「『普通のデート』、と言う物」
(Episode:来栖川 綾香(ToHeart)/「『セ』印良品」10000アクセス突破お礼SS
/小SSシリーズ・その7)


・課題:『来栖川 綾香』(課題付与:Nyawanさん)
・キーワード:『葵ちゃん、坂下、セリオにやきもち?(笑)』(キーワード付与:北村信治さん)
『B級グルメ、見た目お嬢様、
「あたしね、こういうふつーのデートってしてみたかったんだ」
「こんなんでいいのかよ」
「いいのよ。だって、こんなに楽しいんだから」』(キーワード付与:ちひろさん)
『ハダカに直に着るカッターシャツ!!』(キーワード付与:Nyawanさん)

− 1 −

 12月18日。

 その日、私はどうしても、セバスとセリオの二人の「追撃」をかわす必要があった。
 セバスは来る時間と場所が解って居るから、それさえずらせば簡単にかわせる。
 問題はセリオ。あの娘、学年は違うけどサテライトと言う強力な武器があるから、下手をすると簡単に捕まっちゃうのよね〜。
 十分に気をつけないとね。


 取り敢えず、授業は午前中だけだから、あっという間に放課後になって。
 今日の掃除当番は、私じゃない。
 早速、目的のために動きだそう。
「綾香〜、これからワッフル食べに行かない〜?」
 クラスメイトの深雪が声をかけて来た。だけど、今日は悪いけどパスさせてもらおう。
「あ、ごめ〜ん、今日、ちょっと用事があるんだ」
「ふーん・・・クリスマスプレゼントの買い物?」
 この時期、友人達は特に鋭い。時期的な物もあるケドね。
「ま、そんな所よ」
「ふふっ、頑張りなさいよ」
 したり顔でそう言う深雪。
「・・・何解ったような顔して言ってるのよ」
「いえいえ。綾香お嬢様ともあろう程の御方でも、年頃の女の子だって事よね〜」
「こら〜! 知ったような言い方しないでよ〜」
 ぽかぽかぽかぽか。
「痛い痛い! 綾香、あんた素人相手に少しは手加減しなさいよ〜」
「あ・・・ごめ〜ん」
 ぺろっと舌を出す。彼女はふぅっとため息をついて肩をすくめた。
「ま、この事は他言無用にしておくわ」
「ありがと。じゃ、また来週ね」
「うん、じゃね〜」

 昇降口に向かって、小走り気味に走る。
 急がなきゃ、急がなきゃ。
 げた箱のふたを開いて・・・中からこぼれ落ちて来る色々な形・色の封筒の数々。
「あ〜・・・全く。慣れたとは言え、何で女子校なのに・・・」
 苦笑いをしつつ、封筒をかき集めて鞄に詰め込むと、そのまま靴を履き替えて、裏口にダッシュ。
 ちらっと見た表門には・・・やっぱり居た、うちの車。
 私は心の中で手を振ると、そのまま裏口からの脱出に成功した。


「さて、と。コレで必要な物は買ったし・・・後は一週間後ね〜」
 私は、無事に目的の物を手に入れて、駅前の商店街を歩いていた。
「・・・あら?」
 と、前のほうに、見慣れた後ろ姿を見つけた。
「やっほ〜、ひろ・・・」
 そこまで言いかけて、その隣を歩いている姿に気がつく。
「・・・アレって・・・セリオ?」
 間違い無い、浩之の隣を歩いているのは、セリオだった。
 何となく興味を持った私は、後ろからこっそりとついていく事にした。

「・・・も、宜しかったのですか?」
「あん? 何が?」
「その・・・私なんかのためにせっかくのお時間を割いて頂いて・・・」
「気にすんなって。ど〜せ他にする事も無かったんだし、他ならぬセリオの頼みじゃ、断る訳にもいかねぇだろう?」
「・・・ありがとうございます」

「・・・・・・」
 浩之の、この誰にでも見せる優しさって、知っていた筈だけど。
 でも、この時ばかりは、ちょっとだけ妬けた。
「・・・はぁ、何やってるんだろう、私ったら・・・」
 ・・・・・・。
 帰ろうっと。

