「例えばこんな週末の過ごし方」
(Episode:HMX−13・セリオ(ToHeart)/
セ印1周年&40000アクセスありがとうSS/小SSシリーズ・その13)
*キーワード
・「ブーメラン」(北村信治さん)
・「勇者○○よ、死んでしまうとは情け無い」(みす太さん)
・「すれ違い」(ちょべさん)
・「肩たたき」(羽零さん)
・「つまり…『季節外れ』…?」(桐原 瞬さん)
がしっ、がしっ!
ばしっ、ばしっ!
「・・・くっ!」
思って居た以上に奴の攻撃は重たい。
しかし、先程から機動性を生かしたこちらの攻撃で、奴はこちら以上に疲労して居るようだ。
「まだ・・・勝機は有る!」
そう思い、改めて拳を構え、懐に飛び込もうと思ったその時。
ずばしっ!
「ぐはっ!」
・・・油断して居た。
いつの間にか、奴は武器を持ち替えて居たらしい。
奴のブーメランを使った攻撃がクリーンヒット。
・・・ダメだ、力が出ない。
どさり。
オレは、その場に倒れ伏した。
次第に薄れて行く意識の中、最後にオレが見たのは、残忍な笑みを浮かべながら近づいてくる奴の姿だった・・・。
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『勇者ヒロよ、死んでしまうとは情け無い』
「っせ〜よ、全く。死んじまったもんは仕方ねぇだろうが」
オレはそう言って、コントローラーを放り出した。
同時にゲーム機の電源を切る。
何の事はない、先日綾香がうちにゲーム機ごと送りつけてきた新作RPGを遊んで居ただけの話だ。
確かに、暇潰しにはいい。
いいのだが・・・何て言うのか、家の中で黙って黙々とゲームに励むってのは、オレの柄じゃない。
「それに、いいかげん飽きたしな」
改めてオレは、目の前においてあるゲーム機を眺めた。
「・・・ま、別に興味有る訳でもね〜し。そろそろ返すか」
オレは、側に置いてあった紙袋にゲーム機を詰め込むと、それを持って家を後にした。
数分後、浩之宅前。
ぴんぽーん。
ぴんぽーん。
「・・・ご不在、なのでしょうか?」
何時もなら、浩之さんはこの時間帯には起きていらっしゃる筈ですから、寝ていると言う確率は低い筈です。
しかも、あらかじめ約束をして居ましたから、家の方にいらっしゃると思ったのですが・・・。
「・・・熱源探知モード、起動」
失礼とは思いましたが、家の中をスキャンさせて頂く事にします。
「・・・テレビに残留熱を探知、その前の床に小型の機器があったらしい熱源を探知」
どうやら、つい先程まで浩之さんはいらっしゃった様ですが、私が来る少し前くらいに、どちらかに行かれた模様です。
時計を確認すると、約束の時間よりも30分ほど早く来ています。
「・・・早く来過ぎたのが悪かったのでしょう、きっと」
私はそう判断すると、近所に有った公園の方に向う事にしました。
家の前にずっと居ると近所の方に不審がられますし、公園なら待機するには最適な場所です。
「・・・早く、戻ってこられると良いのですが・・・」
最後にもう一度浩之さんの家を見てから、私は公園へと向かいました。
さらに数分後、来栖川家。
「あれ? 浩之、何でここに居るの?」
来栖川の屋敷に到着して、綾香を呼び出してもらったは良いが、屋敷の入り口に来て、人の顔を見るなり綾香が言った言葉がコレ。
「何でって、借りたゲーム機返す為に来たんだけど」
そう言って、オレは手に持って居た紙袋を手渡してやった。
「ちらっと遊んでみたんだけど、家の中でテレビに向かってゲームしてるってのはど〜もオレの柄じゃないわ。ま、貸してくれてサンキュな」
「あら、別にそんな急いで返してくれなくても・・・って、そうじゃなくて!」
「何が『そうじゃなくて』なんだ?」
「・・・浩之、本当に覚えてないの?」
綾香はそう言って、『じと目』でオレを見た。
可愛い顔してるんだからそう言う目つきはやめなさいって。
「・・・覚えてない? 何の事だ?」
全く身に覚えがない俺がそう言うと、綾香ははぁ〜っと、長いため息を一つついた。
「今日、セリオがあなたの家に遊びに行く事になってたじゃないの」
「・・・げ」
しまった、すっかり忘れてた。
慌てて腕時計を見ると・・・約束の時間を過ぎてる!?
