せりなちゃんが行く!シリーズ
第1話「せりな、原稿を手伝うの事」
(Episode:水無月せりな(オリジナルキャラ)/こみっくパーティー&ToHeart
/連載SSシリーズ2作目・プロローグ)
時:金曜日、2030。
所:水無月家のせりなの部屋。
『かっこー』
私がパソコンに向かって、のんびりとネットサーフをしながら紅茶を飲んで居たら、突然ICQからメッセージが入った。
「・・・テレホタイムでもないのに、誰かしら? ・・・って、美紀子ちゃん?」
ICQのコンソールは、美紀子ちゃんのニックネーム『Kakko』が点滅して居る。
「どれどれ、出てあげようかな。・・・何となく用件は想像付くけどね」
どうせまた同人誌の仕上げが間に合わないから手伝ってとか、そんな感じだと思うんだけどね。
『やほー、せりなっち、ばんわー』
「美紀子ちゃん、ばんわー。どしたの、こんな時間に?」
『せりなちゃーん、一生のお願いっ! 今週末のこみぱに出す本、間に合わないの〜!(涙) お願いだから手伝って〜』
やっぱりね。思った通りだわ。
「・・・はぁ」
あまりの想像通りな答えに、思わずため息。
「美紀子ちゃん、これで何回目の『一生のお願い』か知ってる?」
『え・・・えっと、7〜8回くらい?』
「9回目だよ! もー、人に迷惑かけるくらいなら、同人なんて止めちゃえば?」
『そう言う訳にも行かないのよ〜。ねえ、後生だから手伝ってよ〜!』
「手伝った日数分のヤックバリュー+おやつ」
『えええっ!? それ、いくら何でもちょっと高くない?』
「じゃ、他当たってね。ばいばーい」
『あ、待った待った! 待って下さい、お代官さま〜(涙)』
「気が変わった?(にっこり)」
『ううっ・・・謹んでご献上させて頂きますm(__)m』
「よし、交渉成立ね。じゃあ、今から行くから」
『ありがとう! せりなっち、愛してるよ〜』
「同性に好かれても嬉しくないなぁ(苦笑)。それじゃ、15分後ね〜」
『はいはーい、待ってるよ〜(^^)/』
・・・はぁ。
結局引き受けちゃった。
私、いつも手伝ってるけど、同人ってよく知らないのよね。
何か美紀子ちゃんはいつも「こみぱ」とか言うイベントが近づくと、美容に悪そうな顔をして学校に来るけど・・・。
同人始めると、ああなっちゃうのかなぁ・・・はぁ。
これ以上は踏み込まないように気をつけないとね・・・。
「お母さ〜ん、ちょっと美紀子ちゃんの所に行ってくる〜。何時ものあれだから、多分日曜日の夜まで帰ってこれないよ〜」
「はーい。気をつけて行ってらっしゃい〜」
うちの親は、有る意味寛大。
何でなのか理由を聞いてみたら、昔うちのお母さんも一時期『それ系』のイベントに出ていたんだって。
初めて手伝いに行くって言う時にその事を聞いて、以来うちの親は私が美紀子ちゃんの手伝いをする時に限っては外泊もおっけ〜と言う状態。
・・・理解のある親を持って、幸せ・・・なのかなぁ?
