「梅雨の合間の/6月13日」
(Episode:柏木 初音(痕)/6月の小噺・その3)
*使用キーワード
・梅雨入り
・夏至
・蝉の鳴き始め
ぼーん、ぼーん、ぼーん・・・。
「・・・3時か」
居間の柱時計の音で、目が覚めた。
起き上がって障子を開けて、空を見上げると、雲の合間から僅かに日が差して居るのが見える。
「・・・起きるか」
軽く背伸びをして、俺はその場に起き上がった。
うん、十分な位昼寝は出来た。
梅雨入りしてから、およそ一週間が過ぎた頃。
『就職研修』と称して、俺は柏木の家に来て居た。
他の仕事・・・と言うのも考えて見たのだが、結局は千鶴さんの鶴来屋を手伝う事にしたのだ。
まあもっとも、しっかりと採用試験は受けさせられる事になって居たが。
その試験の日は、21日。丁度夏至の日だ。
で、試験勉強をして居たのだが、ちょっと疲れたんで、軽く昼寝をしたと言う訳だ。
「さて・・・と」
と、俺はそこで、座ぶとんの上に寝転がって居た筈なのに、いつの間にかタオルケットがかけられて居た事に気がついた。
「あれ? 誰か帰ってきてるのかな?」
そう思って、居間の方に行こうと思った時、開けたふすまの間からひょこっと初音ちゃんが顔を出した。
「あれ? 耕一お兄ちゃん、起きたの?」
「ああ、今目が覚めた所だよ。・・・ところで、コレかけてくれたの初音ちゃん?」
「うん、学校から帰ってきたら、お兄ちゃん気持ち良さそうに寝てたから、風邪引いたら大変だなぁって思ってね」
「そっか。さんきゅ」
そう言った瞬間。
ぐ〜。
「・・・ぐあ」
腹の虫が思いっきり鳴った。
「お兄ちゃん、おなか空いたの?」
初音ちゃんはそれを聞いて、少し驚いたような顔をしながら聞いてきた。
「うーん・・・そんな気もするし・・・でも、今何か食べたら、晩ご飯が大変な事になりそうだしなぁ・・・」
「それだったら、おなかの足しにはならないかもしれないけど、おやつに買ってきたアイスが有るよ。一緒に食べる?」
そう言って、初音ちゃんは返事も聞かずにぱたぱたと台所に向かって走って行ってしまった。
・・・と思ったら、手にアイスを二つ持ってぱたぱたと戻って来た。
実に素早い事で。
「はい、どうぞ」
「あ、ああ、ありがとう」
「雨も上がったから、ここで食べようよ」
そう言って初音ちゃんは、中庭に面した縁側に腰掛け、足をぶらぶらさせながら早速アイスを食べ始めた。
俺も習って隣に座ってアイスを食べ始める。
「お兄ちゃん」
と、突然初音ちゃんが話しかけてきた。
「ん? どうした?」
「こうしてると、夏が来たって感じがするよね?」
「んー・・・まあ、まだ梅雨明けになって居ないけどね」
「うん。でも・・・ほら」
そう言って、初音ちゃんは耳を澄ます格好をする。
つられて同じ様に耳を澄ますと・・・。
・・・じりじりじりじりじりじり・・・。
「お、セミの声」
遠くでセミが鳴いて居るのが聞こえた。
「うん、今年のこの辺りの鳴き始めだね」
「・・・そうだな」
梅雨の合間の空模様。
夏は、間違いなく近い。
− 終わり −