・序章「事の発端」・


 男は、窓の外を眺めてたっていた。
 窓の外には、無限に広がる宇宙空間が広がっている。
 『ルナ・シャトル3番機』。知っている者が見たら、外観を見ただけでその名前を口にすることができるであろう。ただし、その「知っている者」と言うのはごく一握りの者でしかないのだが。
 ポーン。
『エイラック司令、定時報告に参りました』
「ん、入れ」
 パシュー。
 エアーコンプレッサーの音を上げながらドアが開く。ドアの向こうからは、部屋に先程から居た男より、若干やせ気味で背の高い男が入って来た。
「報告します。全ての訓練センターは異状無く訓練ミッションをこなしております。各種能力保有者の技術も向上しておりまして、何時戦闘ミッションが発動しても十分に対応できるものと思われます」
「・・・うむ」
「兵器生産センターも、異状無く稼働中です」
「・・・うむ」
「それから、先日の報告に有った、ジャパンのユイ=キタカミに関する追加報告がございます」
「・・・読め」
「はっ。 
『ユイ=キタカミのESP能力に関する追加調査報告。
 ESP判定機で調査した所、計測不能。恐らく、A級ESP能力者も足元に及ばない程の能力保有者と思われる。
 但し、本人はまだ能力の保有には気付いておらず、適応訓練を行えばその能力が開花するものと思われる。
 以後、追加調査中』・・・以上です」
「・・・調査ミッションは中止。以後は捕獲ミッションに切り替えろ」
「・・・はっ」
 長身の男は出てゆく。残された「エイラック」と呼ばれた男は、黙って窓の外を眺めつづける。
「・・・すまんな。これも地球の平和の為だ」
 ぼそっとつぶやいたその言葉を、しかし聞く者は居ない。