「月想曲/6月16日」
(Episode:HMX−13・セリオ(ToHeart)/6月の小噺・その6)
*使用キーワード
・運動会
・鮎漁解禁
空を見上げれば、今日も雨。
どんよりと立ちこめる雲は、夜になっても晴れる気配は無くて。
窓から見た外の景色、雨に濡れてぼんやりと、朧げにぼやけ模様。
「明日は、晴れてくれるのでしょうか・・・」
サテライトサービスで得た明日の天気は、曇。降水確率は、10%。
気圧はそれほど下がっていないので雨が降るような気配は無いですが。
「・・・」
『こう雨ばっかり続くと、何か憂鬱ね』
そうおっしゃった綾香お嬢様の言葉にも、何となく頷けるような気がします。
サテライトサービス経由でメールを送って来た、北海道の妹に寄れば、何でも北海道はこの時期に運動会が盛んに行われるとか。
『梅雨って言う季節が無いんですよ、北海道には。この時期の北海道も良いですよ〜。お姉さんも一度来て見たらどうですか?』
そんな文面からも、何となくグラウンドを駆け回る子供たちの姿が想像出来ます。
「にゃお?」
と、部屋の入り口から、猫の芹緒さんが顔を出して来ました。
「猫芹緒さん、どうかなさいました?」
「にゃあ」
たたたっと、猫芹緒さんは走り寄ってくると、そのまま窓に腰かけていた私の膝の上に乗って来ます。
「にゃー」
「ええ、そうですね、雨ですね」
猫芹緒さんは、じっと外を眺めています。
「そう言えば、今日の晩ご飯はいかがでした?」
「うにゃ」
「そうですか、ありがとうございます」
「にゃ」
テレビを見ていて『鮎漁解禁』のニュースにヒントを得た今日の夕飯のメニューは、多少値が張ってしまったとは言え好評を得たらしく。
「うにゃ」
「え? 明日もですか? えっと・・・それは浩之さんと相談して見ないと・・・」
「にゃあ」
「そうですね、申し訳ありません」
猫芹緒さんと、二人、じっと外を見て。
雨は止まず、相変わらず窓の外の景色を濡らし続ける。
「・・・らら・・・ららら・・・」
ふと、口から零れ出した、何かの曲のフレーズ。
「らら・・・らら・・・ら」
「うにゃ?」
「この曲、ですか? ・・・確か、月を想って歌う歌、だと思いました・・・」
埋もれている記憶の奥底。
いつか聞いた事があるフレーズ。
でも、はっきりとは思い出せない初夏の残像・・・。
「・・・おかしいですね。私達メイドロボットは、『忘れる』って事は無い筈なのですが・・・」
「にゃ」
「・・・そうですね。誰かもおっしゃっていました。『忘れると言うのは、消え去るのでは無くて、必要になる時まで記憶のたんすの中にしまっておく物だ』だそうです」
いつの日か、またこの歌を思い出す日もあるのでしょう。
それまでは・・・朧げな記憶と共に、月を想って歌いましょう。
梅雨が開ければ・・・眩しい季節が来ます。
− 終わり −