時:金曜日、2054。
所:狩野家玄関前。
ぴんぽーん
ぴったり15分後、私は美紀子ちゃんの家の呼び鈴を鳴らして居た。
『はーい、どなた?』
インターホンから、美紀子ちゃんのお母さんの声が聞こえてきた。
「あ、せりなです。美紀子ちゃんに呼ばれてきました」
『あらあら、せりなちゃん、いつもいつもごめんなさいねぇ。どうぞ上がって』
「はーい、おじゃまします」
時:金曜日、2056。
所:狩野美紀子の部屋。
「あ、せりなっちー! ううう、ありがとう、来てくれると信じてたよ〜」
美紀子ちゃんの部屋に入ると、トーンくずをほっぺたにくっつけた美紀子ちゃんがうれし涙を流しながら抱きついてきた。
「だからぁ、同性に好かれても嬉しくないよ。はいこれ、お土産」
私は、美紀子ちゃんを引き剥がして、持ってきたコンビニの買物袋を手渡した。
「あ、ありがと。丁度、喉渇いて居たんだ」
「多分そんな事だと思った」
そう言って、私はテーブルに座った。
「で、何を手伝えば良いの?」
「あ、これね、コピーで出す突発本なんだ。50冊作るんだけど、このページからベタやって行って」
そう言って、美紀子ちゃんは漫画原稿を6枚手渡してきた。
「次のこみぱって、いつだっけ?」
原稿の中を確認しながら、私は聞いてみた。
「今度の日曜だよ」
「・・・はぁ・・・あのさぁ、そんな時間がないのに、何で突発本なんか作る気になったの?」
「え? えっと、ほら、印刷屋さんに出しちゃったら、暇になっちゃって・・・で、ついつい描き始めちゃったら、止まらなくなっちゃって・・・あはははは」
ほっぺたをかきながら、あらぬ方向を見て居る美紀子ちゃん。
「・・・はぁ。またいつもの悪い癖かぁ・・・」
そう言って、私はペンを受け取ると、早速べた塗りを始めた。
べたべた。
べたべた。
「・・・ところでさ、せりなっち?」
べたべた。
べたべた。
「・・・ん? 何?」
しばらく作業を、二人して無言で続けて居たが、ふと美紀子ちゃんが話しかけてきた。
「せりなっち、何気にこみぱの事とか、詳しくなってるよね?」
べたっ。
「あ〜!! 美紀子ちゃんが変な事言うから、はみ出した〜!」
「はい、ホワイト」
「・・・ありがと」
ぺたぺたぺた。
「・・・一体誰のおかげで詳しくなったと思ってるのよ?」
「あ、もしかして、私?」
べたべた。
べたべた。
「知ってる? 一番手に負えない性格って、本人に自覚が無い事だって言われてる事?」
「ううう・・・そこまで酷い事言わなくても〜・・・」
べたべた。
べたべた。
こうして、出来上った頃には夜もすっかりふけて居た。
「ありがと〜! おかげで助かったよ〜。後は私やるからさ、取り敢えずせりなっち、私のベッドで寝ておいて」
「うん、そーするー」
しょぼつく目をこすりつつ、私は美紀子ちゃんのベッドに横になった。
「美紀子ちゃんも、あまり無理するんじゃないよ〜」
「大丈夫。コレ消しゴムかけたら終わりだから」
「あそうなの? じゃ、おやすみー」
「おやすー」
私はそのまま、すぐに眠りに落ちてしまった。
時:土曜日、0942。
所:狩野家、美菜子の部屋。
ふと目が覚めると、既にそんな時間。
ぼーっとする頭で部屋を見渡したら、出来上った原稿の山の横でぐっすりと寝ている美紀子ちゃんの姿が有った。
ふと手元のメモが目につく。
『せりなっち、起きたら私も起こして〜』
「まったく、目覚ましくらいかけておけば良いのに」
思わず苦笑しながら、私は美紀子ちゃんを起こした。
「美紀子ちゃん、おはー」
「・・・あ〜・・・おはー・・・って、もうすぐ10時かぁ・・・」
「美紀子ちゃん、製本とか間に合うの?」
「あー・・・うん、ただのコピー誌だし、50部限定だから、だいじょーぶー」
「そっか。そしたらさ、取り敢えず朝ご飯食べに行こうよ」
私は、まだ寝ぼけ顔の美紀子ちゃんにそう提案した。
実のところ、私がお腹がすいて居たのだ。
「・・・そうだね。じゃあ、そこの『みよしのや』で、朝定かな?」
「おっけー。じゃあ、せめて身だしなみ位整えてから行こうよ」
そう言って改めて見た美紀子ちゃんの格好は、それはそれはすごい状態だった。
時:土曜日、1628。
所:狩野家、美紀子の部屋。
ぱちん。
「・・・っと、はい、完成〜!」
「よっしゃ、間に合った〜!」
思わず私と美紀子ちゃんで、両手をぱちんと合わせてガッツポーズ。
「でも、良かったね〜、前の日に完成してさ。今日は美紀子ちゃん、明日に備えて寝ておいた方が良いよ」
「うん、そーするー」
答えを聞きながら、私は持ってきた手さげ鞄を手に取った。
「じゃあさ、私もう帰るね。明日は頑張ってね〜」
「あ、あのさ、せりなっち」
と、帰ろうとした私を、美紀子ちゃんが呼び止めた。
「何?」
「その・・・明日、こみぱに出てみない?」
彼女から出て来た、そんな意外な言葉。
「・・・え?」
後で思えば。
この一言が、後の私の人生を変えてしまったに違いない。