「例えばこんな、札幌観光
−羊が丘展望台編−」

(Episode:HM−13d634・夢見(オリジナルキャラ)(ToHeart)/掲示板掲載SSシリーズ・20)


 先日の事。
 知り合いが札幌に遊びに来て、「観光案内をして〜」とせがむので、まあせっかくの機会だしね、と、取り敢えず羊が丘展望台に連れて行く事にした。
 観光地としての場所的にも無難であり、なおかつ北海道名物「ジンギスカン」を野外で食べれると言う、なかなかに良いロケーションなのだ。

 で、札幌駅に彼を迎えに行った所。
 彼の横には、良く街中で見かける、朱色の髪の毛に銀色の耳かざりのお嬢さんがついてきて居た。

金「・・・たーさん(私は彼の事をこう呼ぶ)、セリオ連れだったんすか」
たー(以下「た」)「あ〜、言わんかったっけ。3ヶ月前に買ったんよ」
金「へ〜・・・で、名前は?」
夢見(以下「夢」)「−−はい、HM−13d634、夢見と申します。よろしくお願い致します」
金「ああ、よろしく。多分たーさんから、私がどんな人物かってのは聞いてると思うから、自己紹介は省略するね。ところで・・・」
 私はそう言うと、たーさんに向き直る。
金「たーさん、d型のセリオとは、これまた通ですね」
た「まーね。せっかくならそこまでこだわりたい。それより・・・」
 そう言って、たーさんは一度周りを見渡した。
た「どこかでお昼ご飯にしない? ちょっと時間早行けど、お腹すいてきたんよ」
金「あ、じゃあ、ちょっと待って頂ければ、今日これから行く所でジンギスカン食べれますけど」
た「いいねえ、ジンギスカン。北海道に来たからにはやっぱり一度は食べてみないとね」
夢「−−はい、楽しみです」
金「じゃあ、さっそく移動しましょう」

 彼ら二人をレンタカーの位置に連れて行く。

た「あれ? そう言えば、金やん所の芹緒っちと芹凪っちと美菜子っちは?」
 車に乗りこんだ所で、ふっと思い出したようにた〜さんが聞いてきた。
 たーさんが言ってる『芹緒っちと芹凪っちと美菜子っち』と言うのは、うちに居る(居た)セリオ型の事だ。
金「あ〜、こっちも言ってませんでしたっけ。芹凪と美菜子、小樽の水上オルゴール堂って所に嫁入りして行きましたよ」
た「ありゃりゃ、いつの間に。何で?」
金「いや、何で言われても、元々あの二人って、次のオーナー見つかる間までって約束で預かってただけですから」
た「ありゃ、そうなん。じゃあ、芹緒っちは?」
金「今日はお留守番です。何でも私が出かけて居る間に、部屋を片づけておくんだ〜って、一人で盛り上がってましたよ」

 ほうき片手にガッツポーズ、『オーナーさんが帰ってくるまでにはお部屋をぴかぴかにします!』って、何かやたらと気合い入ってたっけ。

た「なーんだ。せっかく夢見にお姉さんに会わせてやろう思ってたんになぁ」
金「すいません。明日時間が有れば明日って事で良いですか?」
た「そだね。じゃあ、明日も金やん、アッシーやってね(笑)」
金「へいへい、たーさんには敵わないですね(苦笑)」
 そんな会話をしながらも、車は一路羊が丘展望台を目指す。
夢「−−あの、マスター?」
た「ん? 何?」
夢「−−その、私のお姉さんって言うのは・・・?」
た「ああ、夢ちゃんには言わんかったっけ。金やん所に居る芹緒っち、HM−13のa2型なんよ」
夢「−−a型・・・量産試作機タイプのお姉さんですね。でも何故? あの型は3機が作られて、全員来栖川のお屋敷に居ると聞いたのですが」
金「よく知ってるね。ま〜、色々と訳合って、今はうちに居ると言う訳」
夢「−−そうでしたか。どんな方か、明日会うのが楽しみです」
金「・・・あまり期待しない方がいいかもよ(笑)」

 やがて車は、羊が丘展望台に着いた。

た「ずいぶん街中から外れてるんね。何となく、北海道の広さを思い知ったような・・・」
金「この程度で思い知られても困るんですけど(笑)。じゃ、ココから先は歩きです」
 頷いて、二人が車から降りたのを確認して、車の鍵をしめる。

金「・・・で、その偉業を称える為に、ここにクラーク像を設置した・・・ってのは、まあ有名な話ですよね」
た「そうだね。そのくらいの話なら、俺でも知ってる」
夢「−−データとしてなら、私も存じております。確かこの銅像の指は、博士の故郷の方を向いて居るとか」
金「うん、確かそう。・・・って事で、じゃあ次はいよいよお待ちかね、ジンギスカンですな」
た「ううっ、楽しみ楽しみ。実はさっきからそればっか考えててな、腹の虫が鳴ってるんよ」
金「あはは、お待たせしてしまってすいませんでした」
 欠食児童をジンギスカンコーナーに連れて行く(笑)。

