「例えばこんな雪の朝」
(Episode:HMX−13・セリオ(ToHeart)/小SSシリーズ・その9)


 朝、目が覚めて。
 外を見ると、一面の雪野原だった。


「しっかし、まさか雪が降ってるとは思わなかったなぁ」
 そう言いながら、オレは雪かきの格好をしていた。
「今日の日中は天気は良さそうですよ」
 台所で朝食の準備をしていたセリオが、エプロンで手をふきながら出て来た。
「浩之さん、私も雪はねをお手伝い致しましょうか?」
「いや、玄関前をちょっとはねて来るだけだから、別に良いよ。それより、コーヒーを落として置いてくれねぇか? 雪はねが終ったら、まずコーヒー飲みたいからな」
「解りました」
 そう言って、セリオは再び台所に姿を消した。
 オレは、その後ろ姿を確認すると、そのまま玄関に向かった。


「しかし、これだけ積もると、電車とか止まってるだろうなぁ〜」
 玄関前だけ、のつもりが、ついついその前の道路まではねてしまった後、オレは辺りを見回した。
 オレは今日はまだ大学が休みだからのんびりして居るが、そうも言ってられない近所のお父さん達は、雪に足を取られながら会社へと向かって居た。
「・・・さて、戻るか」
 オレは、雪かきスコップを玄関先に立てかけると、家の中に戻った。


 家の中に戻ったオレは、ふとした思いつきでそのまま台所に向かう。
 そこでは、まだセリオが何やら台所仕事をしていた。
 オレは、こっそりと後ろから近づくと・・・。
「うりゃ」
 ぴと。
「・・・・・・! ひ、浩之さん!?」
 ほっぺたに手を当てられたセリオは、かなり驚いたらしく、そのままの格好で固まって、目だけをこちらに向けて居る。
「ははは、驚いたか? スマンスマン」
 そう言って、オレは手を放す。
「・・・心臓が止まるかと思いました」
 ふぅっと、息を吐き出してそう言うセリオ。
「・・・って、ちょっと待て。『心臓』?」
「冗談です」
 そう言って、にっこり笑うセリオ。
「・・・おいおい」

「いや、でも、ちょっとまだ寒くてなぁ」
「でしたら、エアコンの温度を上げましょうか?」
「いや、オレはこっちの方が良い」
 オレは、そう言ってセリオを抱きしめた。
「・・・浩之さん・・・」
 セリオは、困ったような、嬉しいような顔をして居た。
「セリオ・・・暖かいよ」
「浩之さんも・・・暖かいです」

− 終わり −