「食欲の秋」
(Episode:HMX−13・セリオ(ToHeart)/突発企画シリーズ第1段)


 とある、秋晴れの日の事。

 あかりは何やら実家の用事とやらで家に帰っていて。
 マルチとセリオは定期メンテナンスでこれまた研究所の方に帰っていて。
 つまりは、家にはオレ一人。
「ふー・・・」
 何つ〜か、久しぶりに一人の生活を満喫していた。
 っても、つい4年前位までは一人暮らしっぽい事してたんだよな。
「さて、と」
 取り敢えず、最近のお気に入りのポジション、縁側に出る。
 ここの所、暇さえ有ればここに出て、本を読んだり昼寝したり。
 ま、大学生なんて気楽な身分なもんだ。
 ・・・って言ってられるのも、あと1年なんだけどな。
「よっこらせっと」
 がさ。
「・・・っと、何だ?」
 縁側に腰かけると、何やら落ち葉をつぶしたような音。
 見渡してみると、縁側の上から庭中まで落ち葉だらけになっていた。
 そうか、気が付けばこんなに秋は深まってたんだな。
「ふむ・・・」

 そして数分後。
 竹ぼうき片手に落ち葉を集めてるオレの姿があった。
 オレ自身、基本的に掃除とかは進んでやる方では無かったが、今日は一つ目的が有る。
「ふんふんふふーん♪」
 鼻歌交じりで落ち葉をかき集めて。側にはサツマイモが3本ほど。
 これだけ有れば、やることはただ一つ。
「・・・焼きイモですか?」
「ああ、これだけ落ち葉が有れば旨く焼けるだろう・・・って、のわあっ!」
 突然後ろからそんな声が聞こえてきたので、オレは思わず飛びのいた。
「あ、驚かせてしまいましたか。申し訳ありませんでした」
 そこには、そう言ってぺこりとおじぎをするセリオが居た。

「へぇ、メンテ、早く終わったんだ」
「はい、おかげさまで」
「そっか、そりゃあ良かった」
「ありがとうございます。ところで・・・」
 そう言ってセリオはちらり、と落ち葉の山を眺めたが。
「焼きイモをする場合、焼くイモをあらかじめ茹でるか電子レンジである程度調理してから焼きますと、早く焼けて、しかも生焼けにもなりません」
「なるほど」
 それは気がつかなかった。
 つーか、『たき火で焼きイモ』って、どうも生から焼くって言うイメージが有るんだが?
「確かにそうですけど、この落ち葉の量では、イモが焼ける前に火が消えてしまいます」
「なるほど、そうかもな」
 と言う事で、セリオ案、採用決定。

 そして数分後。
 香ばしい香りがたき火の方から漂ってきた。
「ん〜。秋って言えば、やっぱこれだよなぁ」
 別段寒くはないんだけど、何となくたき火にあたってみたり。
「食欲の秋、ですか?」
 火箸でイモを転がしながら、セリオが聞いてくる。
「そうそう。やっぱり、人間食べる事は最大の楽しみだしね」
「・・・そう言う物なのですか」
「そうそう、そう言うモノ。・・・って、そうか、セリオはロボットだったもんな。時々忘れてるけど」
「いえ、気になさらずに」
 そう言って、にこりと微笑むと、またセリオはイモ焼きに専念する。

「はい、焼けましたよ」
「お、さんきゅ」
 焼き上がった所を、皮をむいて。
「っと、あちち・・・おう、やっぱこれだよ」
 はぐはぐっと、熱い所をほうばる。
 ん〜、やっぱ、焼きたてはすごく旨い。
「・・・どした? 何か、すごく嬉しそうにこっち見てるけど?」
「? そうですか?」
 首を少し傾げるような動作をしながらも。
 セリオは何やら嬉しそうに、オレがイモを食べおわるまでの間ずっとこちらを見ていたのだった。

− 終わり −