「例えばこんな鏡開き」
(Episode:神岸 あかり・松原 葵(ToHeart)/小SSシリーズ・その8)


 1月11日。

 学校帰りのオレを、珍しい二人組が捕まえた。
「浩之ちゃ〜ん、ちょっと待ってよ」
「おう、あかりか・・・あれ? 葵ちゃんも?」
「こんにちわ、藤田先輩」
 校門から出ようとしたオレを呼び止めたのは、あかりと葵ちゃんのコンビだった。
 はっきり言って、この二人が行動を共にするのは珍しい。

 ・・・しかし、こう並んで見ると。
 赤と青か。
 ・・・ふ〜む・・・。
「コレで、まん中にレミィがいれば、さながら信号機って所か」
「・・・何、それ?」
 あかりが不思議そうな顔をして聞き返して来る。
 やべぇ、ついつい口に出して言ってしまったようだ。
「いや、何でもない。気にするな。ところで、二人ともオレに何か用事でもあるのか?」
「あ、そうですよ、神岸先輩」
 葵ちゃんがちょんちょんとあかりをつっつく。
「あ、そうそう。あのね、今日、鏡開きのお汁粉をこれから私と松原さんで作るんだけど、浩之ちゃんもどうかな?」
「鏡開き?」
 そうか、そう言えばそんな時期か。
「・・・そうだなぁ。晩飯にはちょっと早いけど、小腹が空いた頃だしな。・・・よし、じゃあ、いただくとするか」
「うん、じゃあ一緒に行こうよ」
「腕によりをかけて作らせて頂きます!」
 そう言って、あかりと葵ちゃんはにっこりと笑った。


「・・・で、結局オレの家で、って訳か」
 途中、スーパーでゆであずきの缶詰を買ったオレ達3人は、オレの家に集まった訳だ。
「うん、うちではお母さんが作るけど、浩之ちゃんの所、おじさん達暫く帰ってこれないんでしょう?」
「まあな」
 そう言いながら、オレは居間に置いて有った、中くらいの大きさの鏡餅を手に取る。
 それは、乾燥してあちこちにひびが入って居たが、固くてとても割れそうな気配は無かった。
「んでよ、ほれ、ご覧の通りかなり固そうだけど、どうする? 金槌でも持って来るか?」
「いえ、それは私にお任せください」
 と、今まで黙って居た葵ちゃんが、オレの手から鏡餅を受け取った。
「・・・では、行きます!」
 そう言うと、葵ちゃんは呼吸を整え、気を高め始めた。
「・・・・・・」
 そして、きっと鏡餅をにらみつける。
「はーっ!」
 そして、気合いを入れて、瓦割りの要領で手刀を鏡餅に当てた瞬間!

 ばこん!

 そんな音がして、鏡餅は砕け散って居た。
「・・・すげぇ・・・」
「瓦割りの応用です」
 そう言って、葵ちゃんはにっこりと笑った。

 ・・・しかし、ちょっと待てよ。
「・・・おい、あかり」
「ん? どうしたの?」
「もしかしてお前、葵ちゃんを、鏡餅割りのためだけに呼んだんじゃ無いだろうな?」
「違うよ〜」
 俺がそう言うと、あかりは困ったような顔をして否定して来た。
「あ、あの、藤田先輩、そうじゃないんです。私がお願いしたんです」
「は? 葵ちゃんがお願いした?」
 意外な答えに、ちょっと驚く。
「はい。私、実はその、どうもお汁粉の作り方がヘタで、それで、神岸先輩に教えてもらおうって思って、それで・・・」
 そう言うと、葵ちゃんは赤くなって俯いた。
「・・・なるほど、そう言う事だったのか。スマンな、疑ったりしてよ」
「ううん、説明が足りなかった私も悪かったよ。ゴメンね、浩之ちゃん」
「いえ、私こそ、誤解を招いてしまって、申し訳ありません、藤田先輩」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
 3人して、頭を下げあって。
「・・・ぷっ」
「くすっ」
「あははは」
 次の瞬間、3人して思いっきり笑って居た。


 その日のお汁粉は絶品だった。

− 終わり −