〜第2章・「出会い、そして・・・」〜
その頃、サン=ルーミス連合共和国からス・レム公国に通じる街道を、奇妙な4人の集団が歩いていた。
どこがどう奇妙かと言うと、その4人の構成にあるだろう。
「え〜ん、眠たいよぉ〜っ!!」
一番後ろにいて、眠たさで「だだっている」のは、森林妖精の女性である。
「しょうがないじゃないか、昨日レイドがあんな騒ぎを起こしたんだもの。ね?」
先頭で、笛を吹きながら歩いていた草原妖精がふりむいて笑いかけてきた。
「ワシのせいではないわいっ!お前が変な音楽を鳴らしたからじゃろうがっ!!」
それを聞いて、まん中にいた山岳妖精族が怒鳴り返した。
「まあまあ、怒りは何も利益を呼びません。そんな事より一曲、いかがですか?」
その後ろにいた半森林妖精が竪琴を構えながら話しかけてきた。
こんな調子で歩いていて、しかも全員が妖精族なのだから、街道を歩いている他の一般人達は、道の脇に避けてしまっている。 とある商人などは、あまりの奇妙さに思わず信じている商業の神に祈ったくらいだ。
「ねむいよ〜っ!!もう歩けないっ!!ねるっ!!」
ついに、森林妖精のフィスリアは道の真中に座りこんでしまった。
「頑張ってください。もうすぐでス・レム公国に着きます。そうしたら、好きなだけ寝かせてあげますよ」
それを見て、半森林妖精のイムリスが声をかけてきた。
「ほんとうに?」
半分泣きべそをかいて、フィスリアは聞いた。
「はい、本当に。 いいですよね、レイド? ザイン?」
そう言うと、彼は前を行く二人に声をかけた。
「わしは別にかまわんぞ。それより酒だ、飯だ!」
「僕も別にかまわないよ。それより歌だ、踊りだ!」
山岳妖精のレイド・レイトン、草原妖精のザイン・クイールはそう自分勝手なことを言うと、又歩きだしてしまった。
「ほら、ね?」
イムリスは、まるで子供をなだめるようにフィスリアに話しかけた。
「うぅ・・・本っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ当に、好きなだけ寝かせてくれるの?」
目に涙を一杯溜め、『うるうる』モードでフィスリアは聞いた(うっ、ついにやってしまった(笑))。
「はい、本っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっ当に、好きなだけ寝かせてあげますよ」
にこやかにイムリスはそう言うと、彼はフィスリアの手を取った。
「さあ、立ってください。ほらほら、涙をふいて」
その頃、『ガーリック』はその街道の上空を飛んでいた・・・いや、正確には『浮かんでいた』と言うほうが正しいだろう。
「あ、やばい・・・」
ぼそっと、サリュがつぶやいた。
「何が?」
それを聞き付けて、エミィがたずねる。
「エンジン・トラブルだってさ」
サリュは操縦席のメーターの一つを指した。そこには、赤い文字で『エンジン・トラブル』と書いてある。
「それって、どう言う事?」
「つまりはもうすぐ墜落するって事」
一瞬、エミィはサリュが何を言ったのかわからなかった。
「・・・って、ちょっと!私そんなのやだよ!」
途端に騒ぎだすエミィ。
「僕だってやださ。まあ、心配しないで。墜落するってのは最悪の時の事。今はまだ大丈夫さ。このまま軟着陸すれば・・・」
そう言うとサリュはそのための準備に入った。
「でも、ここって『サン=レム街道』の上よ」
エミィが言う。
「あ・・・忘れてた・・・」
「・・・あのね〜っ!」
「ねぇ、何か降ってくるよ」
イムリスの肩を貸してもらい、半分おぶさって歩いているフィスリアが、ふと上を見上げていった。
「え?・・・うわあぁっ!あれは『降ってくる』のではなくて『落ちてくる』んですよ!」
同じ様に上を見上げたイムリスは、自分達の方向に向かってくる『ガーリック』の姿を認め、慌ててフィスリアを抱えると、横の方に逃げた。
