「衛星試験?」
(Episode:HMX−13・セリオ(ToHeart)/小SSシリーズ・その16
/2000年冬コミSS本未掲載作品)


「新しい衛星のテスト?」
「はい」
 それは、夕飯時の事。
 熱々の鳥のから揚げをやっつけにかかっていた所、セリオがそんな事を言ってきた。
「もぐもぐ、ごっくん。・・・えっと、わりぃ、もう一度最初から話を聞かせてくれねぇか?」
「はい、かしこまりました」
 そう言ってセリオが説明するには。
 何でも、メイドロボットの数がかなりの数になってしまい、現有のサテライト用の衛星だけではサービス提供が追いつかないと判断した来栖川は、新しい衛星を打ち上げる事にしたらしい。
「かなりの数って・・・どの程度?」
「現時点では、妹たちの稼働数は、おそらく5万を下らないかと」
 へぇ、そんなにセリオって売れてるのか。
 流石は高性能機。
「そこで、その新衛星の通信テストを行う事になりまして、私の出番と言う訳です」
 なるほど。増えたセリオ達のサテライトサービスのパフォーマンス低下を補う為の、新衛星か。
「でも、次のHM用に、と言う意図もあるみたいですよ」
 納得していたオレに、セリオがそう言ってきた。
「次のHM? そんな話、あるの?」
「・・・実は、既に後継機種の開発が始まっているのですよ」
「へ? もはや?」
 おいおい、ちょっと待てよ。
 マルチとセリオが発売されてから、まだ4年と経っていないぞ?
「この世界も、技術革新はかなりの勢いで進んでいまして。ライバル他社にも既に私のスペックを上回る性能のHMが出て来ていますので」
「へぇ、そうなのか」
「そこで、お父さんは『マルチさん程のコンパクトさと、私程の高性能』をテーマに、次のHM―14の開発に入った訳です」
「ふむふむ」
 マルチのコンパクトさに、セリオの高性能、か。
「・・・って言うと、簡単に言えば、外見がマルチで中身がセリオ、みたいな?」
「だいたいそんな感じですね。ですが、もちろんの事それ以上の機能向上が図られる予定ですが」
「なるほどねぇ」
「既に、HMX−14も最終性能試験が始まっています」
「へぇそうなんだ。・・・セリオは、そいつに会ったこと有るのか?」
 オレの質問に、こくんと頷くセリオ。
「ええ。マルチさんと一緒になって研究所の廊下をお掃除なさっていました」
「ははは、流石はお前たちの妹って所だな」
「そうですね」
 そう言ったセリオは、やんわりと微笑んでいた。
「・・・って所で。ごちそうさん」
 オレはそう言って、空になった皿をまとめた。
「はい、おそまつさまでした。今、お茶を入れますね」
「おう、さんきゅ」
 オレがまとめた皿をセリオは台所へと運んで行った。

 しかし・・・マルチとセリオの後継機種ねぇ。
「もうそんな所まで話が進んでるんだなぁ」
「ええ。そうなると、私達セリオタイプも、旧機種、と言う事になってしまいます」
「時代の流れか」
「・・・そうですね」
 そう言ったセリオは、心なしか寂しそうな顔をしていた。
「でも、次に生まれてくる妹の為ですからね」
「まあな。そのためのサテライトなんだろう? 新衛星のテスト、頑張れよ」
 それはそう言って、セリオの頭をなでてやった。
「・・・ありがとうございます」
 セリオはそう言って、わずかに頬を染めていた。


 次の日、セリオは研究所の方に行った。
 何でも、新しい衛星用のアンテナへの交換とかが有るらしい。
『遅くても今夜には帰ってきますので』
 そう言って、念の為と昼ご飯の準備をして行くのが、セリオらしい。

「はぁ・・・しかし、する事もね〜しなぁ」
 部屋でベッドにころんと横になって、まくら元においてある読みかけの本を手に取って読み出す。

 ・・・数十分経過・・・。

「ふわ〜ぁあ。・・・寝ちまお」
 ちょっとばっかり眠気を感じたオレは、そのまま布団にもぐりこんで、寝てしまった。


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 どのくらい時間が経過しただろう?
 ふと、オレは部屋に誰かが入ってくる気配で目が覚めた。
 あかり・・・は、今日は義母さんの手伝いとやらで帰っている筈だ。
 マルチ・・・も、定期メンテナンスで研究所の方に戻っている筈だ。
 そうすると、消去法で・・・。
「ん・・・セリオ?」
「あ、起こしてしまいましたか。申し訳ありませんでした」
「イヤ、良いけど・・・」
 オレはそういって、軽く伸びをしながら起き上がる。
 そしてセリオを見て。
「お? アンテナ、ちょっとだけ形が変わったんじゃね〜の?」
 見ると、セリオの耳カバーの形が、前のと違っていた。
 どっちかって言うと・・・何か、マルチのアンテナの形に似ている。
「はい、今度のHM−14用のアンテナを、私のサイズに合う様にした物を付けております」
 そう言いながら、何かセリオはちらちらとオレの視線を気にしてるようだ。
「ん? どした? オレの顔になんかついてるか?」
「いえ、そうではないのですが・・・」
 そう言うと、セリオは少しうつむきながら。
「・・・あの、変じゃないですか?」
 と聞いてきた。
 変? ・・・ああ、耳カバーの事か。
「いつもと違う物だから、気になるのか?」
「・・・ええ、実は」
 そう言って、軽く耳カバーに手を添えるセリオ。
「機能的には問題ありませんし、時々行っているサテライトの送受信状況も良好なのですが・・・いつも使いなれている物とはちょっと違いますので、何と言うのか、違和感と言いますか・・・」
 そう言って、少し困ったような顔をオレの方に向けてくる。
「・・・ま、見た感じは確かにいつもの見慣れたセリオとはちょっと違うけどな」
「そうですか・・・」
 セリオはやっぱりといったような顔をして、下を向いてしまう。
「でも、耳カバーが変わろうが、どうしようが、セリオはセリオだろ?」
「・・・え?」
 オレのその言葉に、驚いたような顔をしてこちらを向くセリオ。
「ま、いくら外見が変わろうとも、中身はいつものセリオだって事だ。だから、心配する事ね〜よ」
 ぱっ。
「あっ!!」
 そう言って、オレはセリオを軽く抱きしめてやった。
「安心しろ。いくら見た目が変わろうとも、セリオはセリオだ」
「・・・はい・・・ありがとうございます・・・」
 セリオはそういって、頬を染めながらオレに抱かれていた。

− 終わり −