・・・」
 芹凪姉ちゃん・・・。
「・・・ゴメンね、芹凪姉ちゃん・・・ご、ゴメンね・・・」
 気がつくと、私も泣いていた。

「で、だ。美菜子、これから私と一つだけ、約束してくれ。初雪が降り出したら、その年はもう自転車は終わりな」
「・・・うん・・・」
 自分の慢心で招いた結果。私は、反省の意味も込めて、宗さんと約束をした。


 それから。
 初雪が降ったその日は、『自転車を整備してしまう日』って決めている。


 あ、このブレーキパットは、もうダメだね。
 これは新しいのに交換して。
 このワイヤーは・・・うん、全然大丈夫。

 それから私は、独学で自転車の事を一生懸命勉強した。
 だから、今では自分で分解整備も出来る。

 だって、後ろに芹凪姉ちゃんを乗せるなら、自分でしっかりと整備しておかないとね。


 さて、と。
 整備も終ったし、そろそろ一休みかな?
 ついでだから、シャワーも浴びちゃえ。
 私は、着替えを持って、部屋を出た。
 と、ちょうど芹凪姉ちゃんが、手に長い箱を持って階段を上がって来た。
「あれ? 芹凪姉ちゃん、それ、何?」
「これ? 私の宝物。でも、肝心のものが無いから使えないのよね〜」
「何々、楽器?」
「うん、胡弓っていう、中国の楽器よ」
 そう言って、箱を開けてみせてくれた。
 中には、その胡弓とか言う楽器。でも、楽器に張ってある弦は、切れていて。
 楽器かぁ。芹凪姉ちゃん、そんな良い趣味持ってたんだ〜。初めて聞いたよ。

 ・・・あれ? でも楽器・・・そう言えば・・・。
「・・・そう言えばさ、裏のおじさんって、確か昔は楽器職人さんもやっていたって言ってたよ。もしかしたら、弦、何とかなるんじゃないの?」
「え? それ、本当?」
「うん、ずっとずっと前に、街であった時に一緒にお茶したんだけど、その時にそんな話してたよ」
「じゃ、じゃあ、見て貰ってこようかな?」
「うん、そうしたら?」
「じゃあ、そうするね。ありがとう、ミナちゃん」
「どういたしまして」
 芹凪姉ちゃん、また階段を降りて行って、そのまま勝手口から裏のおじさん所に行ったみたい。


 私がシャワーから上がって来ると。

 ぴんぽーん。
「お〜い、芹凪〜、今帰ったよ〜」

 あ、宗さん帰って来たみたい。
 私は、頭をバスタオルでふきながら、玄関口に行った。


 ...It continues to the next season.