「いめちぇん」
(Episode:HMX−13・セリオ、保科 智子/投稿作品
/セリオお誕生日SS/投稿者:ふうらさん)
「……研究員の皆さんに、誕生日には何が欲しいかと、訊かれました」
「私は何を必要としているのでしょう?」
……私に訊かれても、困るんやけどな。
「そんなん。自分で考えることやろ?」
「はい。最終的な判断はもちろん私自身が致します。その為に、私を知る皆様から広く参考意見を求めています」
だから私を呼び止めたんか。まあ、知らん仲でもないしなあ……。
「お聞かせ願いたいのです。現在の私に欠けている物とは、客観的に見て、なんであるかを」
買い物は済んでるし。美容室の予約の時間は、まだまだ先、しばらくはヒマ。
時間潰しの本屋チェックなんざ、それこそいつだってえーし。
「ん。つきあうわ。いこか」
訊けば、すでに一週間近くも過ぎているという。
「保留にしていただいてます」
メイドロボに誕生日ね……、いや、知らんかった。
「あー、悪いんやけど、さっきお財布軽くしてん……。ごめんな、その分、キッチリ相談のるわ」
「保科様が私に何かを贈る義務はございませんから、お気になさらず」
「……。あんた、もーちょい、言葉に気ぃ配らなあかんと思うよ」
「何か失礼なことを申し上げてしまいましたか?」
「前半が余計。にっこり笑って『お気になさらず』だけ、ゆーとけばええんやない?」
「そうですか、わかりました。気を付けます」
「まず。アンタの思考の流れが間違いや」
軽く首を傾げる。
「欠けてるもの、つまり、機能を付加してもらうんが誕生日プレゼントなん?」
「はい」
「なんかやろか言うてるあっちも、そー思てる思うん?」
「いえ。……ですがお互いの関係的に、それがベストであるかと」
「なんでやの」
「贈り物とは金銭の多寡ではないと聞きます。自分に出来ることをして差し上げる、そのココロこそが重要であると」
む。考えてる。ナカナカ深いんやな。
「貰う側の要求が、贈る側の特化した技能を必要としたものならば、他の誰でもない自分が相手に何かをしてあげたという、贈る側の満足度がより高まると考えました」
「……あー、了解」
気ぃ回すロボットやね。
「それは間違ってない。私の読み違い」
「で、アンタは何が欲しいの?」
「私にはどのような機能が欠けているとお考えでしょうか?」
「……」
「――保科様、軽いリサーチですので、深くお考えになられませぬよう」
ちっとアタマ使ってみる。
「皆様にご奉仕するんが私の喜び、イコール機能強化こそが最高のプレゼント?」
「ご明察の通りです」
「でもなぁ……。んーと、こーゆーんは?」
「はい」
「セリオの喜ぶ顔が皆の望むもの、イコール最高のご奉仕っての、どやの?」
「その通りです、ですから……」
「待ち。機能強化で人間様に一層のご奉仕が出来るいうて喜んでるメイドロボって、贈る側の気持ちにマイナス要素やないん?」
「そうでしょうか?」
「結局、利が回ってくるわけやろ、贈る側に」
「利……思考の流れとしては、そうなるかも知れませんね」
「メイドロボにプレゼント。難しい命題やね……」
うんうんと肯く。
「だからや、この場合、毒にも薬にもならん、無邪気なトコで手ぇ打つんが大事やない?」
「無邪気……ですか」
「そやね、作った連中の感覚的には、アンタまだ子供やろ、きっと」
開発期間が幾らや知らんけど。完成して一年か二年、たぶん、そんなもん。
「メイドロボにこんなん酷やもしらん。けど、ご奉仕、離れよ。なっ」
「――はい。わかりました」
……でも、出来ることなら、希望に添う方向でやなー。
「なんかないんか?」
「――」
ついっと視線を上に。セリオは空を見上げてる。
「アオ……ですね」
「んー、今日は雲ないな。目が醒めるような青空や」
「……」
「空を飛ぶ」
「はい」
「ハイ……って、あはは、冗談やったんやけど」
「結果的には、ですが」
「?」
「私……というものを突き詰めて考えた場合、プログラムですから。この身体に搭載されているに過ぎません」
「……で?」
「この身体は、重いのか、軽いのか……」
「重い、思ってるん?」
「……」
素材削って、機能削って、なんでもかんでもどんどん削って。物としての重みから開放されて?
「軽く、軽くなっても、空飛ぶんは無理やないの?」
風に吹かれて飛ぶサイズ、ぺらぺらのシート型セリオ? なんや、壁の隙間女の怪談、思い出してまったやん。気味悪いわ。
街を散策しつつ、あーでもない、こーでもない、いうて。
……ほとんど一方的に、私が喋ってるだけやったけど。
欲しいもの、ホントにナイんか……。
「ぎぶあっぷ。あかん、手に負えん」
「申し訳ありません」
「謝るこっちゃない。勝手に悔しがってるだけや」
「保科様との問答は、大変参考になりました。ご協力、感謝いたします」
そら良かったな。……はあ、ちっとも良かないわ。
「私な、これから髪切りに美容室行くんやけど……」
ふと、面白いこと思いついてまった。ヤバイかもしれん。……けど。
「アンタ、一緒に来るか?」
「私が……ですか?」
「ちょっと雰囲気変えてみるとか……いっそサッパリ切って、ショートにしてみる……」
……ま、ええやろ。気にしない。
「――興味深い提案です」
「さっきのアレ。さすがに浮きはしないけど……。重い気分の時、切ってみると、気持ち軽くなるもんやし」
「……」
「そう、なんや、生まれ変わる気分やね」
見事なロングやけど、でも……。
ショートカットセリオ。うん、わりといいんやない?
「重量の問題ではなく、気持ちの問題……」
「ん。そやね。どお?」
「わかりました、ご一緒させていただきます」
美容室、空いてたもんやから問題ナシ。……もしかしてここ、売れてへんの?
私はいつもの通り、ちゃっちゃと毛先、整える程度。この長い髪、キッチリ編み込むのが趣味やし、バッサリ切ってまうわけにはいかないんよ。
……で、セリオはといえば。
「その耳飾り、取れるんやねー」
「散髪の邪魔ですので」
思い切りよく、ばっさり、カット。……知らんよー、私が勧めたんやけど。
「はぁ……」
似合うわ、ホンマに。なんやえらい可愛いから、長瀬のおっちゃんに、むっちゃ怒られるってことないとは思うけどなー。
「本日はご指導ありがとうございました」
ぺこっとアタマを下げるセリオ。短くなった髪が涼しそーに揺れてる。
「あー、その……、まあ、研究所の人によろしゅうなー」
あまりの変わり様に、私、ちょこっとビビリ入ってたりして。
いや、コレで良し。心配なし。おーるおっけーや、うん。ダイジョブダイジョブ。
「ほ、ほななぁー」
インチキ大阪人風挨拶かまして、にこやかーに退散しよ。
「保科様、心なしか、お顔を引きつっておられましたか……?」
しばらくして。
風の噂に、短髪セリオは大好評を博したと聞いた。
「私の勝ちやっ!」
「なんだなんだ、委員長、なんでガッツポーズしてんだよ?」
……で、結局、プレゼントなに貰ろたん?
「研究所の皆様総出で拵えて下さいました。ヘリウムガスを注入した小型バルーンの空中歩行ユニットを……」
2001.02.18 ふうら