「芸術の秋」
(Episode:美坂 栞(Kanon)/突発企画シリーズ第6段)


「はぁっ・・・」
 教室に入って行くと、丁度香里が外を見ながら何やら溜め息をついている場面に出くわした。
「おはよーっす。朝から溜め息なんて、健康に良く無いぞ」
 冗談半分でそう言いながら、俺は香里に声をかけて自分の席に鞄を置く。
 ちなみに、名雪は日直の仕事とやらで今は職員室に行っている。
「・・・あ、相沢君、おはよう。・・・でもね」
 香里はそこでフッと考えるような仕草をしたが。
「秋だもの、私だって、たまには感傷に浸りたくなる事もあるのよ。・・・はぁっ・・・」
 そう言って、また外を見て溜め息一つ。
「ま、秋だからねぇ」
 そう言いながら、香里のそばによって、何の気なしに窓の外を見ると。
「・・・あれ? あそこに居るの・・・栞?」
 中庭に、栞が居た。
 しかもアレは・・・絵を描いている・・・のか?
 ご丁寧に小さなカンバスを立てて、何やら真剣に絵を描いている。
「・・・香里・・・溜め息の原因って、感傷に浸ってるんじゃなくて・・・」
「それ以上言わないで」
 ・・・どうやら図星らしい。


 で、昼休み。
「・・・おーい、栞〜」
「あっ、祐一さん、動いちゃ駄目です」
 中庭に呼び出された俺は、昼飯も食わしてもらえず、モデルにさせられていた。
 は、腹減った・・・。
「ぐ〜・・・」
 先程から、腹の虫は鳴きっぱなし。
 俺的心情風景も、泣きっぱなし。
 ・・・はぁ。
 香里が溜め息をつくのも、何か解ったような気がした。
「・・・そう言えば、おなかがすいたかもしれませんね」
 『んー』っと、口元に指を当てて栞がそう言う。
「た・・・頼む。先に昼飯食わせてくれ・・・」
「そうですね。じゃあ、お昼にしましょうか」
 栞はそう言って、やっと筆を置いた。
 た、助かったぁ・・・。

「なあ、栞」
 昼飯を食い終わった所で、先程から気になっている質問を栞にして見る事にした。
「何ですか?」
「もしかして、最近ずっと、『これ』か?」
 そう言いながら、俺は栞の横に置いて有る、小さなカンバスを指差した。
「ええ、そうです」
 にこりと笑いながら、栞が答える。
「だって、秋ですから」
 そう言いながら、栞は再びカンバスを組み立てはじめる。
 流石は姉妹。同じ事を言っている。
 思わず俺はぷっと噴き出した。
「? 何かおかしい事言いました?」
「いやいや、そうじゃないんだ。ただ、香里もそんなこと言ってたからね」
「おねえちゃんが?」
「おう、流石は姉妹だな〜って、な」
 そう言って、俺は栞の頭をなでてやる。
「そ、そうですか?」
 くすぐったそうにしながらも、おとなしくなでられている栞。
「ああ。・・・ま、香里はともかく、俺はいつでもモデルになってやるからよ」
「そうですか!?」
 嬉しそうに俺を見上げる栞。
「じゃあ早速、昼休みが終わるまで、またモデルになってください」
「はいはい、御意のままに」
「・・・ふふっ」
 そうして再び絵を描きはじめた栞は、すごく嬉しそうな顔をしていた。

− 終わり −