 そう思って、交差点から横道に曲がろうとしたその時。
「綾香お嬢様?」
 ・・・あ。
 セリオに見つかってしまった。
「よお、綾香じゃん。こんな所で偶然だな」
「あら、浩之とセリオじゃ無いの。本当に偶然ね」
 見つかっては仕方ない。本当に偶然であるかを装って、私は浩之のそばに行った。
「二人してどこかに行くの?」
「あ・・・えっと、その・・・」
 ん?
 何か、セリオがうろたえている。
「・・・どしたの、セリオ?」
「えっと、なんでもないです」
 何だろう? こんなに動揺するセリオを見たのは、初めてなような気がする。
「それでは浩之さん、私はこの辺で失礼致します」
「お、おお。んじゃな、セリオ」
「はい。・・・失礼致します、綾香お嬢様」
「あ、うん、じゃあまた後でね」
 そのままぺこりとおじぎをすると、セリオはそそくさと立ち去ってしまった。
「・・・なあ、何かセリオの様子、変じゃ無かったか?」
「私に聞かれても・・・」

 その後、何となく一緒に商店街をふらついた。
「ところでさ、浩之?」
「あん? 何だ?」
「明日、午後から、暇?」
「へぇ、綾香から誘ってくるなんて珍しいじゃん」
 私がそう言うと、浩之ったら、にやりと笑ってそんな事を言って来た。
「良いじゃないの、別に。暇なの? 暇でないの?」
「暇だよ。っつ〜か、お前の誘いを断れるほど、オレも無謀じゃない」
「何かこっそりひどい事言ってない?」
「冗談だよ。で、どこ行くんだ?」
「そうねぇ、それじゃあ・・・」

− 2 −

 12月19日。

 時計を見たら・・・完全に寝過ごしていた。


「スマン。このとおり。オレが全面的に悪かった」
 んで、数分後、オレは目の前で拗ねて居る綾香の前で手を合わせて居る訳で。
 他の歩行者とかの目が気になっては居たが、身から出た錆だ、コレばかりは仕方ない。
「・・・仕方ないわね。許してあげる。もう恥ずかしいから止めといて」
 そう言って、綾香はくすくすと笑い出した。
「でも、浩之がここまで低姿勢になってる所って、初めて見たわね〜」
「ど〜せオレは普段はがさつだよ」
「冗談よ。そう言う所も全部含めて、好きになったんだから」
 綾香はそう言うと、オレの腕にぶらさがって来た。
「でも、罰としてお昼ご飯は浩之のおごりね」
 腕にぶらさがったまま、嬉しそうに綾香はそう言って来た。
「ま、いいけどな。んじゃ、行こうか」
「うん」


 それから、オレ達はデパートでウィンドショッピングを楽しんだ後、商店街まで出てから、オレ的におなじみのカツ丼屋に入った。
「へぇ・・・良い感じのお店ね」
 綾香はきょろきょろと周りを見渡しながらそう言った。
「ま、店の見た目よりもここのお薦めは味だ。オレが言うんだから間違いは無い」
「あら、ずいぶん自信があるのね」
「こう見えても味にはうるさい方だ」
 別段自慢する程の物でもないが。
「へい、カツ丼2丁、お待ち」
「あ、来た来た〜」
 丼を受け取り、さっそくふたを開けて、食べ始める綾香。
 オレも、割り箸をとって、早速食べ始めた。
「・・・凄くおいしい」
 一口目を、味わうようにして食べて居た綾香が、ぽつりとそう言った。
「だろう? まあ、お前が家で食って居る料理とかには負けるかもしれないけど」
「何言ってるのよ。こう言う物の本当のおいしさって、こう言う所でしか解らないって言って居たの、浩之じゃないの」
「・・・まあ、確かにそうだが」
 見た目はまんまお嬢様のくせして、変な所でB級グルメ性に感化されやがって。
 心の中で苦笑すると、オレは目の前のカツ丼を本格的にやっつけ始めた。