「やっと思い出したようね」
「スマン、オレ帰るわ。じゃ、またな」
「ちゃんとあの娘に謝るのよ〜」
走り出したオレに、綾香は何故か嬉しそうにそう言ってきた。
「はぁ、はぁ・・・しっかし、そんなに、道は、分かれてない、筈なんだが・・・どっかですれ違いになったのか?」
来栖川の屋敷からの帰り道、そんな事をつぶやきながら、オレは家へと走って居た。
途中、通学の時に通り抜ける公園を横切って。
「・・・お」
その公園の、池のそばに有るベンチに、見慣れた姿を見つけた。
「おーい、セリオ〜」
そう言って、手をあげながら、オレはセリオのそばに走っていった。
セリオは、何やら空をずっと見あげて居たが、オレが声をかけると、こちらを向いて立ち上がった。
「こんにちわ、浩之さん」
「はぁ、はぁ、はぁ・・・よお・・・」
くそっ、走り続けたせいで息が切れてる。
しばらくの間、オレは呼吸を整えていた。
「大丈夫ですか?」
「ふう・・・ああ、何とかな。それより・・・」
オレはそう言って、セリオに頭を下げた。
「スマン、オレ、今日の約束の事すっかり忘れてて、出かけちまって。悪かった」
「・・・・・・」
セリオはしばらく黙って居たが。
「・・・では、罰として今日の肩たたきは無しです」
そう言って、拗ねたようにぷいっと横を向いてしまった。
「う。だから、悪かったって。そんな怒らないでくれよ〜」
「知りません。それに、私は怒ってなど居ません」
そう言って、すたすたとオレの家の方に歩いて行くセリオ。
「・・・ぷっ」
オレは思わず噴き出して居た。
それでもオレの家の方に行くんだもんなぁ。
可愛い奴。
「浩之さん、早く来ないと晩ご飯も抜きになりますよ」
「げ、それは困る。解った解った、すぐに行くよ」
オレの家に着いてから、セリオは結局肩たたきをしてくれた。
どうやら、拗ねてそう言っていただけらしい。
ふう、機嫌を直してくれて助かった。
たんとん、たんとん。
「痛くはないですか?」
「イヤ、気持ちいいよ。ふ〜」
「そうですか。ではしばらく続けさせて頂きます」
「おう、頼むわ〜」
たんとん、たんとん。
たんとん、たんとん。
「・・・なあセリオ」
「・・・何でしょうか?」
「今日のおわびにさ、明日どこかに遊びに行かないか?」
「・・・・・・そうですね・・・」
たんとん、たんとん。
セリオはしばらく肩たたきを続けながら考えて居たようだが。
「では、海に連れて行って欲しいです」
と言ってきた。
「海?」
「はい、海です」
そう言うと、セリオは肩たたきを一旦止めて。
「また、泳ぎたいです」
と言った。
「そっか、海かぁ・・・」
「はい、海です」
「・・・でもよ、この時期だと、もうクラゲが出ていて泳げないぞ」
「え? クラゲ、ですか?」
「おう」
「つまり…『季節外れ』…ですか?」
「そうだな」
オレがそう言うと、明らかにセリオはがっかりした様子で、
「・・・残念です・・・」
と言った。
「まあそうがっかりしなさるな。海じゃあないけど、代わりに隣町のアクアパークにでも行こうぜ。あそこ、波の出るプールもあるから」
「・・・はい」
そして、セリオはまた肩たたきを始めた。
「・・・でも」
「ん? でも、何だ?」
「でも、明日は約束を忘れないで下さいね」
何だ、その事か。
「ああ、深く肝に銘じて置きます」
「もし明日も忘れたら、明日こそは肩たたきも晩ご飯も無しです」
そう言いながらも、セリオは何か嬉しそうに肩たたきをしてくれてるのだった。