今ではない時、ここではない場所。
『イツェーリナ』と呼ばれる世界があった。
『伝説、神話、魔術、技術』 ・・・この四つが同居する世界。
その全てが現実の物として存在する世界。
そして今日は、その世界の中にある一つの大陸での話から。
“イームレン” ・・・それがその大陸の名である。
そこには六つの国があった。
“1000年王国”と呼ばれる大国『サールメン王国』。
“水の国”と呼ばれる『フィエスラント王国』。
“賢人の国”と呼ばれる『イス=エンファル王国』。
“永世中立”を歌う平和の国『ス・レム公国』。
“気高き自治国家”と呼ばれる『サン=ルーミス連合共和国』。
・・・そして、“黒き衣”をまとっているという『ゲンクマン帝国』。
その中の一つ、『サールメン王国』から、今日の話しは始まる。
八人の若き英雄候補生達の話。
だが、今はまだ彼らは自分達の運命に気が付いてはいない。
さあ、聞きなさい。
私が語る八人の伝承歌を・・・。
−『真の楽士』 ディラム=スイール
『金羊毛』亭にて歌う−
巨大な王宮の中で、その男は一人で広間にたたずんでいて、窓の外を眺めていた。どうやら、何かを待っている様子である。
外には満天の星が輝いている。 室内は照明らしき物が全く無く、窓から入る月明りだけで照らされていた。
「・・・レイスか?」
その男は、振り向かずに後ろに広がる闇に向かって声をかけた。
「はい。 遅くなって申し訳ございません」
その闇の中から、黒いヨロイを身に付けた騎士風の男が出てきた。
「てこずったのか?」
「はい、ちょっとした邪魔が入りまして。 しかし、成功しました。 これで、“イス=エンファル”は我等が手中も同然」
レイスと呼ばれた騎士は、表情を変えずに男に報告をした。
「そうか、御苦労であった。 では、今日は下がって休むがよい」
「御意」
そう言うと、レイスは下がっていった。 男は、相変わらず窓の外を眺めている。
「・・・ふっ、こんな物では私の野望は満たされん。 まだまだだ。 ・・・しかし、あせってはならん。 あせっては・・・。 ・・・ふっふっふっ、はっはっはっ、あっはっはっ、あ〜っはっはっは!」
その笑い声は、いつまでも王宮内に広まっていた。 いつまでも、いつまでも…。