「あ、藤田先輩と綾香さん」
 店から出ると、珍しい組み合わせが丁度そこを通りがかった。
「よお、葵ちゃんと坂下が一緒に出歩いて居るのって、何か初めて見たなぁ」
「・・・別に良いじゃないか」
 イヤ、悪いとは言って居ないが。
「葵と一緒って事は・・・好恵、何か買いに行ったの?」
「うん、まあ、ウレタンナックルの新しいのを」
 坂下は、そう言いながら、何かさっきからオレの方をちらちらと見て居る。
「・・・オレの顔に何か付いてるのか?」
「イヤ、そうじゃない。ただ・・・」
 そう言うと、坂下はオレの手を取って他の二人から引き離した。
「な? おいおい、一体何・・・」
「藤田、お前って・・・その、綾香と付き合ってるのか?」
 と、引っ張っていった坂下は、声をひそめてそんな事を言って来た。
「あ? ・・・あ、ああ、まあ、そんな所だ」
 別段隠すもんでも無いだろう、そう判断したオレはそう答える。
「ふーん・・・私はてっきり、葵と付き合って居るのかと思っていたよ」
「な! おいおい、どこをどうやったら・・・」
「・・・まあ、別にいいけどね」
「ねぇ、二人して何話してるの?」
「別に。んじゃ、藤田返すわ」
 坂下はそう言って綾香達の所に戻っていった。
「人を物のように言うんじゃないって・・・」
「綾香の腰巾着」
 真面目な顔をして、坂下はそう言う。
「あら、言い得て妙かも」
 そう言って、けらけらと笑う綾香とにやりと笑う坂下。
「・・・あのなぁ・・・」
 反撃する気力も失せた。
 オレが道端で脱力して居ると。
「あの〜、好恵さん、そろそろ行きませんか?」
 葵ちゃんがそう言って、坂下の袖を引っ張った。
 ふぅ、助かった。
「ああ、すまないね。じゃ、綾香、藤田、またね」
「うん、またね〜」
「お〜」
 力なく手を振りかえすオレ。
「・・・で、何、脱力し続けてるのよ」
 坂下と葵ちゃんが立ち去った後も、オレは脱力したままだった。
「・・・腰巾着・・・」
 恨みがましい目つきでオレは綾香を見上げた。
「冗談に決まってるじゃないの」
 呆れたような顔と口調で綾香ははぁっとため息をついた。
「・・・イヤ、解って居るからいい」
 そう言って、オレは軽く頭を2、3回振って、立ち上がった。
「んじゃ、次行くか」
「そうね」

− 3 −

 次に行ったのは、商店街にあるゲームセンターだった。
「デートでゲーセンってのも、何か変な話だけどなぁ・・・」
 オレが頭をかきながらそう言うと、綾香は、
「別に良いじゃないの。それに、私もゲームって好きよ」
 と言って、早速遊ぶゲームの物色を始めて居た。
「・・・ま、いいけどね」
 そう言いながら、オレも何か遊ぶゲームを探そうと思って店内を見回した時。
「ねえ、浩之、アレで勝負しない?」
 そんな事を言って綾香が指差したそのゲームは・・・。
「DME3か。なるほど、アレなら体も動かせるし、いい選択かもな」
「そうそう。お昼の後の軽い腹ごなしよ」
 綾香はすっかりやる気満々、完全臨戦態勢のようだった。
 既に、足取りも軽くステップを踏んで居る。
 ・・・こいつ、かなりやり込んで居るな。
「しっかし・・・来栖川のお嬢様ともあろう御方が、こんなゲーセンでDMEとはねぇ」
「良いじゃないの、別に。楽しいものは楽しいんだし」
 そう言って、本当に楽しそうに笑う綾香。
 本当にこいつって、見た目と、それ以上にその性格がかっこいいよなぁ・・・。
 こんな彼女が居るってこと自体、身に余る光栄なんだがねぇ。
「よーし、じゃあ普段から悪友相手に鍛えた腕前、とくとご覧にいれようか」
「じゃあ、3時のおやつをかけて勝負ね」
 ・・・3時のおやつぅ?
「綾香、お前、さっきから食い物ばっかりかけていないか?」
「あら、お昼ご飯は純粋に浩之の謝罪じゃないの。次は勝負よ、勝負」
「だからって・・・何も食い物ばかりじゃなくても・・・」
 何でこうも、食い物にこだわるのかねぇ?
 オレが苦笑いしながらそう考えて居ると。
「それに、浩之に連れていってもらえる場所なら、まず間違い無いからね」
 そう言って、不敵ににやりと笑う。
 ・・・目が本気だ。
「・・・よし、それでなくちゃ勝負にならん。行くぞ!」
「望む所よ」
『Okey,Here We Go!』
 そして、DME勝負が始まった・・・。

