「今も、昔も」
(Episode:HM−13e1・セリオ(ToHeartオリジナルキャラ)/小SSシリーズ・その17
/2000年冬コミ無料ペーパー配布作品)


 毎週木曜日、13時15分。
 私は決まって、その場所へ出かける。

 家を出て、近くのエアカーゴトレイン乗り場から、2つのエアカーゴトレインを乗り継いで、およそ20分。
 そこから歩いて5分の所に、その建物――『HM博物館』は、ある。

 入り口で入場料200円をキャッシュチップで支払い、中へ。
 中の照明は薄暗く、それでも歩くには支障の無い程度。

 色々なメーカー、色々なタイプのHMが、それぞれの役割を終えて、静かに眠る場所。
 この博物館を称して、『HMの墓場』なんて言う人も居るけど。
 私は、そうは思わない。
『彼ら、彼女たちの偉大なる足跡を印した場所』だから。

 そして、とある一角、私は足を止める。
 そこのプレートに書かれた、そのHMの名称。

『HM−13・セリオタイプ
 来栖川電工製。
 量産モデルはb型からf型迄が存在。
 HMに表情が表現できると言う、現在のコンセプトの始祖にあたる。
 同時発売されたHM−12と合わせて、およそ100万台以上が販売される、
 大ベストセラー作品となった』

「………」
 ほうっと、私、ため息。
 何度見ても、このショーケースの中で眠っているセリオは、それでいて今すぐにも動き出しそうなほどの姿をしていて。

 私は、ここで教えてもらった、ある話を口ずさむ。
 もう、何度繰り返したか解らない、そんな物語。

「――昔々、ある所に、セリオという名前のメイドロボットが居ました。
 彼女は、お姉さんに当たる、マルチという名前のメイドロボットと、それはそれは仲のよい姉妹でした――」

 こつ、こつ、と。
 リズムの良い足音。
 ゆっくりだけど、でもしっかりとした足音が、後ろから近づいてくる。
 私はその音を聴きながら。
 それでも、物語を語ることを止めはしない。

「――ある日、二人は、とある男性に恋をしました。
 でも、メイドロボットと人の恋。誰もが、叶う筈が無いと思っていました。
 しかし、奇跡は起きたのです――」

 こつ、こつ、と。
 リズムの良い足音は、だんだんと近づいて来て。
 そして、私の後ろで、ぴたりと止まる。

「「――そして、彼女たちは、幸せに暮らしましたとさ――」」

 そして、最後の一言。
 私と、その人の言葉、ぴたり重なる。

「今日は、30秒の遅刻ですね」
 くるり、振り返って、私、一言。
「む・・・でも、この前の20分よりは格段に進歩したんだぞ」
 向かい合ったその人は、そう言って、苦笑いをしながら頭を掻きます。
「でも、遅刻は遅刻ですよ」
「へいへい、悪ぅございました」
「反省しているようには見えないんですけど?」
 そう言って、私はちょっと拗ねたふり。
 ぷいっと、横を向いてみます。
「うー、だから悪かったって。機嫌なおしてくれよ〜」
 そう言って、彼は私のほっぺたをぷにぷにとつついてきます。
「・・・くすっ。仕方ありませんね」
 気持ちいいので、もうちょっとつつかれていようかとも思いましたけど。
 私は許してあげる事にしました。
「でも、罰として、今日もおごりですよ」
「う゛・・・またかい。給料日前だって言うのにな〜」
「気にしないで下さい。それくらいの余裕はありますから」
 そう言って、私は彼の腕にぶらさがるように抱きつきます。
「ま、君がそう言うなら大丈夫なんだろうな〜。
 ――じゃあ、行こうか、セリオ?」
「はい、マスター」

 去り際に、振り返って、保存ケースの中の『セリオ』に向かって、一言。
「・・・また、来週も来ますね。・・・お姉さん」

 私は、HM−13e1・セリオ。
 今では数少ない、セリオタイプの稼動機。


 でも、保存ケースの中の『私』も、今の『私』も。
 そして、物語の中の『私』も。

 私は、恋をしている。

− 終わり −