そして、その一瞬の後に彼らが今までいた所を『ガーリック』がかすめていった。
「おぉ〜い、大丈夫か?」
それを見て、先を歩いていたレイドとザインが走ってくる。
「・・・つかれた・・・一瞬とはいえ、人一人を抱えて走ってしまった・・・」
イムリスは草むらの中につっぷしていた。
「わたしぃ、だいじょぉぶ〜ぅ!・・・でも、眠たいよぉ〜」
その横で、元気良くフィスリアは手を振っていた。
(何か、この小説には一癖ある女性しか出てこないなぁ(笑))
「それより、落ちてきた『あれ』、だいじょうぶかな?」
ザインが「ガーリック」の落ちた方向を見て言った。
それを聞いて、やれやれとイムリスは立ち上がって、「ガーリック」の方を見た。
「あれって・・・『飛行装甲』じゃないですか?!」
「ひこうそうこうって、なぁに?」
りきんだイムリスは、その途端にへなへなと崩れてしまった。
「・・・フィスリア?」
「なぁに?」
「本当に眠たいんですね?」
「そうだよ〜」
やれやれと、イムリスは思った。
「とにかく、行ってみましょう」
「やれやれ、思ったより大変だった。 大丈夫かい、エミィ?」
機内で「荷崩れ」を起こした「ガーリック」の中で、サリュは荷物の中からはいだしてきた。
「私は大丈夫よ。 それより、サリュと『ガーリック』の方が大変じゃないの?」
エミィは着陸した瞬間、崩れた荷物の上に飛び上がっていたのだ。
「心配した分、損した・・・」
ぼそっと、つぶやくサリュ。
「何か言った?!」
ぎろっと、エミィはサリュの方をにらんだ。
「い〜え、何も。それより、本当に機体の方が心配だ」
そう言うと、慌ててサリュは「ガーリック」から降りた。
「エミィも、何か手伝ってもらうかもしれないよ」
外からサリュが声をかける。
「うん、それくらいなら・・・」
エミィも外に出た。
そして、外に出た二人を待っていたのは・・・。
先程の4人組みだった。
「あの〜、大丈夫、ですか?」
イムリスがサリュに話しかけてきた。
「あ、もしかして、さっき下にいた、妖精族の方達?」
エミィが横から口を挟む。
「はぁ、まあ、そんなところです」
「あら、さっきは本当にすいませんでした!彼がどじを踏んだばっかりに、皆さんに迷惑をかけてしまって・・・」
「いえ、別にいいんですけどね」
エミィの語調に、イムリスは圧倒されていた。
「・・・まあ、こっちは大丈夫です。 すいませんでした。私は天空騎士のサリュート・イーレーンです」
サリュが頭を下げる。
「私は・・・エミィって呼んでください」
エミィも頭を下げる。
「はい。私達は・・・私がイムリス。こっちがフィスリア・・・」
「よろしくぅ〜」
半分寝かかっていたフィスリアが、手を振る。
「・・おほん。で、こっちがレイドとザイン」
「レイドじゃ」「ザインだよ〜」
それぞれが自己紹介をする。
「で、その『飛行装甲』、大丈夫なんですか?」
イムリスがたずねた。
「え?よく飛行装甲だってわかりましたね、森林妖精の方?」
サリュが驚いてたずねる。
「まあ、一応学士の称号は持っていますから。それと、イムリスで結構です。半森林妖精です」
イムリスが答える。
「あ、すいません・・・」
半森林妖精は、人間族、森林妖精族のどちらかも迫害されているのだ。
「いえ、気にしていませんよ。それより・・・」
「ああ、これですか?」
と、サリュは「ガーリック」の方を見た。
「エンジントラブルを起こしましてね。これでは飛べない」
「え〜っ!どうするの〜っ?!」
エミィが叫んだ。
「大丈夫。私の友人を呼ぶから」
そう言うと、彼は懐から2枚のカードを取りだした。
「何をするの?」
エミィが聞く。と、それを見たイムリスがたずねてきた。
「もしかして、『無音魔術』ですか?」
「おや、さすがはよくおわかりで。その通り、無音魔術です。親から無理矢理教えこまれましてね。でも、今は感謝していますよ。何たって、便利ですから」