神威(以下「神」)「おや、金ちゃんいらっしゃい」
金「ありゃま、神さん今日はバイトの日?」
神「そうだよ〜。・・・って、後ろの人お知り合い?」
金「ああ、こちらは私がいつもお世話になってるチャットルームの友達さんで、たーさん。こちらはたーさん所のセリオで、夢見さん。
 たーさん、夢見さん、こちらはうちのページによく遊びに来てくれる人で、神威さん」
た「ども、はじめまして」
夢「−−よろしくお願い致します」
神「いらっしゃい。ところで、ココに来たって事は、今日のメニューは『アレ?』」
 そう言って、神威さんは意味ありげに笑う。もちろん私はその意味を百も承知だ。
金「ええ、例のアレで。何と言っても、今日の主賓はたーさんと夢見さんですから」
神「おけおけ。じゃあ、その辺に適当に座ってて」
金「ういうい。しかし、客に適当に座っとけって言う店員も、何だかね(笑)」
神「ほっときなさい(笑)」
 適当な席に座る。向かいにたーさんと夢見さんも座る。
た「金やん、さっき言ってた『アレ』って、何?」
 案の定、不思議そう・・・と言うより、多少不安げな表情をしたたーさんが聞いてきた。
 よしよし、ココまでは計画通り。
金「ま、私はココの常連なんで、常連相手にしか出してくれないスペシャルメニューをお願いしたんですよ」
た「スペシャルメニュー? それは楽しみだね、夢ちゃん」
夢「−−はい、楽しみです」
 見ると、夢見さんまで期待のこもった目つきで神威さんを見てる。
 うーむ、たーさんはともかく、夢見さんまで被害が及ぶのはちと心が咎めるが・・・。
 ま、いいか。

神「はいはい、まずは野菜お待たせ〜」
 その言葉と共に、大皿に野菜が盛りつけられて席に運ばれてきた。
た「おうおう、じゃあ早速焼こうかぁ・・・って、肉は?」
 確かに、運ばれてきた大皿には野菜が乗って居るのみで、肉はひとかけらも無い。
 それを聞いた神威さんは、にこりと笑って。
神「お肉に関しては、これから準備させて頂きます。つきましては、本日の主賓であられますたーさんと夢見さんには、あの中から選んで頂けますでしょうか?」
 と、近くに放し飼いされて居る羊達を指差した。
た「・・・はい?」
夢「−−・・・・・・え?」
 二人、一瞬硬直。
神「ですから、あの中から今日のお食事にしたい羊を選んで頂きたいのですが」
夢「−−・・・ご、ご冗談、ですよね?」
 かろうじて、と言う感じで夢見さんがそう言う。
 たーさん、すっかり目が点状態。
神「いえいえ、決して冗談などでは。当店の素材は新鮮がモットー。お客様のご注文を受けてから準備するのが当店の売りでございます」
夢「−−・・・・・・」
 夢見さんまであっけにとられた模様。
 私は、横でそのやりとりを見ながら、笑いをこらえるのに必死だった。
た「・・・・・・じゃ、じゃあ・・・あれ」
神「あの羊ですね。畏まりました」
 神威さんはそう言って、たーさんが指差した羊を、首輪をつかんで厨房に連れて行く。

 ・・・そして数分後。
『めえええええええええぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!!』
た(びくっ)
夢(びくっ)
 羊の断末魔の声。びくつく二人。
た「・・・・・・(こちらを見て、何か言いたそうに口をぱくぱくさせて居る)」
夢「−−・・・・・・(たーさんと同じ)」
 やがて、大皿に盛られた羊肉が到着した。
 神威さんのエプロンは、当然ながら赤く染まって居る。
神「はい、お待たせいたしました。では、ごゆっくりどうぞ〜」
金「さーて、じゃあ新鮮な所で腹一杯食べましょうか。・・・あれ? たーさん、夢見さん、どしたの?」
た「(目に涙を浮かべながら)・・・あ、あうあう、こ、これ・・・(羊肉を指差す)」
夢「−−・・・・・・(完全に泣いてる)」
金「ありゃま、ちとやりすぎたかな?」
た「・・・やりすぎ?」
 たーさんが、その言葉に首をかしげる。
金「神威さん、もういいよ〜」
神「ありゃ、もうおしまい? 意外と持たなかったねー」
 そう言って厨房から出てきた神威さんが連れてきたのは、先程の羊。
た「・・・え?」
神「ははは、いくらなんでも放し飼いにしてる羊を締めて出すなんて事はしませんよ」
た「・・・って事は・・・これは・・・」
神「はい、通常仕入れルートから入ってきた物です」
た「・・・金やん! だましたなあ!」
夢「−−金谷さん、あまりにも酷過ぎます・・・」
金「わはははは! ココまで素直にだまされると、こっちとしてもココに連れてきた甲斐が有りますよ〜」
 そう言いながら、私は追いかけてくる二人から逃げ出すべく、そこから逃げ出した。

 ちゃんちゃん♪

− おしまい♪ −