「セリオ、海に行こうか」
「はい?」
急にそんなことを言い出す僕に、小首を傾げながらセリオは聴き返した。
「海、ですか?」
「うん、なんかね。海が見たくなった」
「急ですね。」
「まぁ、いつものことさ」
「わかりました。」
「・・・ダウンロード終了、ロードナビゲーションスタート、まずは新道に出てください。」
「よし、ゆくぞ轟天!」
思いっきりアクセルを踏み込ん…だりすると危ないのでゆっくりと車を出す。
燃料も心もとない、かといって補給する予算も無いので、あまり飛ばさない。
「よく、海に行こうって気になりますね。」
「…まぁ、そういう物だよ」
「…そうですか…そこを右です。」
「ぶら〜んにゅ〜は〜っ、いまここからはじまる〜…」
「セリオ、前にも言ったけど、その歌い方は止めてくれ」
「はい、すみません…うっ。」
「泣きまねしてもダメ。普通に歌って。僕はセリオの歌が好きなんだから」
「はい、ありがとうございます。」
そう、演奏から声まで再現するのはいいんだけど、口を半開きにして震わせるその歌い方は何とかして欲しい。
そんなこんなで小一時間。
僕達は今、港に立って海を眺めてる。
「海だなぁ」
「海ですね。」
「海が好き〜ってか?」
「私は女性型ですので…女だと思います。」
「…セリオ」
「はい。」
『ピシ、パシ、グッ、グッ』
「それはそれとして、やっぱり海はいいなぁ」
「そうですね。」
「命は、海で生まれたというからね。その遠い記憶が、この安心感をくれるのかも知れないな」
「私も、そう思います。」
「人々の心に限りないやさしさを、時に荒々しくもあるものよ…」
「そして人に糧をもたらす…」
「…そうだな」
平日だというのに結構人が来ていて、釣りをしている。
「暇人どもめ」
「マスターもです。」
ぐるりと横を見るとセリオはあらぬ方向に目を泳がせる。あとでオシオキだな(爆)
「しかし、僕も竿を持ってくれば良かったな…」
「こういう時に限って、積んでいませんものね。」
そう、いつもは積んでいるのだが、ちょっと訳アリでおろして以来積みなおしていない。
急に思い立って来たから、わざわざ積みなおしたりもしていない。
「どうしましようか?」
「ふふん、平日の昼間でもこれだけの人がいるんだ。何とかなるもんだよ」
そう言って歩き出す僕。セリオも不思議そうな顔をしながらついてくる。
「ほら、あった」
程なくして、僕は釣り針を見つけた。
「…なるほど、人がたくさん来ていれば、それだけごみも多いですね。」
「そう、あまり誉められたことじゃないけどね」
そんな調子で、糸もエサもそろった。
「竿がありませんが…」
「なに、魚は沖にいるというのは素人考えさ」
そう言って、足もとのテトラの間に糸をたらし、誘ってやる。
「…なるほど、青い鳥ですね。」
「そう…幸せは…んっ!」
「「足元にある」。」
そうして上がってきたのは20センチほどのアブラコ(アイナメ)だった。
「よし、大漁だ!」
「…一匹ですが…」
「いいんだよ、どうせそんなに食べないんだから。資源は大切に、な」
「そうですね。」
「さて、ここからはセリオの仕事だぞ。上手い料理を頼むな」
「はい、マスター。」
こうして今日も過ぎていく。
世は押しなべてことも無し。
<終>
<後書き>
今回は番外編です。
「僕」はいつもの「僕」ではありません。
本編とのつながりはありません。
マンガ祭りみたいなノリですか?
1/3ほど、実話ですが・・・
海はいいなぁ、と(笑)。