小樽水上オルゴール堂シリーズ
「プロローグ『小樽水上オルゴール堂』」
(Episode:HM−13b4・芹凪、HM−13f375・美菜子(ToHeartオリジナルキャラ)
/連載SSシリーズ1作目・プロローグ)


 北海道、小樽市。
 風の香る、運河とガラスと丘の街。
 ゆったりとした時間が流れる、どこか異国の雰囲気をたたえた街。

 その、町外れの丘の上にある、一軒のオルゴール屋さん。
『小樽水上オルゴール堂』。
 観光の街小樽に相応しい佇まいの、こじんまりとした店。

 カラン。
 店に入ると、様々な大きさ・種類のオルゴール。
 大きいの、小さいの。普通のオルゴールから、本当にオルゴールかと思う様な物まで。

「あら、いらっしゃいませ」
 と、店の奥から、見た感じ15〜6才位の女の子。
 よく見ると、耳には特徴的な耳かざり。

「ええ、私、メイドロボットですから。HM−13・セリオタイプです」
 そう行って、にっこりと微笑む。
 メイドロボットだと言う事を感じさせない、ごくごく自然な笑顔。

「姉ちゃん、ただいま〜!」
 と、ドアがいきなり開いたかと思うと、元気よく飛び込んで来た女の子。
 こちらもまた、姉さんと呼ばれたメイドロボットのお嬢さんと、うりふたつの姿にうりふたつの耳かざり。

「え? ああ、そりゃあそうさ。私も姉ちゃんと同じ型のメイドロボットだからね〜」
 そう言って、けらけらと笑う妹さん。
 ・・・とても、同じセリオシリーズのメイドロボットとは思えない。

「それはね、芹凪姉ちゃんはロットで言えばb型。セリオシリーズ製品版の最初の型だからだよ。私は最終ロットのf型。どちらかと言えば私の場合は、HM−14・ミライシリーズのノウハウがフィードバックされているから、同じシリーズといっても微妙に違うんだよね〜」
 そう言って、またけらけらと笑う。
 ・・・ロットの違いって、性格の違いにも出るのかな?
「さあ? そこまでは私も知らないよ〜」

「ところでミナちゃん、その左手にぶらさがってるの、何?」
「あ、これ? 海水浴場にもぐりに行ったら、たまたま捕まえたんだよ、ほら」
 そう言って、手にぶら下げた物を持ち上げる。
 よく見ると・・・タコ。
「あら、じゃあ今日のマスターの晩ご飯のおかずは、タコのお刺し身かな?」
「うん、私もそれがいいと思うよ。宗さん、喜ぶと思うし」
 半分はしゃぎながら話をする二人。

 何か、客の私が居るのも忘れて、晩ご飯の話を始めてるけど・・・。
「すいませんね、こいつら、仲が良いのはいいんですが、それで時々商売忘れてしまうんで・・・」
 後ろからそんな声。
 振り返ると、まだ30ちょっと前くらいの、眼鏡が似合うハンサムさんが立っていた。
「ようこそ、水上オルゴール堂へ。私が店主の、水上宗一郎です。何かお求めのオルゴールでもございますか?」

 でもまあ、『仲良き事は美しき事かな』って言いますしね。
「そうですね。まあ、この子たちがいてくれるおかげで、こっちも楽しく暮らさせてもらっているのは事実ですし」
 そう言ってにこやかに笑う水上さんの笑顔が印象的だった。

「では、税込みで2500円になります・・・はい、ありがとうございます」
 結局、私はガラスコップに入っていると言う、独創的なオルゴールを買い求めた。
「どなたかへのプレゼントでしょうか?」
 いや、自分への土産といった所ですね。帰ったら机の上にでも飾らせて頂きますよ。
「ありがとうございます。良い旅になると良いですね」

 そして、店を後にする。
 最後に振り返ると、あの姉妹がそろって手を振っていた。
 笑顔で手を振り返し、私は丘を下って行った。


 小樽。
 このオルゴールを見るたびに。
 小樽と言う地名を聞くたびに。
 私は、あの眼鏡のご主人と、仲のよいメイドロボットの姉妹を思い出すだろう。


 ...It continues to the next season.