「解禁・・・?」
(Episode:月宮 あゆ(Kanon)/KeySSシリーズ・その5)


「・・・日差しが、強くなってきたな」
 校門を出て、ふと空を見あげると、そこには夏模様の太陽が見えて居た。
 まあ、俺が前に住んで居た所に比べるべくもないが、それでもこっちの気候で考えれば、暑い方の部類に入るだろう。

 帰りがけ、ふらっと寄った商店街。
 ここでも、季節は春から徐々に夏に移り変わろうとして居る。
 店頭の春物は消え、代わりに夏物が目立つようになってきた。
 ――この北国でも、夏はやって来る。
 そんな事を実感させられる季節。
「ふぅ・・・」
 ひなたを歩いて居ると、額に汗が滲んできて居るのがよくわかる。
「さて、どうしようか・・・ん?」
 と、ふと目が「それ」に行った。

『たい焼き80円 ソフトクリーム有ります 200円』

「へい、らっしゃい」
「よう」
 このたい焼き屋は、ちょっとした事で顔なじみになって居た。
「おう、あんちゃんか」
「何でたい焼き屋でソフトクリームを売ってるんだ?」
「ん? 何でって言われてもなぁ・・・。やっぱりこれからの季節、たい焼きはなかなか出ねぇからよ」
「・・・なるほど」
 でもまあ、この時期、あいつなら間違いなくたい焼きを買うだろう。
「・・・って、そう言えば今日は6月1日だったよな・・・」
 ふと、頭に閃くものがあった。
「おっちゃん、たい焼き1ダース」
「へい、まいどあり」

 10分後、俺は予想被襲撃ポイントへと移動した。
 一見何でもない風を装って、普通に歩く。
 そして、その場所に来た時。
「おーい、あゆ〜! たい焼き持ってきたぞ〜、一緒に食わないか〜?」

 ・・・・たたたたたたたたたたたたたたたっ!

 次の瞬間、遠くの方から見慣れた羽根リュックが走ってきた。
 ・・・違った。羽根リュックを背負ったあゆが走ってきた。

「祐一君!」
「お、来たな、あゆ」
「来たな、じゃ無いよ! たい焼きを出せばボクが来るとでも思ってたの?」
「・・・現に来てるじゃないかよ」
「うぐぅ・・・」
 俺が突っ込むと、あゆは涙目になっていた。
「まあ、泣くな。ほら、たい焼きだぞ」
 俺は、半べそのあゆに持って居たたい焼きを半分渡してやる。
「ありがとう♪ はむはむ・・・うん、おいひいほ」
「口の中に物を入れたまましゃべるんじゃありません」
 ぺし、っと、舞直伝チョップ。
「うぐぅ・・・わかったよぉ」
 あゆはまた半べそを書きながら、それでもたい焼きを食べて居た。
「しかし、さすが解禁日の事だけは有るな。こうも簡単に釣れるとは」
「? 釣れるって、何の話?」
 あゆが解らないと言う顔をして聞いてきたので、俺は手に持って居た紙を見せてやった。
「何、これ・・・新聞の切り抜き? えーと・・・『相模川、鮎漁解禁 6月1日』・・・」
「と言う訳で、今日は解禁日なんだ」
「うぐぅ・・・ボクは魚じゃない〜!」

− 終わり −