・第1章「来客」・
「なー」
「・・・はい? 『今日の晩ご飯は焼きサンマが良い』って? 玉次郎先生、それはちょっと財政的にきついですが・・・」
「な!」
「・・・わかりました、まあ仕方ないですね。先月の借りもありますし、今日は先生の言う通りにしますか」
台所で、まだ若い、ひょろっとした頼りなさげな風貌の男が、足元に居る三毛猫と話をしている。
晩ご飯のメニューの相談(相談と言うよりは、一方的に決められたようだが)のようだ。
「みゃ!」
窓から、白い毛並みの少し上品な感じのするネコが現れた。
「おや? ミントさん、お久しぶりですね。あ、そうだ。ミントさんもサンマ、いかがです?」
「みゃあ」
「有り難いけど今日は遠慮するって? まあそう言うならば・・・え? お客? 古物の方ですか? 違う? じゃあ、『仕事』ですか」
「みゃ」
「・・・玉次郎先生、サンマはちとお預けみたいですが?」
「な〜!!」
「解っていますって。仕事終わったらサンマ定食にしましょう」
男は猫達にそう言うと、ぱたぱたと台所から出て行った。猫達がその後に続く。
「え〜っと・・・確か、『片桐古物商』って所に行けば良いって聞いたから・・・あ、ここかしら?」
薄緑のワンピース姿の女性は、手に持った紙切れと「片桐古物商」と書かれた看板が上がっている店とを何度も見比べた。
「うん、住所も間違い無いし。・・・こほん」
とんとん。
「すいませ〜ん!」
・・・たぱたぱたぱた。からから。
「いらっしゃいませ。何かお探しでしょうか?」