「べたべたするのはお嫌い?/6月15日」
(Episode:綺堂 さくら(とらいあんぐるハート)/6月の小噺・その5)
*使用キーワード
・除湿器
・ジューンブライド
「・・・ふふ・・・ふふふふ」
『それ』を目の前にして、思わず笑みがこぼれちゃったりして。
「・・・長年の夢、今ここに成熟せり」
思わず拳を握り締めてぷるぷる震えてしまったり。
いや、『それ』には、そのくらいの価値がある。
「やっと仕入れた、除湿器〜(はーとまーく)」
そう、長いバイトの末、ようやく俺は除湿器を仕入れたのだ。
これで、梅雨時期の洗濯物の乾燥にも困らないだろうし、部屋の中がじめつくのも防げるだろうし、買いだめして置いた食材が腐る事も無いし・・・。
「・・・先輩、相変わらず家庭的なんですね」
一人感動に浸っていた所、テーブルを挟んで座って居たさくらが突っ込んで来た。
「そう言われてもねぇ・・・まあ、一人暮らしが長かったから、身についてしまった物は仕方ないんだよ」
「本当、私達って、立場が逆ですよね・・・」
そう言って、はぁっと溜め息をつくさくら。
「何で? 今の時代、『主夫』ってのもありでしょ?」
「そうですけど・・・私としては、料理とかで先輩に負けるのは、女としてのプライドが許さないと言うのか・・・」
そう言って、さくらはまた溜め息をつく。
「まあ、そう言っても、俺も小鳥とかにはやっぱり負けるよ。本当に料理をやってる女性にはかなわないからね〜」
そう言って、俺はさくらの隣にすわって、ゆっくりと頭をなでてやった。
「大丈夫、さくらはいいお嫁さんになるよ。その頃には、俺でもかなわない料理を一杯作ってよ」
ある意味プロポーズ的なその言葉に、言ってる自分自身顔が赤くなるのが良く解る。
「・・・はい」
顔を赤らめながら、さくらはこくんと頷いた。
「・・・あ、それでしたら、何年か後の今月に私を貰って下さいね」
「何年か後の今月?」
「ええ。『6月の花嫁は幸せになれる』って言いますから」
そう言って、さくらは照れたように笑った。
「ジューンブライドか、なるほどねー」
でも、6月でなくても、俺はこの娘を幸せにしてあげよう。
心の中で、俺はそっと誓った。
「さて、それじゃあ湿気よさらば! 除湿器、スイッチお〜ん!」
ぽちっとな、と、お約束の台詞を言いながら電源スイッチを押す。
「コレで、『しばらくほっとくと、室内はからっと乾燥、イヤな湿気やカビも全てシャットアウト!』・・・かぁ」
説明書の同じ所を読み直して見る。
「何か、怪しげな訪問販売とかテレビ通販とかの宣伝文句みたいですね」
「そうだねー」
さくらのツッコミに、激しく同意。
「あ、でも」
と、さくらはくんくんと部屋のにおいをかぐと。
「これ、かなり効果有りますよ。あっという間に部屋の湿気が減って来ました」
「そっか、さくらが言うなら間違い無いねー」
そう言うと、今度はさくらが俺の横にちょこんとすわって、寄りかかって来た。
「おかげで、こうやってべたべたしても、暑く無いです」
「・・・そうだね」
しばらくの間、そうやって二人、寄り添っていた。
・・・しかし、べたべたって表現も、また古いなぁ。
「気にしてはいけません」
「さいでっか」
− 終わり −