「白の・・・恐怖? in the DarkSide.」
(Episode:来栖川 綾香、HMX−13・セリオ(ToHeart)/小SSシリーズ・その21)


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 3月7日。
 家に帰る途中で、何やらうれしそうな顔をして居る綾香に捕まった。
「ねえねえ、来週、待ってるからね〜」
「こらこら、話の途中を省略するな。一体、来週何を待ってるってんだ?」
「あら、やっぱり浩之ってこう言うのに鈍いのね」
「話がずれてるって〜の。来週がどうしたんだ?」
「・・・浩之、来週って何の日だか、本当に解らないの?」
 そう言って、ジト目でオレを見て居る綾香。
 来週? 来週って、14日だよな、確か。
 ・・・あ。
「・・・・・・なるほどな」
「やっと思い出したみたいね」
 そう言うと、綾香はオレの腕に飛びついて来た。
「楽しみに待ってるからね〜」
「あのなぁ。お前の方からホワイトデーの物を請求してど〜すんだよ。第一、先月・・・」
 ・・・あれ?
 そう言えば、オレ、バレンタインの時、綾香から何貰ったっけ?
「先月、どうしたの?」
 話が急に途切れたので、綾香が不思議そうな顔をしてオレの顔をのぞき込んできた。
「先月・・・えーと・・・イヤ、何でもない」
「ふ〜ん? ・・・あ、もしかして」
 ぎくっ。
 背中を、つつーっと、冷たいモノが滑り落ちる。
「ま・さ・か、浩之、私とセリオが何をあげたのか、忘れたなんて言わないわよね〜?」
 ぎくうううぅ!!
「な、なななな何を言ってるんだよ、そ、そそそんな事ある訳無いでおじゃりますの事ですよ」
「・・・言ってる言葉が支離滅裂よ」
 そう言いながら、綾香はオレから少し距離を取った。
 その瞬間、ゆらりと立ち上がる殺気。
「わ〜っ! 待て待て! わかった、悪かったから、このとーり!」
 必死に手を合わせて、平謝りに謝るオレ。
「・・・はぁ。全く、仕方ないわね・・・」
 そう言って、綾香はファイティングポーズを解いた。
 ふぅ、助かった。

 ごすっ。

 そう思った次の瞬間、0距離からのかかと落としが飛んできた。
「・・・あのなぁ、殺気を消してからそんな技出すんじゃね〜よ」
 そう言いながら顔を上げた時、ふと目線が綾香の足のつけ根に行った。
 ・・・あ、白。
「だって、そうでもしないと浩之には当てられないじゃないの」
 そう言って、綾香は肩をすくめた。
 ・・・良かった、見た事はバレて無いらしい。

「思い出したよ。食いきれね〜ほど巨大なチョコレートケーキ」
 想像しただけでもあの時の甘い味が思い出されそうになって来る。
 ・・・今日、晩飯パスしようかな・・・。
「アレ作るのに、セリオと二人で本当に苦労したんだから。そう簡単に忘れられちゃ困るわよ」
 そう言って、綾香ははぁっと溜め息をついた。
「解った、本当に悪かったよ。お詫びに一週間後は奮発させてもらうよ」
「本当?」
 次の瞬間、目を輝かせて綾香がオレに飛び付いてきた。
 もしかして・・・演技?
「ホワイトデーは3倍返しが相場だからね、楽しみにしてるわよ♪」
「ぶっ! だ、誰がそんな事決めたんだよっ!」
「あら、こんなの一般常識よ、一般常識」
 一般ではないお嬢様に一般常識云々を言われたくは無いぞ。
 オレは心の中で突っ込んで置いた。
「ま、ともかく。楽しみに待ってるからね」
「へいへい・・・」
 しかし、そうなると、財布の中が厳しい今月はちと辛いモノが・・・。
「あ、それに」
「? まだ何かあるのかよ?」
「さっき私がかかと落としをした時にパンティーを見た分も上乗せね」
「・・・・・・」
 バレてるし。

