「5。」
(Episode:HMX−13・セリオ(ToHeart)
/セリオ誕生日おめでとうSS/小SSシリーズ・その23)
「・・・そうですか、もうそんなになるのですね・・・」
小さめの直径の苺のショートケーキ。
上に乗った5本のろうそくを眺めながら、『しみじみと』と言う感じでセリオはそう言った。
「まあ、コレが長いと感じるか、短いと感じるかはその人次第ってとこだろうな」
柄にもなく哲学っぽくそう言ってやる。
それを聞いたセリオは、こくんと頷くと、何か考え込むかの様に、じっとろうそくの炎を見つめて居た。
まあ、要するに今日はセリオの5回目の誕生日と言う訳で。
ささやかな誕生日パーティーを、オレとセリオの二人でやって居る所だった。
セリオがケーキを食べれる訳無いって言うツッコミは却下な。
こう言うのは雰囲気が何より重要だとオレは思ってる訳で。
「浩之さん・・・毎年毎年、ありがとうございます」
と、唐突にセリオはそう言って、ぺこりとおじぎをした。
珍しくポニーテールにして居る髪の、しっぽの部分がふさっと揺れる。
「ん、まあオレがセリオに出来る事って、コレくらいしかね〜けどな」
少し照れ隠しぎみに、鼻の頭をかきながらそう答えてやると、セリオは柔らかに微笑みながらオレの方を見て居た。
「では浩之さん、準備は宜しいですか?」
パーティーの後片づけを終えたセリオが、台所からエプロンで手を拭きながら出てきてそう言った。
「ああ。じゃあ行こうか」
「はい」
頷いたのを確認して、オレはセリオの手を取ってやった。
「・・・・・・」
一瞬の躊躇の後、きゅっと握り締めて来るセリオの手。
その手は、ほのかに温かかった。
外に出て、ふたり、手を繋いで歩き出す。
空を見れば、西の空が僅かに朱に染まってる程度。
雲一つない空は、やけに蒼く黒く見えた。
「いい天気ですね」
「そうだな」
いわゆる寒空色。
でも、不思議と寒さは感じない。
途中、買い物の帰りなのか、大きめの袋をぶら下げた近所のHM−16とすれ違った。
来栖川が去年に出した新しいモデルだ。
すれ違いぎわに、軽く会釈をして行くHM−16。軽く返すセリオ。
「・・・5年経過すれば、今の妹たちの方が遥かに性能は上ですね」
ぽつりと、セリオがHM−16の後ろ姿を見送りながらそう言った。
「ん?」
「この前主任に聞いたのですが、結局私の妹たち・・・『セリオシリーズ』は、衛星と交信して居る瞬間に発生するタイムラグを、量産型の最終『f』シリーズに至るまで解消出来なかったそうです」
誰に語ると言う訳でもなく、しかし独り言と言う訳でも無く。
「今のHM−16シリーズは、衛星に寄るシステムではなく、来栖川が独自に構築した通信網と無線LANシステムを利用した、高速通信システムに寄るサテライトサイト利用、と言うのを行って居るそうです」
セリオは、そこまで一気に語った。
「ほう」
「大須にいる妹が、しきりに自分の事をポンコツだと嘆いて居ましたよ」
セリオはそう言うと、くすっと笑った。
「それだと私もポンコツですね」
「ポンコツねぇ」
それを聞いてオレは苦笑して居た。一体どこでそんな言葉憶えてくるんだ?
そして、『そこ』には、本当にあっという間に着いた。
「・・・5年たっても、変わらない物もあるのですね」
そう言って、セリオはその建物を見上げた。
校門には『西音寺女子学院』の文字。
「そうだな。まあ、オレ自身はここに来た事って、片手で数える程度しかね〜から、変わってるのかどうかってのは解らんけどな」
「いえ。5年前・・・私が、綾香お嬢様に連れられて来た時と、ほとんど変わって居ません」
そう言って、セリオは、懐かしむかの様に見回して居た。
「まだ、梅や桜の季節には早いですね」
「まあな。北海道あたりじゃまだ雪だって言うし」
「・・・少し、残念です」
多分、セリオの記憶の中には、満開の桜の花に彩られた学校が残ってるに違いない。
「浩之さん」
と、くるりとセリオが振り向いて来たかと思うと、とんっと言う感じでオレに抱きついてきた。
「5年間、ありがとうございました」
「何を今更」
「そして・・・もし宜しければ、これからも・・・」
「・・・そこから先は、言うまでもないだろう?」
オレがそう言うと、セリオは少しだけ拗ねたような表情をした。
「・・・では、行動で示して下さいね」
そう言ってそのまま目をつむる。
「・・・どこかで見た事あるパターンだな」
「いいんです。お約束って、必要だと思いますし」
「・・・まあな」
オレはそういって、くすっと笑う。
それから、ゆっくりと、口づけをしてやった。
5回目の、お祝いと、これからをと願って・・・。