− 番外編その2 Heart to Heart −

 皆さんこんにちは。我等がHM-13、セリオです。
 セリオ、は正確には商品名なのですが、私のユーザーの多くはそのままセリオと呼んでいる様ですね。私のマスターもセリオと呼びます。
 マスターはなかなかにキテる…いえ、才能豊かな御方で、御自身で擬似感情システム『T〇 Heart』を完成させました。
 おかげで私も「はわわ〜〜」「おにいちゃ〜ん」「……電波、届いた?」「…ふっ」「なぁなぁなぁ、遊んでぇなぁ」という様に、さまざまな感情を表現することが出来るようになりました。
 まったくもって素晴らしい御方です。
 マスターの才能は止まる所を知りません。
 私の48のお買い得ポイントのひとつである「サテライトサービス」はマスターのデータバンクとのリンクにより、正に無限の可能性を手に入れました。
 白い家の某大統領がジュースをこぼしたとか、某氏がまったりしてるとか、某氏が仕事中にSSを書いているとかが手に取るようにわかります。
 ですが、そんな私でもマスターの嗜好を理解すること、未だかないません。
 つい先日も「いか〜〜〜ん!!」と、とろろをひっかけられてしまいました。
 優秀なのも考えもので、それはそれは痒かったのですが、マスターが一晩中…いえ、何でもありません。

 もちろん、優秀である私に敗北したままでいることなど許されません。
 数日間の修行のすえ、完璧なととろ…いえ、とろろを仕上げました。さすがは私ですね。
 ですがそのままでは芸がありません。私は一計を案じました。ふっふっふっ……。

「甘いな、セリオ!」
 そんな私にマスターの情け容赦無いツッコミが入りました。
 いったい何がいけなかったのでしょう?
 とろろも、わさびも、お米も、マグロも、ヅケにする為の醤油にいたるまで、細心の注意をはらったこの鉄火丼の、一体何が…
「このマグロがいかん」
 それがマスターの回答でした。簡単でいいですね。
 ですが、困りました。これは「どっち〇料理ショー」でも紹介された最高素材です。
 これを超えるものとなると、そうそう見つからないでしょう。
「セリオよ、高い素材を使うだけでは良い料理とはいえないぞ」
 すっかり考え込んでしまった私に、やさしいマスターはヒントをくださいました。
 ああ、なんて素晴らしい御方でしょう…。

 そして、その次の日から私の戦いの日々が始まりました。
 すべての機能を120%使いきり、すべての情報ネットワークを使いきり、それでいてなお、マスターを満足させることが出来ませんでした。
 いまの私ならあの味〇子にも、秋山ジャ〇にも勝てるでしょう。ですがマスターは「良し」とは言ってくれません。
 ……もうすぐ1年です。流石の私も疲れてしまいました。
 今作っているこの鉄火丼が、私の作る最後の鉄火丼かもしれません。
 ですから、私はマスターの為に、愛を込めてこの鉄火丼を作ります。
 私の愛するマスターに、本当においしい鉄火丼を食べて欲しいから…


 ……マスターは何も言ってくれませんでした。
 今日もダメだった様です。私はなんてダメなロボットでしょう。マスター一人満足させることが出来ないのです。
 もういいです。私は、疲れました。さよなら私の鉄火丼……
「おい!」
「きゃあ?!」
 びっ、びっくりしました!いつのまにかマスターが私の後ろからチョップを入れてきました。ぺしっ、と。
「な、なにをするんですか〜〜!」
 つい涙声になってしまいます。そんなうるうるな視線を向けていると、マスターが恥ずかしそうに言いました。
「…きょ、今日の鉄火丼は…うまかったぞ」
「ふぇ?」
 思わず、そんな情けない声を出してしまいます。
「いいか、セリオ。料理という物はいくら素材が良くても、技術があってもだめだ。一番大事なことは心だ」
「こころ…」
「そうだ。愛する人の為に、最高の愛情を注いで作った料理より上手い物など、この世には無い!」
「愛する人…マスターの為…」
「うむ。今日の鉄火丼には、お前の心が、愛が感じられた。だから上手かった」
「マ、マスター…」
「この1年、長い道のりだったけど、これでお前は、本当に人を愛することを覚えたんだ」
「あ、あ、……」
「ありがとう、セリオ。こんな僕を愛してくれて。そして、よくがんばったね」
 ああっ!私はもうあふれる涙を押さえることが出来ません。私はこんなに愛されていたのです。
 私は何と幸せなロボットなのでしょう!!

 そうです。私はこの人を愛しています。
 いまは胸を張って、そう言うことが出来るんです。


<終>


<あとがき>


今回も番外編。
一応他のところ用に書いたんだけど、締め切りは一ヵ月後だし、堪え性ないんで公開。

久々に「長い」と蹴られてしまった番外その2。
本編その1以来の大作だぞぅ(笑)
キーワードは「マグロ」だ!(´▽`)