小樽水上オルゴール堂シリーズ
「第2話『昼 〜美菜子の場合〜』」
(Episode:HM−13b4・芹凪、HM−13f375・美菜子(ToHeartオリジナルキャラ)
/連載SSシリーズ1作目・第2話)
「んじゃ、加藤さん所で部品の仕入れと、小川さん所でガラス玉10個で良いの?」
私が、宗さんから貰ったメモ紙を見ながら確認した。
昼、お日さまが高くなって、お昼ご飯を食べた後。
私は、宗さんに頼まれて、お馴染みさんの所にお使いに行く事になった。
「え〜と・・・そうだな。こっちはそんなもんだ。美菜子の方の仕入れは?」
作業の手を止めないで、宗さんが聞いてくる。
「私? ・・・そうねぇ・・・小川さん所で、またコップ作らせてもらおうかな?」
「そうだな。美菜子のコップオルゴール、結構人気商品だもんな」
「・・・えへへ」
でもね。
宗さんは忘れてるかもしれないけど。
そのアイデア、元々は宗さんが出したんだよ。
「じゃ、行ってくるね〜」
「ほい。気をつけてな」
「は〜い!」
青い色のリュックを背負って、風よけの眼鏡をかけて。
お気に入りの自転車に乗って、いざしゅっぱ〜つ!
「ミナちゃ〜ん、帰りにお醤油買って来て〜!」
芹凪姉ちゃんが、台所の窓から体を乗り出して、走り始めた私に叫んでいる。
返事の代わりに右手を一回挙げると、私はそのまま家の前の坂を降りて行った。
小樽は、坂が多い。
初めてこの街に来た時は、坂の多さにウンザリしちゃったけど、今はこの坂の街が好き。
自転車で駆け抜けると、気持ちが良いしね。
私は、風を感じながら、止まっている路面電車の横をすり抜けると、坂を一気に駆けおりて行った。
「加藤さん、こんにちわ〜」
「お〜、ミナちゃん、いらっしゃい」
お使いの最初の目的地、加藤さん家はブリキ職人さん。
うちのオルゴールの部品は、ほとんどを地元の職人さんから仕入れている。
お互い、持ちつ持たれつって訳。
「宗さんが頼んでいた部品、出来た?」
「お〜、そのテーブルの上の箱、それが今回の注文分の部品だ。一応中身チェックしといてくんな」
「うん」
でも、チェックは数を数える程度。
中身の事は宗さんの折り紙つきだから。心配はいらない。
「うん、大丈夫だよ。じゃあ、これ、お代ね」
「お〜、いつもすまんね」
加藤さんはそこで、ふと何かを考えていたみたいだけど。
「ミナちゃん、お代は半分でいいから、一つ頼みを聞いてくんねぇか?」
「え、何? 私で出来る事ならいいけど?」
「イヤ、実は近いうちに従兄弟の娘っこがうちに遊びにくんのよ。んで、お土産でもと思ったんだけど・・・」
なるほどね。
「いいよ、私のコップオルゴール1個ね」
「スマンね、暇な時でいいから頼むわ」
「おっけ〜、任せといて!」
胸を一つ、とんと叩く。
ほら、持ちつ持たれつ。
「じゃあ、私、先急ぐから」
「お〜、今度ゆっくり遊びに来な〜」
「ありがと。んじゃね〜」
右手をひらひらさせて挨拶すると、私は荷物をリュックにしまいこんで、次の目的地を目指す。
「小川さん、こんにちわ〜」
「やあ、美菜子ちゃんか、いらっしゃい。宗一郎君の注文のガラス玉、今出来上がった所だよ」
次の目的地、小川さん家は、ガラス職人さん。
「今、磨きが終わった所でね。ちょうどいいタイミングだ」
「ありがとう。あと、お願いがあるんだけど・・・」
「コップかい? じゃあ、うちに置くぶんもまた作ってくれないかい? それでお代にしてあげるよ」
「ありがとう!」
ほら、ここでも持ちつ持たれつ。
4時間のガラスの塊との格闘の後、目の前には出来たてのコップが、20個ほど。
あ、最後の一個、ちょっとだけ形崩れちゃったな・・・。
「お疲れさん。ほら、麦茶飲んで行きなよ」
小川さんが、そう言って麦茶の入ったコップを渡してくれた。
「ありがとう。ん〜、でも一個失敗しちゃったなぁ・・・」
「どれどれ? ・・・うん、これならコップとしては使えないけど、オルゴール入れるのには形が面白くて丁度いいんじゃないの?」
「そうだね。じゃあ、これ特別な物に使うよ」
「特別な物?」
「そう。贈り物ね」
私はそう言って、にこりと笑ってみせる。小川さんも、それで納得したみたいだ。
「なるほどね。特別な訳だ」
そう言って小川さんもにっこりと笑ってくれた。
「じゃあ、今日はこれで」
「うん、また遊びにおいでよ」
「ありがとう。じゃあね!」
右手をひらひらさせて挨拶して、私はまた自転車で走りだす。
背中には、今日仕入れた物がしっかりと入っている。
その確かな重みを感じつつ、私は坂の上の、私の家を目指す。
吹き上げてくる風が、気持ちいい。
おっと、芹凪姉ちゃんにお醤油頼まれてたっけ。
...It continues to the next season.