− 2 −

 3月8日。
「よお、セリオ」
「こんにちわ、浩之さん」
 オレは、駅前のバス停でバス待ちをしていたセリオを呼び止めた。
「ところでセリオ、ちょっと聞きたい事があるんだけど・・・」
「何でしょうか?」
「何かこう、一週間程度でそれなりに稼げるアルバイトって、無いかなぁ?」
 そう。昨日綾香には「奮発する」とは言ったんだが、財布の中はかなり厳しい。
「・・・ホワイトデーですか?」
 うっ。
 ずばり当てられてしまう。
 いつからセリオはそこまで読みが深くなったんだ?
「ま、まーな」
「なるほど・・・そう言う事でしたら、私もご協力させて頂きます。・・・ところで、そんなにお財布の中身、厳しいのですか?」
「ああ。実はかなりピンチだ」
 頭の中で、預金通帳の残高をざっと思い浮かべる。
 確か、5桁がやっとだった筈だ。
「で、何か無いかなぁ?」
「そうですね・・・」
 セリオに聞くと、セリオはしばらく考えこむような仕草をして居たが。
「手段を問わないのであれば、銀行強盗なども短期間で高額の収入を得る事ができますが」
「誰が犯罪に手を染めろと言った!」
 オレはぺしっとセリオの頭を叩いた。
「躰で稼ぐと言うのも一つの手ですが」
「か・・・躰で?」
 オレの頭の中に、一瞬全裸になっていて、客を取らされて居るオレの姿が思い浮かぶ。
「・・・浩之さんの年齢の青年男子。さぞや、高く売れると思います」
 そう言って、セリオはオレの頭から足の先までをすっと眺める。
「・・・おいおい、それだけは勘弁して・・・」
「東南アジアあたりのブローカーを経由すれば、600万円以上の収入が見込めます」
東南アジアあたりのブローカーを経由すれば・・・(by:桐原 瞬さん)
(このCGは、桐原瞬さんから頂きました。ありがとうございました)
 ・・・は?
 東南アジア?
「おい、セリオ、それって・・・」
「大丈夫です、浩之さん。腎臓なら、片方無くても生活に支障は出ない筈です」
「臓器売買かい!」
「・・・それ以外に何を考えて居たのですか?」
「・・・イヤ、何でもない」
「大丈夫です。麻酔処置を施しますから、痛くは無いです」
「あのなぁ、それだって十分に違法行為だろうが」
「・・・と言うのは冗談で」
 ・・・いつからセリオが冗談を言う様になったんだ?
「少々お待ちくださいませ。現在サテライトで検索して居ます・・・」

− 3 −

 3月14日。
 そうして、それから約一週間、オレはセリオに紹介された短期バイトで、何とか資金を稼ぎ出すことに成功した。
 何のバイトをしたかは・・・頼む、聞かないでくれ・・・。

「と、言う事でだ」
 オレはそう言いながら、目の前の綾香とセリオを眺めた。
「早速だが、どこに行く?」
「じゃあ、○×ホテルで食事ね♪」
「・・・○×ホテルったら、目茶苦茶高級ホテルじゃね〜かよ」
「うん、そこで食事して。その後スイートでは、寄り添ってしっとりと・・・」
 そう言って、綾香はぽっと赤くなる。
「・・・あのなぁ。酔った勢いで押し倒せとでも言うのかよ」
「あら、私はホワイトデーのお返し、それでもいいわよ。・・・その代わり、ちゃんと貰ってくれるならね」
 そう言って、綾香はくすくすと笑い出す。
「・・・・・・」
「綾香お嬢様、私もご一緒で宜しいでしょうか?」
「もちろん。当然でしょ?」
「・・・嬉しいです」
「そうよね〜。浩之は片方だけおみそにするような、酷い男じゃないわよね〜? ・・・って、あれ? 浩之は?」

「・・・何も見なかったし、何も聞かなかった事にして置こう・・・」
 オレは、こっそりとその場を逃げ出すと、何事も無かったかの用に家に帰ったのであった。

− 終わり −