「『耳の日』で小咄一つ」
(Episode:HMX−13・セリオ(ToHeart)/投稿作品/投稿者:北村信治さん)


「こんにちは、浩之さん。」
 いつものバス停にはいつもどうりセリオがいた。
「よっ、セリオ。今日は一人だな。」
「はい。」
 いつもならマルチを待っているってところだが、今日は来栖川の屋敷に行くということでマルチは芹香先輩と一緒に帰っていた。
 おかげでセリオとの甘い一時(?)を・・・・・・と、そこで俺はセリオがいつもと違うことに気づいた。
「なぁ、セリオ?」
「はい、なんでしょう。」
「その耳のやつって、マルチのか?」
 そう、今日のセリオはマルチがつけているようなセンサーをつけていた。
「正確には違います。しかし、形状的にはマルチさんと同じです。」
「なんでまた?」
「はい、先日『センサーユニットの形状がとがっていて怖い』という意見がありましたので、手近な所でマルチさんタイプを試作したのです。」
 ふうん、とうなずきながら俺はセリオの周りを回ったりしゃがんだりしていろいろな角度から見てみた。
「結構印象変わるもんだな。」
 センサーの形が違うだけ、でもそのセンサーがマルチがいつもつけてる形のせいか、なんとなく雰囲気が柔らかくなったような気がする。
 セリオ自身はいつもどおりなのに。
「浩之さん。」
「ん?」
 そんな事を考えていると、不意にセリオに呼ばれた。
「浩之さんは、このセンサーのほうがよいですか?」
 そう聞いてくるセリオが不安そうに見えるのは、気のせいだろうか?
「気になるか?」
「はい・・・製品化の際の貴重な意見ですから。」
 いつものようにそっけない返事だったが、目があさっての方角を見てる。
「・・・・・・」
 ポン、と頭に手を乗せるとぱちくりしながらこっちを見る。そのままなでてやりながら俺は言った。
「そんなこと、気にするなよ。まぁ、おまえの妹たちはそういう訳にもいかないかもしれないけどよ。それに、センサーの形が違ったって、お前はお前なんだから。」
「・・・・・・ありがとうございます。」
 そんなセリオを、俺はバスが来るまでなでてやっていた。

− 終わり −