・年賀の小咄・


 あけましておめでとうございます。恒例の小話を一つ

 今年は12年に1度、月への門が開く年。
 地兎は久々に月兎に会いに出かけた。もちろん手土産に人参を持つのを忘れない。山の頂きにある門からは、太陽風を利用して一気に跳躍すればすぐだ。
 土星兎はカシニの隙間から釣り上げた薄い輪の氷を持参して、彗星の定期バスにのる。ほんの一眠りすると、木星兎がイオから採取した炎を携帯懐炉に入れて乗り込んで来る。
 途中、小惑星の河で釣りざおをたれて、チョコレート魚を釣り上げた。

 月に到着すると、極冠の底の水を水筒一杯に携えた火星兎が迎えてくれた。今年の水はいつもより深いところから汲み上げたらしい。自慢気に鼻をひくつかせる。
 月兎はこれから1年間行われるパーティの準備に余念がない。水星産の硝子器をつくり出した水星兎と、炭酸の結晶を首から下げた金星兎の手を借りて、月餅作りに励む。
 今年は去年降った流星が、月面いっぱいに散らばっていて、パーティの飾り付けに事欠かない。穏やかな太陽の光りにキラキラと輝くのだ。

 準備は整った。どれも特別品だ。水星の硝子器に土星の氷を入れ、火星の水を注ぎ、金星の炭酸を加えれば、ほんのり甘い曹達水の出来上がりだ。
 イオの炎で焼いた月餅、生の人参、チョコレート。
 流星の残した銀世界で、人間の置いていった旗を振りながら今宵踊る。
 今年もよい年でありますように。
 12年後も同じでありますように、と。


 このお話しは、「文字使い 紅茶」さんに年賀メールを送った所、お返事に頂いた物です。
 ご覧のとおり素敵な文章でしたので、勝手ながら掲載させいて頂きました。
 どうもありがとうございました。