「ま、こんなもんだろ」
「ま、負けた・・・」
 半ば呆然としながら、画面を見つめる綾香。
「・・・自信あったのになぁ」
 そう言いながら、悔しそうに舞台から降りる綾香。
「そりゃあまあ、一つくらいはお株を持っておかないとな」
「何言ってるのよ、私でもかなわない物持って居るくせに」
 そう言って、綾香はオレの鼻の頭をちょんとつついて来た。
「これ以上望むなんて、贅沢よ」
「はぁ? 綾香でもかなわない物をオレが持って居るって?」
 何だそりゃ?
「そういうのって、普通口には出して言わないものよ」
 そう言うと、綾香はまたオレの腕にぶらさがって来て。
「さ、どこかおいしい喫茶店を紹介して。今度は私のおごりよ」
 そう言って嬉しそうに笑って居た。

 ん〜。
 何だか時々、こう言う風に解らない事言われるなぁ。
 ・・・まあ、良いか。
 オレはそう結論づけると、綾香と連れ立って歩き出した。


「このチーズケーキの気に入って居る所は、甘さがしつこく無く、かといってチーズくささが無い所と、変な飾りっ毛がない所だな」
「うん、納得」
 そして、数十分後、オレ達はオレが時々時間潰しに入っている、商店街から一本離れた道にある喫茶店に入った。
 目の前では、綾香がチーズケーキを嬉しそうに食べて居る。
 ・・・カツ丼のときもそうだったけど、一体この体のどこにそれだけのものが入る余地があるのやら。
「太らんのか?」
「大丈夫よ。それ以上に毎日鍛えてるから」
「さいでっか」
 ま、それは事実だ。
 それに、間違ってもぶくぶくに太った綾香なんて見たく無い。
「浩之も鍛えてる? 体を動かしておかないと、あっという間に鈍っちゃうわよ〜」
「あのなぁ・・・オレは本格的にエクストリームやるなんて決めて無いぜ」
「あら、せっかく良いコーチが付いて居るのに、もったいないわね」
 そう言ってにこにこと笑う綾香。
「・・・高くつきそうだなぁ」
「失礼ね」
 そう言って、お互い顔を合わせて、思わず吹き出す。

 それが一息ついてから。
「しかし、今日、もっと良い場所にも行けば良かったんじゃね〜のか?」
 オレは、朝からずっと心の中に留まって居た言葉を出した。
「え? 何で?」
 きょとんとした顔で、綾香が聞き直して来る。
「何で、ってなぁ・・・仮にもお前はお嬢様な訳だし・・・普通のデート過ぎるぞ、コレって」
「あら、そんな事気にしてたの?」
 くすっと綾香は笑った。
「全然いいの。あたしね、こういうふつーのデートってしてみたかったんだ」
「こんなんでいいのかよ」
「いいのよ。だって、こんなに楽しいんだから」
 そう言って、綾香は優しい笑みを浮かべて居た。
「・・・ま、お前がそう言うなら、それでいいけど」
 オレはそう言って、カップの底に残ったコーヒーを飲み干した。

