「お目覚めの・・・」
(Episode:水瀬 名雪(Kanon)/KeySSシリーズ・その1)


 ・・・・・・。
 ・・・。
 意識が覚醒していくのが解る。
 視界が白く染まっていた。
 コレは多分、窓から差し込んで来る光だろう。
 でも、今日は休みだ。
 俺は、惰眠を貪り続ける事にした。

『朝〜、朝だよ〜』
 ・・・と、眠くなりそうないとこの彼女の声が、目覚ましから聞こえて来た。
 しまった、昨日いつもの癖で目覚ましのスイッチを入れて寝たらしい。
『朝ご飯食べて学校行くよ〜』
「・・・今日は休みだ」
 俺はそう言って、手だけ伸ばして目覚ましののスイッチを切る。
 再び訪れる沈黙・・・。
「朝〜、朝だよ〜」
 沈黙・・・の筈が、まだ声が聞こえて来る。
「朝ご飯食べてお出かけするよ〜」
「何か、今日の目覚ましはしつこい上にセリフが違うな・・・」
「だから、私は目覚ましじゃないのに・・・」
「・・・眠い」
 俺はそうつぶやく。
 頭の中はまだふわふわと白い中を漂っているようだ。
「今日はお出かけする約束だったよ?」
 困ったような名雪の声が聞こえて来る。
「でも眠いものは眠い」
「・・・もしかして。祐一、寝ぼけてる?」
「うーん・・・多分」
「じゃあ、どうしたら起きてくれるの?」
「そうだなぁ・・・目覚めのキスとか・・・」
「わっ、そんな恥ずかしい事出来ないよ〜」
「じゃあ起きない」
「・・・・・・」
 と、声が止んだかと思うと、白かった視界に影が差した。
 そう思った瞬間。

 ちゅっ。

 独特の音と共に、頬に感じた柔らかい感触・・・。
 がばっ!
 俺はふとんを跳ね飛ばして起き上がった。
「わっ、効果てき面・・・」
 見ると、顔を赤く染めた名雪が、にこやかに笑って立っていた。
「おい、名雪・・・今のって・・・」
「だって、祐一が変な事言うから・・・」
 そう言って、赤い顔を更に赤く染めてうつむいてしまう。
 ぬう、可愛い奴め・・・じゃなくて!
「・・・俺、今寝ぼけて変な事言ってたか?」
「うん、祐一が変なのはいつもの事だよ」
 余計なお世話だ。
「・・・ところで、お出かけって?」
 俺は、気まずい雰囲気を吹き飛ばす為に、名雪が言っていた言葉を思い出して聞いた。
「やっぱり忘れてる〜・・・」
 そう言った途端、不機嫌な顔になる名雪。
「昨日、約束したじゃない」
「昨日?」
 昨日、昨日と言えば・・・

『ねえ、祐一?』
『何だ?』
『明日って、暇?』
『まあな。明日は日曜日だし、一般的な学生は暇な筈だ』
『じゃあさ、明日お買い物に付き合ってくれない?』
『・・・そうだなぁ・・・そうだな』

 そんなやりとりがあったっけ。
「ほら、天気も良いし、早く行こうよ〜」
「解った、解ったからまずは着替えさせてくれ」
「うん、じゃあ下で待ってるね」
 にっこりと笑って、名雪は部屋から出て行った。
 ・・・と思ったら、ドアから顔だけ出して。
「ところで祐一?」
「? まだ何か有るのか?」
「明日も、『御目覚めのキス』、いる?」
 名雪はそう言ってにっこりと笑った。
「・・・な・・・な・・・何恥ずかしい事言ってるんだよ〜!」

− 終わり −