「ひな・・・まつり?」
(Episode:HMX−13・セリオ(ToHeart)/小SSシリーズ・その19)


 3月3日。
 のんびり寝ている所を、セリオに起こされた。

「んあ・・・どした、セリオ?」
「あの・・・お休み中の所を申し訳ありませんが、居間の方までお越し頂けないでしょうか?」
 ちょっと困ったような顔をしたセリオが、そう言った。
「どした? 何か困った事でもあったのか?」
「いえ、そうではないのですが・・・」
 ?
 何やらセリオが言い淀んで居る。
 まあ、どうせ寝ているだけのつもりだったし、ちょっと起きてセリオの相手でもしてやろうか。
「解った。すぐ行くから、先に下に行っててくれ」
「はい」
 セリオはぺこりとおじぎをすると、部屋を出て行った。
「・・・さて」
 一体何があるのかは解らないが、取り敢えずパジャマから着替えると、オレは居間の方に降りて行った。

「セリオ、来たぞ・・・って、何、これ?」
 居間に行くと、何やら座布団が並べて置いてあって、その前に徳利とひし形の餅が乗った台が置いて有った。
「今日は、ひな祭りでして」
「・・・・・・ああ、そう言えば」
 自分自身に全く縁が無いイベントになってしまって居たので、すっかり忘れて居たが、今日は3月3日か。
「まあ、ひな祭りは解ったけど、ひな人形すら無いじゃないか」
 そこにあるのは、座布団のみ。ひな人形の影も形もない。
「ええ。ですから、私と浩之さんがひな人形役をやります」
 なぬ?
「オレとセリオが・・・ひな人形?」
「はい。お内裏様とお雛様です」
 いつの間に着替えたのか、セリオは既に着物姿になって居た。
 ・・・って、着物?
「・・・三人官女と五人囃子は?」
「時間がなくて揃えれませんでした。それに、最近の雛壇はお内裏様とお雛様の二人だけ、と言うのもございますので、問題は無いかと」
 確かに、新聞の織り込みチラシとかでそんなのを見たような記憶がある。
「・・・しかし、それにしても、雛壇の衣装って、十二単か何かじゃなかったっけ?」
 セリオの着物姿を見ながら、オレはそう言った。
「ええ。そうなのですが・・・こちらも残念ながら、揃える事ができませんでしたので、変わりに着物で」
 そう言うと、セリオは並べてある座布団にひょこっと座った。
「浩之さんもどうぞ」
 そう言って、セリオは隣の座布団の向きを直す。
「イヤ、どうぞって、なあ・・・」
 いきなり何を始めるかと思ったら、ひな祭りとはねぇ。
「・・・ダメですか?」
 セリオが泣きそうな顔をしながら聞いてくる。
「イヤ、ダメって事はないが・・・」
 ・・・ま、いいか。
 オレは、そう結論づけると、セリオに付き合ってやる事にした。
「よし、解った。じゃあ、オレも座ろう」
「はい」
 何やらセリオは嬉しそうに頷いて、座布団を揃えてくれた。

 座布団に並んで座る、お内裏様のオレとお雛様のセリオ。
 まあ、何とかひな祭りに見えない事は、無い。
「浩之さん、白酒など、飲みますか?」
「ん? 白酒も用意してるのか? ずいぶん準備が良いな」
「はい。では、こちらを・・・」
 そう言って、セリオは徳利を持つと、中の白酒を口に含み始めた。
「? セリオ、お前も飲むのか?」
 と、ある程度白酒を口に含んだらしいセリオは、ふるふると首を振ると、口をオレの方に寄せて、目を閉じた。
 なるほど、そう言う事か。
「・・・ま、それなら遠慮無く・・・」
 そう言って、オレはセリオを抱き寄せると、口を合わせて、口移しで白酒を飲んだ。

「・・・・・・」
「・・・・・・」
 セリオは、とろんとした目つきでオレの方を見て居る。
 ロボットでも酒に酔うのかねぇ?
「いかが・・・でしたか?」
「ああ、最高の味だったぜ、セリオ」
「・・・嬉しいです」
 更に、ぽっと頬を染めるセリオ。
 く〜っ!

「浩之さん、では、次にコレを・・・」
 と、急にセリオが立ち上がると、着物の帯をほどいて、その端をオレに手渡して来た。
「? セリオ、帯なんかどうするんだ?」
「ひな祭りでは、お雛様役をやった女子は、その後お内裏様に帯を引っ張って頂き、『よいではないか、よいではないか』と言ってもらうと教えてもらいました」
「・・・・・・」
 オレはその場に突っ伏した。
「だ・・・誰だ、そんなデタラメ教えたの!」
「・・・綾香お嬢様ですが?」
「綾香め〜・・・」
 今度会ったらこらしめてやろう。
「あの、浩之さん、でも、これはひな祭りの儀式だと聞きましたが?」
「何の儀式だ、何の?」
「・・・古くは室町幕府の時代から続く儀式であり・・・」
「そんな事は無い、絶対無い、間違っても無い」
「・・・最近では『アホ殿』と言うバラエティ番組がそれを継承するに留まっておりまして・・・」
「アレはバラエティ番組だからそうなの!」
「・・・でも、浩之さんに引っ張って欲しいです・・・」
「・・・・・・」
 オレの方をじっと見つめるセリオ。
 さっきの白酒キスの影響が未だ残ってるのか、顔はほんのりと赤い。
「・・・・・・」
「いかがでしょうか?」
 ・・・オレも酒に酔ったかなぁ?
「ええい! もう、どうにでもなれ!」
 オレはそう言って、手に持って居た帯の端を引っ張った。
「あ〜れ〜、お戯れを〜」
「ええい、よいではないか、よいではないか〜」

 その後、どうなったかは・・・ま、押して然るべきと言う事で。

− 終わり −