− 4 −

 そして、喫茶店を出ると・・・雨が降って居た。
「あちゃぁ〜・・・天気予報じゃ雨降るなんてどこにも言って居なかったぞ」
 うらめしげに、空を見上げる。
 そんな事をして雨が止むとも思えないが。
「どうする? 傘なんて持って来てないわよ」
「そうだなぁ・・・綾香はお屋敷からセバスチャンにでも迎えに来てもらうか?」
「浩之はどうするの?」
「オレか? まあ、家も近いし、走って帰るよ」
 この雨なら、そう濡れないでも帰れるだろう。
 空を見上げながらそう言うと。
「じゃあ、私も浩之の家に行こうかしら」
「・・・は?」
 突然、綾香はそんな事を言い出してきた。
「ダメ?」
「イヤ、ダメな事は無いが・・・濡れるぞ?」
「そしたら、シャワーでも借りるわよ」
「・・・家の方には帰らんくて良いのかよ?」
「遅くなるって言っておいたわ」
「・・・確信犯」
 オレは、軽く目眩いがする頭を押さえた。
「ついでだから、晩ご飯一緒に食べましょうよ」
 綾香は目の前にあるスーパーを指差した。
「何かお惣菜物でも買っていってさ」
「・・・ま、そうだな」
 さっきの言葉もどこへやら、我ながら単純な事で。
「じゃあ、買い物してから行きましょうか」
「おう」
 オレと綾香は頷きあうと、喫茶店の入り口から駆け出していった。


 がちゃがちゃ、がちゃん。
「ひゃ〜、結局ずぶぬれかぁ・・・。傘でも買ってくれば良かったな」
「そんな事ばっかりやって居るから、こんな感じで使わない傘が増えていくのよ」
 綾香はそう言いながら、玄関先の傘立てを指差して笑って居る。
「お見通しって訳か。ちぇっ」
 そう言いながら、オレは一旦風呂場までバスタオルを取りに上がり、すぐに戻る。
「んじゃ、風呂の方、ちょっと準備しておくから、居間の方で待っててくれ」
「うん、解った。その間に、夕食の支度を軽くしておくわよ。じゃあ、おじゃましま〜す」
 綾香はそう言って、上がっていった。

 風呂にお湯を張り、居間へと戻る。
「おう、先入っていいぞ」
 バスタオルで頭をふきながら、綾香にそう声をかけた。
「ん〜・・・でも、下準備始めちゃったし、浩之が先でいいわよ」
「んな事言ってると、カゼひくぞ」
 そう言いながら、台所の方を覗いて見る。
「レディーファーストと言う言葉もあるし。先入っておけ」
「うん・・・どうせだったら、一緒に入る?」
 振り返った綾香はそんな事を行ってにやりと笑った。
「ぶはっ! な、ななな何を言い出すんだっ!!」
「あ、赤くなってる〜。かわい〜!」
「冗談言ってる暇あったらさっさと入ってこいよ・・・」
「ハイハイ。今さらお風呂に一緒に入るくらいの事で赤くなるほどの仲でも無いでしょうに」
 軽く肩をすくめると、綾香はそう言って風呂場へと向かった。