そう言うと、サリュは2枚のカードを空に掲げた。
「『風』と『扉』の力もて、我が友人レックスを呼びだしたまい・・・」
カードには、「風」と「扉」の紋章が入っている。・・・と、カードが光りだした。
『サリュか?』
「そうだよ。ガーリックが故障してしまって、飛べないんだ。すぐこっちまで来てくれないか?例の『カーゴ』で」
『「カーゴ」?お客様でも大量にいるのか?』
「そういう事。たのむぞ」
『わかった』
そうして、光は消えた。サリュはカードを懐の中にしまいこむ。
そして、彼は4人組の方に向き直った。
「皆さん、おわびに私の家に来ませんか?たいしたことはないですけど、食事くらいは・・・」
「わしはいく!」 「ぼくも〜っ!」
すぐに反応したのはレイドとザインであった。
「わたしぃ、ねむたいのぉ」
フィスリアはまたぐずり出した。
「あの、この子を寝かせてくれるのなら・・・」
イムリスがフィスリアをなだめながら言った。
「ああ、別にいいですよ」
「わ〜い、わたしもいく〜ぅ」
「では、お願いいたします」
そう言うと、イムリスは頭を下げた。
「何か、いきなり大所帯になったね」
それを見ていたエミィが、うれしそうに言った。
「旅は仲間がいっぱいいた方がいいしね。・・・とか言っているうちに、もう来たよ」
そう言われて全員が空を見上げると、飛行装甲を大きくしたような飛行船が飛んでくるのが見えた。
「あれ?さっき、サリュはここの場所を言ったっけ?」
エミィが首を傾げる。
「ああ、さっきの魔法は相手にこっちの場所を伝えることが出来るんだ。それに、レックスも無音魔術師だから」
そう話しているうちに、その飛行船「カーゴ」は着陸した。
「よお、サリュ。いつの間にこんなに友人を作ったんだ?」
「カーゴ」の中から背の高い天空騎士が出てきた。
「紹介します。彼が私の友人で、天空騎士のレックス・バーミン。
こちらの紹介はとりあえず後にして、早速出発しよう」
そう言うと、サリュは他の5人をカーゴに乗せた。
「サリュ、ちょっと来てくれ」
そして、サリュが「ガーリック」を「カーゴ」に積みこもうとしている時に、レックスがサリュを呼び止めた。
「ああ、悪い。俺達の家に運んでやってくれないか?」
「いや、そうじゃない」
サリュがそういうのをレックスはさえぎった。
「・・・何があったんだ?」
サリュもレックスのただならぬ気配を察知する。
「・・イス=エンファルで、クーデターが発生した」
「クーデターだって?!」
「しっ!声が大きい!」
レックスはサリュの口に手をあてた。
「俺も詳しくは知らんが、何でも親ゲンクマン派の法務大臣と財務大臣が国王を追放して、イス=エンファル暫定政権を築いたそうだ」
「・・・なぜ・・・」
サリュは愕然としている。彼の故郷がイス=エンファルなのだ。
「サールメン王国は国境の警備を固めた。その他の国もそうだ。下手をすれば、戦争になるぞ。・・・確かあの集団の中に、サールメン王国の第3王女がいたな?」
サリュが驚いてレックスを見上げる。
「少しの間とはいえ、俺だって宮仕えをしていた男だ。あの子にはまだ知らせないほうが・・・」
「うん、俺もそう思う」
サリュはうつむいてしまった。
「とりあえずは家に戻ろう。全てはそれからだ」
そういうと、彼らは「ガーリック」を「カーゴ」に乗せ、飛び立っていった。
今、イームレンの世界に戦いの兆候が表われている。
「天空騎士物語」 用語解説
◎「無音魔術」
通常の魔術(この世界には、「古代語魔術」、「精霊語魔術」、「神代語魔術」が「通常魔術」と呼ばれている)と違い、カードに描かれた力を象徴する紋章のマナを利用して魔法を使うという物。
どちらかというと、サリュが行ったような日常的な使われ方をすることが多い。 又、使う側にも特殊な「何か」が必要らしく、この魔術を使えるものは少ない。