 しかし。
「一緒に入ろう」だなんて。
 ・・・誘ってる、のか?
 オレは、軽く頭を振ってその考えをあちらに押しやると、居間に戻ってテレビを付けた。


 そして、二人とも風呂に入った後、簡単な夕飯をすませて、オレ達はオレの部屋でコーヒーを飲んで居た。
「・・・しかしなぁ・・・」
「? 何が『しかし』なの?」
 ベッドに腰掛けた綾香は、不思議そうな顔をしてオレに聞き返して来た。
「お前のその格好だよ」
 オレは頭を軽くかく。
「え? この格好がどうかしたの?」
「もうちょっとマシな格好って物が・・・」
「服が濡れちゃって居るんだから、仕方ないじゃない」
 綾香は、今日のショッピングで買って来たらしいカッターシャツを、素肌の上にボタンも閉めずに着て居るだけという格好をしていた。
 胸こそ隠れては居るが、ブラも当然付けて居ない。だから、合わせ目からは胸の膨らみがしっかりと見えて居る。
 そして・・・当然ながら、下は下着一枚を履いて居るだけだった。
 それが、全て丸見えな訳だ。
 この状況で理性を保てと言う方が、無茶な注文だと言うもんだ。
「お前なあ、もうちょっと恥じらいってもんを知れよ」
「いいじゃない、私と浩之の仲なんだし。見られたって減るもんじゃないわよ」
「そりゃあそうだけどな」
「それとも、見物料とろうか? そうそうお目にかかれるもんじゃないわよ」
 そう言って綾香はクスクスと笑う。
「高くつきそうだから遠慮しておく」
 オレはそう行ってコーヒーを飲み干した。
「それに、この見た感じよりも・・・」
 オレはそう言って、綾香の顔に手を伸ばした。
「オレはどちらかと言えば、中身の方が、な」
「正直ね」
 綾香はそう言ってクスクスと笑うと、飲んで居たコーヒーカップをテーブルにおいて、オレの背中に手を回して来た。
 そして、二人はそのまま口づけを交わしながら、ベッドに倒れ込んでいった・・・。


「じゃ、気をつけて帰れよ」
「うん、解った」
 それから2時間後、再び風呂に入った綾香は、乾いた服に着替えると、迎えに来たセバスチャンの車に乗って居た。
「あ、そうそう、忘れる所だった」
 と、車の中で何かを思い出したように、綾香は手を打った。
「浩之、来週の金曜日、予定明けておいてね」
「金曜日? ・・・っつーと、クリスマスイブか」
「そう。うち、パーティー有るけど、それとは別に、私と姉さんと、3人でパーティーやらない?」
「そりゃあ今から楽しみだな」
「うん。だから予定明けておいてよね」
「ああ、解った」
「じゃ、またね」
 綾香がそう言って、窓から軽く身を乗り出して来る。
 オレは、軽く触れるキスをしてやった。

 そして、車は走り去っていった。

− 5 −

 12月24日。

 そして一週間後、来栖川家のパーティーが本館のほうで盛大に行われて居る時、私は別館の方で、姉さんと今日の主賓の到着を待って居た。
「それにしても・・・遅いわね」
「・・・・・・」
「え? セバスチャンが迎えに行ったから大丈夫ですって? まあ、そうなんだけどね」
 と、丁度その時、良いタイミングでセバスチャンが帰って来た。
「お嬢様方、藤田様をお連れ致しました」
「よう、お待たせ」
「あ、来た来た」
「メリークリスマス、先輩、綾香」
 浩之はそう言って、私たちに包みを渡して来た。
「ま、ささやかながらクリスマスプレゼントって事で」
「・・・・・・」
「お、ありがとう先輩」
「じゃあ、私はこれね。ありがとう、浩之」
「おう」

 と、その時。
 こんこん。
「はい?」
『失礼致します』『しつれいいたします〜』
 セリオとマルチの声。
「どうしたの、二人とも?」
「・・・あの、芹香お嬢様、綾香お嬢様、その、コレを・・・」
 セリオが差し出した手には、小さな包みが二つのっていた。
「私も、クリスマスプレゼントです〜」
 マルチも、同じように包みを持って居た。
「お、セリオ、それってもしかして先週一緒に買いに行ったやつか?」
「はい、そうです」
 セリオがこくんと頷く。
「・・・先週・・・あの時、浩之もしかして・・・」
「そ、セリオがクリスマスプレゼントの選定を手伝って欲しいって言うから、一緒に買い物につきあっただけだ。それとも、何か他意が有ると思ってたか?」
 浩之はそう言って、にやりと笑う。
「・・・・・・」
「図星って事か。あ〜あ、信用されていないのかねぇ」
「だ、だって・・・」
「安心しろ。そこまで甲斐性無しじゃねぇよ」
 そう言って、今度は優しそうに微笑んだ浩之。
「・・・うん、そうね」
 そう言って、私は浩之の腕の中に思いっきり飛びこんでいっだ。

 確かにヤキモチも焼いたりしたけど。
 でも、浩之は浩之だ。
 私は、抱かれた腕の中でそれを強く感じて居た。

− 終わり −